今日のおすすめ

PICK UP

2019.06.15

特集

食物アレルギー治療は正しい診断が決め手。診断の手順と上手い付き合い方

■食物アレルギーは正しい診断こそが治療への近道

ある食べ物を摂ると口の中やのどの奥がイガイガする、かゆみや痛みを感じるなど、気になることはありませんか? 重症になると命に関わることもある食物アレルギーは、食生活や環境の変化と深く関係していいます。正しい診断こそが治療の近道。今回は、食物アレルギーの診断の手順についてレポートします。

診断の手順 まずは問診

病院を受診する際には、医師に症状をできるだけ詳しく伝えることが大切です。とくに、乳幼児の受診では、母乳やミルクの摂取量、離乳以降なら何をどの程度食べ、どんなときに、どのような症状が出たかを日誌につけておくことをおすすめします。 母乳哺乳後に赤ちゃんの様子がおかしくなった場合は、授乳前にお母さんが摂った食事の内容を、できるだけ詳しく書き出しておきましょう。お母さんの摂取した食品がわかれば、原因食物の推定に役立ちます。問診で、アレルゲン食物(症状を引き起こす原因)を推定し、発症までの経過に応じて食物アレルゲン検査が行われます。

一般に、検査は、問診で得た情報をもとに次のような4つのステップで行われます。

ステップ1血液検査[血中抗原特異的IgE抗体検査]

採血して、血液中にIgE抗体があるかを調べます。IgE抗体とは、体内にアレルギーの原因となる物質(アレルゲン)が入ると、それを排除しようとして、免疫反応によって血液中に作られる物質。IgE抗体がある=特定の食物がアレルギーを起こしやすい状態、ということです。

個別の食物(アレルゲン)ごとの血液中のIgE抗体の量を測るこの検査は、ステップ3[食物傾向負荷試験]を安全に行うためのもの。数値が高いほどその食物を摂取した際に症状が出る可能性が高くなりますが、この検査値だけで食物アレルギーの確定診断が行われることはありません。

ステップ2皮膚テスト[プリックテスト]

皮膚に、アレルゲン食物のエキスを1滴たらし、上からプリック針と呼ばれる専用の針で皮膚を軽く傷つけて変化を観察する検査です。こちらも補助的なものとはいえ、赤ちゃんの食物アレルギーや、口腔アレルギー症候群の原因食物の診断にも有用。一定時間をおいて、赤く腫れたら陽性と判断され、陰性である場合は、その食物がアレルゲンでないことがかなり確実です。

とくに[口腔アレルギー症候群]では生の果物を直接穿刺して反応をみることで、より確実にアレルゲンとなる果物を確認できます。また、このテストでは、抗アレルギー薬や抗ヒスタミン薬により、皮膚の反応が抑制されてしまうため、検査前数日は、これらの薬の服用を中止する必要があります。

ステップ3食物除去試験

アレルゲンとして疑わしい食物を摂取せずに完全除去し、1~2週間観察して、症状の改善が得られるかどうかを確かめます。検査を受ける赤ちゃんが授乳中の場合は、お母さんの食事で原因食物をすべて排除します。1~2週間、完全除去して症状がよくなった場合は、その間摂取していない食物がアレルゲンの可能性が高いと診断されます。また、食物アレルギーの最終検査となる[食物経口負荷試験]の前にも、この検査を実施。[食物除去試験]で完全除去していた食物を摂取することで症状がでるかどうかで、[食物経口負荷試験]によるアレルゲン特定の精度が高まります。

ステップ4食物経口負荷試験

食物アレルギーの診断、原因食物の確認を行うための最も確実な検査方法です。実際にアレルゲン食物を食べてみて反応を観察するこの試験を自宅で行うことは極めて危険。原因食物を少量ずつ、時間をかけてたべますが、強い症状が出る可能性があります。症状が出たときに対応できるように、食物アレルギーに精通した医師のもと、入院施設など体制が整った医療機関で行われます。大人はもちろん、とくに乳幼児の場合は、全国的に対応ができる小児科が増えているので、検査が受けられるか確認してから受診しましょう。

