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2019.04.18

特集

ヘタウマだけじゃない。家光の鶏、家綱の鶏を「へそまがり美術」展で公開中!

■未公開作品、相次いで新発見。家光ブームが止まらない

「徳川家光といえば?」去年の今頃、こんな質問をされたら、その答えは「参勤交代」「武家諸法度」「鎖国」などなど、“生まれながらの将軍”と言われる三代将軍・家光らしいキーワードに彩られたものだったでしょう。けれども今、同じ質問をされたら? 100人、いや30人に1人からは「絵はヘタウマだよね」とか、「〈ぴよぴよ鳳凰〉描いたんだよね?」などという答えが飛び出すのではないでしょうか。

そんな「家光ブーム」の火付け役となったのは、東京・府中市美術館で開催中の「へそまがり日本美術」展。《兎図》や《木兎図》《鳳凰図》などの出品作品が、「ゆるい」「ヘタウマ」「かわいい」と、大きな話題を呼んでいるのです。そして、ブームに追い打ちをかけるように、先日、家光・家綱父子の未公開作品が2点、発見されたというニュースが発表されました。

「家光リアリズム」と「ヘタウマ風味」

今回発見された2作品はいずれも鶏の絵。展覧会開幕直前にもたらされた情報などから、府中市美術館の金子信久先生が調査をしたところ、家光・家綱の未公開作品であることがわかりました。家光の《鶏図》は、水戸徳川家の重臣を務めた武士の家に伝えられてきた作品。横長の画面の中央からやや右に逸れた場所に、鶏がぽつんと1羽、墨一色で描かれています。

現在、「へそまがり日本美術」展に出品中の《兎図》や《木兎図》は、「カスカスの墨」による繊細で丁寧な描写で、兎や木兎の毛や羽がもつ「ぽそぽそ」の質感を追求したもの。水墨画の常識を無視したこの描法は、「〈家光リアリズム〉とも呼ぶべき、孤高のスタイル」であると金子先生は言います。一方、今回発見された《鶏図》は、《兎図》などとは異なる、極めてあっさりとした簡略な線が特徴。そしてシンプルな描写に、とぼけた表情があじわい深さを醸す作品です。狩野派を御用絵師として抱えつつ、孤高のスタイルを貫いた家光には、「家光リアリズム」の他に、「ヘタウマ風味」というもう1つの持ち味があったことを物語る、貴重な作品です。

徳川家光《鶏図》江戸時代前期(17世紀前半)個人蔵

「下手で何が悪い」様式で描いた鶏の画家・家綱

もう1点は、家光の子で四代将軍の家綱による《鶏図》。家綱は、残された作品の半数以上は鶏の絵だとも言われる「鶏の画家」で、「へそまがり日本美術」展の出品作も4点のうち3点が鶏を描いたものです。しかも、1作品ごとに描き方がことごとく違っていて、同じ鶏がないというのがすごいところ。「余は同じものは描かぬ」というスタンスだったのでしょう。

今回発見された家綱の《鶏図》は、水をたっぷり含んだ濃墨で丸みのある体を、灰色の薄墨で首を表しています。とぼけた表情が愛らしい家光の鶏と比べると、目つきの悪さが目立ちますが、それもまた家綱の特徴の1つです。

金子先生によれば、家綱は幼少から晩年まで絵を描き続けており、「技術的に上達した形跡はありません。〈下手で何が悪い〉様式と呼びたいです」とのこと。将軍たるもの、描く絵も超越したものであるべき、というような孤高の絵心は、父・家光から受け継いだものだったのでしょうか。

発見された2作品は、「へそまがり日本美術」展の後期展示(4/16~5/12)にて追加出品されることが決まりました。家光と家綱の将軍父子による夢の共演。お見逃しなく!

徳川家綱《鶏図》江戸時代前期(17世紀後半)養源寺(東京都文京区)蔵

家綱の《鶏図》は、東京・千駄木の養源寺に伝えられた作品。同寺は家光の乳母、春日局の子、稲葉正勝創建の古刹で、「へそまがり日本美術」展、出品中の家光の《木兎図》も所蔵しています。

通常、掛軸は箱に収められて保管されますが、《木兎図》もこの《鶏図》も、箱がありませんでした。第二次世界大戦中、千駄木一帯が空襲を受ける中、当時の住職が大切な伝来品を守ろうと、かさばる箱から軸を出して長持に詰めて、避難させたためだそうです。

追加出品の2作品についての作品解説を載せた別刷り冊子、後期展(4/16~)より、展覧会会場で図録を購入していただいた方にお付けしています。図録にも挟み込めるサイズです。ぜひ、後期展にいらしてください!

春の江戸絵画まつり
へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで
会期 2019年3月16日(土)~5月12日(日)
【前期】3月16日(土)~4月14日(日)
【後期】4月16日(火)~5月12日(日)
*全作品ではありませんが、大幅な展示替えがあります。
会場 府中市美術館(都立府中の森公園内)
特設サイト http://fam-exhibition.com/hesoten/

出典元 https://kurashinohon.jp/1047.html

『へそまがり日本美術』シリーズ

第1回 上様はどこまで本気なのか──徳川将軍の「ゆるすぎる」絵はなぜ描かれたのか?
第2回 「これでいいの?」ツッコミどころ満載の作品ばかり。今春、もっとも熱い展覧会「へそまがり日本美術」展
番外編 ヘタウマ、おとぼけ、へそまがり!! 今、もっとも熱い展覧会「へそまがり日本美術」展の原点を探る。

府中市美術館

「生活と美術=美と結びついた暮らしを見直す美術館」をテーマに2000年10月に開館。都立府中の森公園の中にあり、1階は美術図書室、市民ギャラリー、教育普及関係の施設のほか、ミュージアムショップやカフェなどがある。2階は展示空間で、所蔵品展や企画展を行っている。恒例の「春の江戸絵画まつり」は美術ファンに人気の展覧会となっており、毎年話題を呼んでいる。

府中市美術館 公式サイト

『へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで』のほか、料理、美容・健康、ファッション情報など講談社くらしの本からの記事はこちらからも読むことができます。

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