「就活」の2文字を見ると、今でも少しひやりとする。私はいわゆる「氷河期」世代。あまりのしんどさに就職を諦める友人も出る中、試行錯誤の末に遅い内定を受けた時には「もうあんな目に遭わなくていいんだ!」と、心からホッとした。それほど就活は、つらい体験の連続だった。
ただ時間が経って考えてみると、もっと他にやりようがあった気もする。採用側に回ったことで、初めて見えたこともある。あの時、私は何を知ればよかったのか。要らぬ苦労はなんだったのか。自分にできていたこと、できていなかったことはなんだろうか──。今さらながらそんな答え合わせをしてみたくなり、本書を手に取ることにした。
著者の肩書は「大学ジャーナリスト」。耳慣れない単語だが、大学や就活にくわえて、それらに関連するテーマである教育や転職・キャリアについても、20年近い取材歴を持つ専門家だという。「はじめに」と題された冒頭では、この経歴が「私の強みは~」といった書きぶりで載っていた。「なんだか自己PRみたい」と思っていたところ、著者自身もそう書き添えていたので思わず吹き出す。読み始めの緊張がほぐれていった。
いっぽう、各章のタイトルは刺激的だ。「就活時期はウソだらけ」「『インターンシップわからん』で就活格差」「間違いだらけの就活準備」……もし自分が就活生だったら、焦る気持ちで食い入るように読み進めたことだろう。「スタートラインに立つ前の話」が立て続けに挙げられている。
たとえば第1章の最初では「就活のタテマエとホンネ」と称して、就活時期の具体的な流れが紹介されていた。その上で著者は、就活ルールと実際のスケジュールが別に動くことについて、とても重要な「前提」を説明する。
ここで学生が誤解していることを先にお断りしておきます。
日本の就活時期は法律で規制されているわけではありません。もっと言えば、法律で規制することは不可能です。(中略)
日本の大卒採用は1915年ごろに定着しました。それから100年以上の歴史があります。その間、就活時期を規定する動きは何度もありました。が、いずれも法律ではなく、企業間ないし経済団体の自主ルール(紳士協定)という形でまとめられています。当然ながら、法律ではないため、破っても罰則がありません。そのため、就活ルールは1928年に日本で最初の就職協定が発表されてから、できては潰れ、潰れてはできて、の繰り返しです。
言われてみれば当然のことだが、考えてもみなかった……! 就活当時、なんとなく「実際の活動解禁と情報が流れ始めるタイミングってずれてるなあ」と感じていたが、実はそれこそが前提だったとは。また今に至るまで、あやふやな形でそのルールが続いていることにも驚いてしまう。純朴で情報の少ない学生ほど痛い目を見る構造に、かつての自分を思いやる。
そして今は、コロナショックのさなか。「調べて、知って、さらに動く」ことが、例年以上に重みを増していた。2021年卒の就活において明暗をわけたのは、インターンシップへの参加の有無だったという。著者の調べによると、現在その形は32ものパターンに分かれているそうだ。これは学生のみならず採用側にとっても有益な情報ではなかろうか。自社で行っているインターンシップが最適解なのか、考える余地が生まれる。
後半では、エントリーシートの書き方やその重点、採用側の受け止め方なども具体的に語られる。
ES対策本やネットに出ている情報を見ていきますと、確かに、内定者のESは、わかりやすい成果・実績を元に構成されています。しかし、ここが就活生の誤解の元となっています。ESはわかりやすい成果・実績の有無を問うものではありません。文章力、再現性の有無、校正の把握などの総合評価によるものです。
就活生が自身のことを「しょぼい」「平凡」と思っていても、実は勝てるチャンスは十分にあります。
そうして「だから実績は気にするな、採用側は大抵のことをしょぼいと思っている」とつづる著者に、「じゃあ何をどう書けと!?」と思ったら、すかさずこの一文が飛び込んできた。
こう断言すると、就活生は、だったら、何を書けばいいのか、と悩むでしょう。大丈夫、まだ先があるから。
思考をすっかり読まれていたことに、つい笑ってしまった。おかげで続きの助言も素直に沁みる。具体的な内容は伏せておくが、採用する側として履歴書を読んでいた時、気にしていた点とも合致していた。納得の指摘。
ほかに昨今の特徴として、オンライン面接や自己PR動画の増加にも触れている。事実、昨年の採用を担当した知人からは、「面接中、Wi-Fiが途切れずちゃんと繋がって、音声や画像がしっかりしているだけで良い印象を受けた」という感想を聞いた。環境の整備については、本人だけでなくご家族の協力が必要な場合もある。背中を支える保護者の方にも一読をお勧めしたい。
就活の全体像をコンパクトに押さえた本書。知識で備えられることは増えている。多くのワナにハマった昔の自分へ届けたい気持ちを持ちつつ、これから活動される人にこそ、届くことを祈りたい。
レビュアー
元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。