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2020.10.03

レビュー

【同調圧力】新型コロナウイルスが炙り出した世間という名の「闇」に迫る

タイトルを見て内容が気になった方は、その直感をぜひとも大事にしてほしい。昨年までとは様変わりした時間が続く現在、あなたが日々暮らす中で何となく感じている違和感や、言葉にできず「これはなんだろう?」と苦しんでいる状況の正体を、この本はきっと教えてくれる。

本書は劇作家の鴻上尚史氏と、評論家の佐藤直樹氏による対談だ。鴻上氏は『「空気」と「世間」』(講談社現代新書)をはじめ、その著作や演劇をとおして、「世間」についての仕組みと弊害をずっと伝え続けてきた。佐藤氏もまた、九州工業大学の教授を務めるかたわら、1998年に「日本世間学会」を立ち上げ、代表として「世間」の問題と向き合ってきた。

そんな2人が今回、緊急事態宣言が続く中で、あえて対談を行い発表することに決めたのには理由があった。その発端は、鴻上氏がSNS上から感じとったある種の「危機感」だった。

じつは、対談をお願いした佐藤直樹さんが「コロナと世間」について、二〇二〇年五月に、あるサイトに書かれた文章を僕はツイッターでリツイートしました。
コロナによって「世間」がどう現れ、「同調圧力」がどう激しくなったかという内容でした。
(中略)それでも、ツイッターでの僕へのリプライで「目からウロコが落ちた」「私が苦しんでいたのは世間のせいだったんですね」という言葉をたくさんもらいました。──鴻上氏のまえがきより

リツイートを読み、言葉を寄せた方々は、かねてより鴻上氏の著作や活動に興味を持って見ていた人たちであろう。だがそういった人々にすら、氏がこれまで必死に説いてきた「世間」についての知識や対策は、十分に伝わっていなかった。その事実は鴻上氏に、大きな驚きと焦りをもたらした。

あなたを苦しめているものは「同調圧力」と呼ばれるもので、それは「世間」が作り出しているものです。それがコロナで狂暴化したことによって、「荒れるSNS」や「自粛警察」や「自粛の強制」が生まれたのだと、伝えたいと心底思いました。──鴻上氏のまえがきより


知ることは力になる。対峙するものの正体や内実を知らなければ、戦うことはおろか、正しく恐れることも難しい。だからこそ鴻上氏は佐藤氏に声をかけた。その道のプロである2人が、「同調圧力」を生み出す「世間」のメカニズムと対処法を共に伝えることで、これまで以上に広く、より多くの人へその知識を伝えることを目指したのだ。

そんな経緯で誕生した本書は、テーマごとに分かれて進行する。序章では主に、コロナ禍における現象が「戦時」というキーワードと共に語られていく。続く第一部では、「日本」という国が歩んできた歴史が生み出した風習、ルール、常識といったものを丁寧にひも解き、時に他国のそれと比較することで、「世間」の実情をあぶりだしていく。

そして第二部では、「同調圧力」の正体とその対処法が提示される。その中では、近年よく知られるようになった「忖度」や「自己責任」といった、「なんとなく抗いがたい」力を持つ言葉の数々も取り上げられている。2人のやり取りは、そういった言葉にひそむ「世間」との関係と意味を明らかにすることで、その理屈を骨抜きにする。それには胸がすく一方、自分なりに立ち向かう方法を手に入れることの重要性も実感させられた。

最後に、印象に残った第二部の一節を紹介したい。

鴻上 (前略)世界は簡単には変わらない。世間や同調圧力を一気に消し去る特効薬があるわけでもない。ただ、「楽かもしれない」道を模索することは大事だと思います。
佐藤 つまり、息苦しさを与えている「敵」の正体を知るということです。
鴻上 もやもやした目に見えない何かに苦しめられるのはほんとうにつらいです。だからこそ、知ることなんです。
佐藤 息苦しさは、あなたに責任があるのではない、と。

そう、きっと時間はかかる。でも彼らの言葉を胸に抱きつつ、諦めそうになった時にはまた本書のページを開くことで、きっと息をつくことができるはず。これからの日々と向き合っていく、大事な「糧」となる1冊だった。

レビュアー

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田中香織

元書店員。在職中より、マンガ大賞の設立・運営を行ってきた。現在は女性漫画家(クリエイター)のマネジメント会社である、(株)スピカワークスの広報として働いている。

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