数字でひとは動く
「文系だから」と言い訳して数字をことごとく避けて10代を生きて、20代でゲーム会社に入ってエクセルの前で「文系だからとか言ってる場合じゃない」と冷や汗をかいて、やがて「私、別に文系ってわけじゃなく、ただの数字嫌いなだけなんじゃ……?」と呆然としているのが30代の今だ。つらい。
でも、いくら数字が嫌いだろうが、もし仕事で誰かに動いてもらいたいなら、情熱的で真摯な言葉だけじゃ目的ははたせない。
裏付けとなる数字(データ)がいるのだ。役員だって他部署の人だって同じチームの人だって数字を見る。みんな息をするようにエクセルやGoogleスプレッドシートを開く。とくに今はリモートワークで直接会えない場合だって多いし、「なんとなくがんばる」が効かない。
そして自分の仕事を客観的に見つめるときも数字は必要だ。
見たくないものまでちゃーんと見せてくれる。
でも、どうやって数字を見ればいいの? 居並ぶ数字をただ読み上げればよい? だめだ、それじゃ無意味な儀式と同じだ。仕事における数字との付き合い方を『マンガでわかる ビジネス統計超入門』はマンガで教えてくれる。どういうものか?
「ビジネスの現場におけるたいていの問題の解決法は、データの中にある」(略)データを使って物事を「分解→理解→再構築」して効率化すること
むずかしそう……いや、大丈夫。
(略)中学校卒業レベルの数学がわかれば十分。今の世の中、細かい計算はエクセルが行ってくれます。それよりもまずは「数学・統計」の概念を理解し、「自分の知りたいこと(問題解決法)に辿りつくためには、どんなデータをどのように分析すればいいのか」を考え、実践できるようになること。
エクセルって便利だなーと思って生きてきたけれど、本書を読んで「私、まだ全然使いこなしてない!」と焦った。
ビジネスにおける分析を最初から教えてくれる
本書の主人公は社会人5年目の“須田健司”。
元気よく働いてる……と思いきや、実は彼はリストラ候補筆頭のダメ社員。でも自分では「給料分の働きはしてるはず」と思っているし、リストラの理由は「上司にきらわれているから」だと思っている。
そんな彼に喝をいれるのがこちら。
須田の大学の同期で経営コンサルタントとして働く“鳶島佑介”。鳶島は「お前の売上を分析してやる」と須田を助けることに。いいやつ!
分析なんてついていけるだろうか……と不安に思うかもしれないが、本書は「超入門」だということを次のシーンで思い出すはずだ。
須田は、入社5年目にして、ようやく自分の売上データと対面するのだ。ある意味すごい! つまり、これはデータ分析をイチから教えてくれる物語なんです。
まずは分析の第一歩としてエクセルの『ピボットテーブル』の操作方法から。
「エクセルのどこをクリックすればよいか」まで教えてくれるし、動画まで紹介されている。手厚い。
ここから少しずつ「須田がなんでリストラされそうになっているのか」がデータ分析によってあきらかになる。須田の売り上げはいくら?
須田のこの嬉しそうな顔、読者としてはイヤな予感がする。でもわかる。給料の4倍売ってるって思ったら、そりゃ安心するかも。
おっ、雲行きがあやしくなってきた!
須田の今の売り上げじゃ、須田の妥当な給料は12万2600円。きびしい! ちょっと売り上げデータを調べるだけで、須田のダメっぷりが可視化されてしまった。
では、どう改善していけばいいのだろう? これもデータ分析から導き出す。ここからさらに面白くなる。
どこがどうダメで、何を目指せばいい?
鳶島と須田の分析は少しずつ深くなっていく。須田が売り上げ的にダメダメなのはわかった。ではどこがどうダメなのかを、私たちの仕事でも使える統計をもとに掘り下げていく。
優秀な後輩と須田の売り上げデータを比較してみたり……、
お客さんへの配達の比率を調べたり……、
いくつかの分析を経てわかることは?
好きなものは配達するけれど、苦手分野の商品にはあまり手をかけないし、商品知識が薄い。
課題がわかったら、次は目標だ。こちらもデータ分析で具体的に立てられる。
エクセルの基本的な操作からフェルミ推定まで……! 本書は各章のおわりに丁寧な解説がついている。じっくりおさらいしてほしい。
それにしても「俺だってがんばってるのに!」とふてくされていた須田はもういない。
モチベーション維持にも分析は効果がある。分析、すごく便利!
須田はデータ分析によって改善点と戦略がわかり、着々と売り上げをあげていく。
実行して、効果があってもなくても検証する。ここで再びデータ分析に戻る。鳶島ほんといいやつだなあ。
あの須田が店長に提案を! 須田も別人のようだ。計画して、実行して、検証して、アクションを起こす。いわゆるPDCAサイクルをまわすことを、須田の成長を通してリアルに描かれる。
本書では、ビジネスのデータ分析で使えるエクセルの便利な操作方法や関数、そして考え方を知ることができる。マンガとわかりやすい解説によって、それらの武器を使って、私たちが仕事でどう成長していけばいいのかもイメージがつく。自分の仕事がなぜか今ひとつパッとしないなと悩む人の光になるはずだ。
【現代ビジネス記事】
「自分は会社でいくら売り上げているか?」統計で把握すれば、仕事で「ブチ抜く」チャンスになる はこちら
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。