これから働く予定のある人や「社会人だけど、実はよく知らなくて」という方に、今こそ読んでほしい。「めんどくさい」「知らなくてもなんとかなる」──かつての私もそうだった。だからその気持ちもよくわかる……!
しかし実際に理不尽な目に遭ってしまうと、無知は無力でしかない。助けが欲しいのに、何から知ったらいいのか、どこへ行けばいいのかもわからない。泣いてもわめいても、1人では何もできない日々。そんな出口の見えない事態を変えてくれたのは、法律に詳しい知人たちの助言だった。
そんな体験を持つ身として、まずは本書の帯にある言葉をお伝えしたい。
「法律を知らないために不利になる人が、圧倒的に多い。だからこそ、"自分を守る法律"を知っていただきたいのです」
もう、本当にこれ! 今思えば、労働に関する法律や会社の規則を知らないままに働くことは、無防備でしかなかった。ロールプレイングゲームの世界にたとえるなら、地図も装備も持たずに冒険へ出かけるようなもの。その状態で無事に済むと思う方がどうかしている。知らなければ何もできない。だが知っていれば守ることだけでなく、うまくすれば立ち向かうこともできてしまう。「身を守ること」は、「戦うこと」にも繋がっていく。そのために現実の世界で必要となるものこそ、法律の知識なのだ。
本書は社会人が働く中で直面する、さまざまな労働問題について触れている。条文名や判例の紹介など、専門的な内容を載せつつも、法律自体をそのまま書いているわけではないので、難しい文章が苦手な人でもスムーズに読めること間違いなし。冒頭には読み方の説明も載っており、表紙や各ページを彩るイラストや目に優しいフォントも、肩の力を抜くのに一役買っている。解説や豆知識的なコラムも、ソフトな語り口で読みやすかった。
各章では「雇用」「賃金」「ハラスメント」といった、現実に起こりがちな問題やトラブルへの対応策が、質疑応答形式で紹介されている。その横には根拠となる法律も添えられているから、初心者でも関連性がひとめでわかる。他に目についたテーマでは、「テレワーク」や「内定取り消し」など、最近の時世に沿った事例が載っているのも心強い。
後半では、「こんな風に生活は法律とつながっているのか!」という、新鮮な驚きを感じるページがいくつかあった。たとえば「子どもの看護休暇制度」。
子どものケガや病気で仕事を休まないといけないとき、就学前の子どもが1人であれば年5日、2人以上なら年10日まで看護休暇を取得できる法律があります。就業規則になくても取得でき、会社は業務の繁忙等を理由に、看護休暇の申し出を拒むことはできません。半日単位の取得もでき、2021年(令和3年)1月1日以降は時間単位でも取れます。ただし、賃金は保障されていません。
私はこの制度を使う必要がなかったので、法律の名前どころか存在すら知らなかった。せっかくなので子持ちで働く3人の友人に聞いてみたところ、2人はこの制度を利用したことがあったが、のこる1人は私と同じように、何も知らないまま該当期間を過ぎてしまったという。
利用した2人は「友人から聞いて知った。転職後は有給がなかったので、かなりお世話になった」「子どもの体調によっては、取得日数の限度まで使った年もある。有給を使い切った後で、総務に相談したら教えてもらえた。本当に助かった」と話していた。ちなみにこの制度を使えなかった友人は、制度を使えた内の1人と同じ勤務先だったが、会社からの説明や知る機会もなかったそうだ。
このケースでは、「社内の情報伝達に差があった」ということがそもそもの問題だった。しかし残念ながら、その手のフォローが薄い職場は、そこかしこに散在しているのも現実だろう。そういった場所で、ただ悲しんだり悔しがったりするだけでは、自身の時間がもったいない。事態に対抗できる力を個人で得るには、学んでしまうのが手っ取り早い。知っていればそれは必ず自分の身を助けてくれるし、めぐりめぐって、その様子を見ていた周囲の生活をも変えていけるかもしれない。
まずは目次から眺めてみよう。気になるところから読むもよし、今の生活に関係しそうな話から読む手もある。あなたの日常を支える力がここにある。この機会に、法律を味方にする最初の一歩を踏み出そう!
レビュアー
元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。