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2021.01.17

レビュー

読むだけで今日から料理の味が変わります!! arikoさんの料理のコツのコツ

在宅勤務をするようになって、家での食事が増えた。困ったのはごはんの種類である。以前ならば、ランチはその日の気分に合わせて職場周りのお店から選べたし、予定があれば夜も作らずに済んでいた。そういった選択肢がなくなった今は、テイクアウトを使いつつも、基本的には自分で作るしかない。とはいえ、私が知っているレシピの数では、あっという間に飽きてしまう。だからネット上の情報はもとより、書店や図書館に行っては料理書をチェックするようになっていた。

そんな中で読んだ本書は、レシピブックとして一風変わっていた。まず、「はじめに」とある冒頭の挨拶文は、著者ではなく担当編集者からのもの。その意図は、著者が「意識せずに行っていることを紹介したい」ことにあるのだそうだ。そして本文も変わった進行で、レシピ紹介よりも前に、編集者とライターが著者にあれこれ聞く様子が、インタビュー形式で収録されていた。これもまた新鮮な展開。

聞き手たちは時に「読者の視点」から、著者へ気になる点を質問していく。また別の場面では、著者から調理のコツやヒントを聞き出したり、料理を食べた感想などを元に、著者の知識を読者へ噛み砕いて伝える「良きアシスタント」としても存在していた。まるで、テレビの料理番組が2次元で再現されているかのよう! 対談中でわかったポイントや新たな情報は、インタビュー下部でまとめられている。読み返し時にもわかりやすいのはありがたい。


そうしてようやく紹介されるレシピは、ふしぎと解像度が上がって見えた。たとえば、どうしてパスタはその種類を選ぶのか。にんにくを炒める度合い、バルサミコ酢の選び方。そういったこだわりについて、事前のインタビューできちんと説かれている。だから実際のレシピを見た時に、並んだ数字の向こう側にある背景までもが、くっきりと理解できるのだろう。

紹介されているレシピは、家庭料理が多い。普段の材料で、いつもとは少し違った味を楽しんでみたい人向けともいえる。中にはこだわりの素材や調味料も挙げられるが、著者は「それ以外のものでも構わない」といい、具体的な代用品や省略できる手順までをも教えてくれる。そういった柔軟な姿勢と出来上がった時の味の確かさが、たくさんの人を魅了してやまないのだと思う。

一方、「お店で知った味」として、著者の通ういくつかの料理店も紹介されている。このパートでは、自宅でなかなか再現しきれない美味しさを踏まえた上で、著者アレンジのレシピが登場する。プロの仕事を称えつつ、その良いところを少しでも自身の料理へ反映させようとする著者の姿勢とセンスに何度も目を見張った。「食いしんぼうって偉大だなあ」と、思わず頬がゆるむ。


本のサイズはA5判。レシピブックとしては小柄ながらも、画面いっぱいに広がる写真は見応え十分で、読みながらお腹が空いてくること必至。また本書の帯には、板谷由夏さんによる「arikoさんの声が聞こえるよ!」ということばが書かれているのだが、まさにその通りの構成。インタビューの合間に書かれたエッセイも組み合わさって、著者を知らない私の耳にも、読み終わるころにはその声が届いた気になっていた。

本書で紹介されるレシピは、それぞれが互いに繋がっている。あちらを作れるようになれば、こちらにも活かせるという積み重ねが見えてくれば、どんどんと食べたくなって、作りたくなってくる。食べることも作ることも、そもそもは楽しいことだった。「日常業務」にしがちな料理をもっと自由に作れるように。ごはんを作るのが面倒になった時、何を食べていいかわからなくなった時、またページを開いて、忘れがちな気持ちを思い出したい。

レビュアー

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田中香織

元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。

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