食物アレルギーと上手く付き合う5つのポイント

①専門医の指導が必須。正しい知識を身につける。

まずは、お子さんの食物アレルギーがどのタイプで、どういったことに注意が必要かを把握して。食物アレルギーと向き合うためには、食物アレルギーという疾患をよく理解し、食物に対する知識を得ることが大切なのです。

②自己判断は禁物。食事指導をしっかり受ける。

最近は、研究が進み、食物アレルギーを治すためにはアレルゲン食物もできるだけ食べていくことが必要であるとされています。ただし、食事についての自己判断は禁物。ごく少量でもアレルゲン食物の摂取で、重症のアナフィラキシーが誘発されることもあります。信頼できる専門家から食事指導をしっかり受けましょう。

③焦らずじっくりと向き合う。

乳幼児の食物アレルギーは、成長とともにほとんどが治ります。日々の対応にストレスを感じ、「このまま治らないのでは」と不安に思うこともあるでしょうが、焦らずじっくりと向き合って、乗り切ってください。治り方には個人差があるのも事実。毎日の食生活を安全に送りながら、医師の指導のもとで、体が過剰反応を起こさなくなる「耐性化」を待ちましょう。

④頑張りすぎないで、無理なく。

食物アレルギーは「食べる」という、人間が生きていくうえで必要不可欠な営みと直結しています。それだけに、お母さんはじめご家族には、言葉では表せない大変な苦労があると思います。自分自身を責めて、精神的に負担を感じているお母さんも少なくありません。

しかし、頑張りすぎは禁物です。食物アレルギー対応の食品の種類も増えてきたので、状況に応じて活用を。食物アレルギーを通して食生活を見直し、素材を考えて調理する楽しみ、季節の自然の食材を使った食事を、ご家族みんなで味わってはいかがでしょう。

⑤一人で悩まない。自信を持って子育てを。

食物アレルギー児にとって、お母さんは誰よりも頼りになる最強の味方です。お子さんのつらい症状、大好物、苦手な食材を知っている最大の理解者でもあるはず。「食物アレルギー教室」では、講義の1つとして除去食を試食していただくのですが、お子さんも、お母さん、お父さんも、とびっきりの笑顔を見せてくれます。皮肉なことですが、食物アレルギーになったからこそ、家族全員で同じものを食べられる喜びは「ひとしお」なのです。

「食物アレルギーと向き合う」という姿勢そのものが、お子さんへの愛情の証。ぜひ自信を持って子育てしてください。

出典元:https://kurashinohon.jp/1062.html

柴田瑠美子(しばた・るみこ)

医学博士。日本アレルギー学会指導医。国立病院機構福岡病院小児科非常勤医師。中村学園大学栄養科学部客員教授。昭和46年九州大学医学部卒。九州大学医学部講師、国立病院機構福岡病院小児科医長を経て現職。早くから食物アレルギーの専門医として研究、治療に積極的に取り組む。平成2年より同病院にて食物アレルギーの親と子のための「食物アレルギー教室」を開催。食物アレルギーの理解を深める抗議や除去食の指導などで患者の家族の不安に寄り添い、多くの食物アレルギー児の寛解、耐性化をサポート。『食物アレルギー診療ガイドライン2005、2012』、『食物アレルギーによるアナフィラキシー学校対応マニュアル』に政策委員として関わる。著書(共著)に『ホップ・ステップ!食物アレルギー教室』(南江堂)など。

『国立病院機構の食物アレルギー教室』のほか、料理、美容・健康、ファッション情報など講談社くらしの本からの記事はこちらからも読むことができます。

講談社くらしの本はこちら

講談社くらしの本はこちら

おすすめの記事

2019.06.13

特集

初期対応が重要! 正しい知識を身につけて食物アレルギーと上手に付き合う

2019.06.14

特集

アナフィラキシーとは!? 食物アレルギーを正しく理解して安心を手に入れる

2019.03.01

特集

【新常識】つらい肩こりは手首からほぐす! 手首を本来の形に戻す方法とは?

最新情報を受け取る