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2019.03.12

レビュー

【2時間でわかる】日本の政治はカレンダーで決まる。「そりゃ初耳」という人必読!

現在の日本の政治状況を知るにはうってつけの本です。「日本の政治はカレンダーで決まる」と「日本の総理大臣は参議院選挙で決まる」の章は一読、目からウロコが落ちるのではないでしょうか。

竹下内閣から安倍内閣までの政局をとおしてある特徴(=法則)を指摘しています。

一つは、内閣の退陣原因は、与党を抑えられないことと参議院選挙の敗北(負けるとわかっていたら先に退陣する場合もあり)。もう一つは、参議院選挙の敗北は内閣総辞職につながっているということ。(略)
衆議院選挙で政権交代したのは2回だけです。

内閣の危機は参議院の選挙と党内闘争(派閥争い、後継者争い)によって訪れます。それにならえば今年(2019年)7月の参議院選挙の結果によって日本のこれからが決するということになります。


大統領は強い権限を持っているのか?

かつて日本で大統領制が論議されたことがありました。ころころ変わる日本の総理大臣の姿からそのような論が起きたのだったと思います。強いリーダーが必要だということで……。

その時、範となったのはいうまでもなくアメリカの大統領制です。けれど、著者によればアメリカの大統領は私たちが思い描いているように強い権限を持っているわけではありません。




この図はアメリカが実に見事な三権分立になっていることを示しています。最近でもトランプ大統領が、公約としていたメキシコとの壁の建設費の予算計上をめぐって野党・民主党と対立し連邦政府機関が一部閉鎖されるという事態が生じました。そのためホワイトハウスの来客者に食事などのサービスを提供できず、トランプ大統領自らハンバーガーやピザのデリバリーを大量発注したということがニュースになりました。

小泉元首相が郵政民営化を争点にして衆議院を解散したようには、大統領といえども議会を解散できないのです。その反面、議会から不信任を突きつけられて辞任することもありません。


内閣総理大臣の権限

この本にあるように日本の総理大臣の権力は大統領に比べてはるかに大きいのです。日本の三権分立はアメリカに比べてはるかに基盤が弱いものになっています。立法、司法の2権に比べて行政権が強くなっているのです。

衆議院で多数を取った政党の党首が総理大臣になるので、行政と立法(衆議院)は融合しています。

国権の最高機関は国会ですが、衆参両院議長が著者のいうように「総理総裁になれなかった人の名誉職」でありという感は否めません。議員立法がありますが、内閣発(官僚発)の法案が増えています。閣議決定の多発を含めれば、行政権力の肥大化は止まるところをしりません。

では司法はどうでしょうか。内閣は最高裁長官を指名し、また他の裁判官を任命します。ここでは統治行為論が問題となります。統治行為とは「法的判断が可能であっても,直接国家統治の基本にかかわる高度の政治性を有することを理由に,司法審査権が及ばないとされる行為」(「ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典」より)のことです。政府の政治行為にかかわる判断は行わない、実質的に容認する姿勢につながります。

つまり、与党(連立与党であっても)のトップ(自民党では総裁)の座を射止めれば、与党の数によって国会もコントロールでき(国会の無力化・空洞化)、事実上の専制的な政府が生まれてしまいます。国会は内閣のチェック機関ではなく、(無条件の)追認機関と化してしまいます。このようにアメリカの大統領よりはるかに独裁的な権力者となれるのが日本の総理大臣なのです。(改憲論議で話題になる「緊急事態に対する権限」が総理大臣に与えられるとさらに独裁的になるおそれがあります)

安倍一強の法則

この本で著者は、安倍政権の強さを分析して、「安倍一強の法則」というものを導き出しています。シンプルな法則です。

[日銀が金融緩和をする→株価が上がる→支持率が上がる→選挙に勝てる→誰も引きずりおろせない]

さらにこの法則について解説があります。

これには、「消費増税をしない」という重要な条件がありました。(略)景気が回復しきらない内に増税なんかしたら、またデフレ不況に逆戻りです。
安倍首相が麻生・二階と組むことは、政権維持の方策としては合理的です。しかし、それは国民生活を犠牲にした上です。もっとも、前の民主党政権のデフレ時代よりは回復しているだろう、というのが安倍支持者の言い分ですが。言い換えれば、「国民は、これくらいで我慢しろ」にもなります。

……では、なぜ今の安倍政権は消費増税を強行しようとするのでしょうか? 財政再建? それならなぜ参議院議員を増やすのでしょう? 諸外国へのばら撒きにも思える援助、増大する防衛費、さらに議員報酬や国家公務員給与の引き上げが行われました。

いくら景気対策をしても、それらは期限付きであり、景気の悪化はまぬがれないでしょう。それでもなぜ消費増税を行うのでしょう。安倍一強の法則と矛盾する政策です。

財務省には増税したい7つの理由がある、と著者は記しています。

1.経済学がわかっていない:東大法学部卒が多い財務官僚は経済学の訓練がされていない。
2.変態・お札フェチ:円を希少品にしておきたい。円高を好む。
3.バブル時代への怨念:バブルで踊った民間への怨念。
4.宗教的ドグマ:増税しないと財政再建できないという思い込み。
5.組織的硬直:先輩や上司の批判ができない。
6.「ほどほど総理」が省益:財務省の意図を通しやすい総理を好む。
7.歴史的健忘症:かつては持っていた「健全財政」の概念が歪んでしまって「日本が滅んでも増税しろ」になっている。

激しい論調はこの本のさまざまな箇所に見られますが、この部分はひときわ論詰しているものではないかと思います。

法則に反してまで増税しようという政府の行動から浮かびあがってくるものは……

今の日本では、自民党が永久与党で、まじめに政策を戦わせる相手がなかったために、政策立案は官僚にまかせきりの体制が出来上がってしまいました。事実上、官僚がシンクタンクなのです。

そして日本の三権分立の実情をこう喝破します。

小学校から三権分立を習います。立法は国会、行政は内閣、司法は裁判所、と。しかし、実態は違います。
真の三権は、内閣法制局・財務省主計局・検察庁です。

この理由は詳述されています。すぐに気がつくことはこの3つすべてが行政府に属しているということです。ここでも行政府(内閣)の専横が生まれやすいことがわかります。

そして今は

「日本の実質的支配者は財務事務次官と法制局長官」という日本政治の実態のもと、なぜ「忖度」が生まれるのでしょうか。官僚に都合の良い総理・閣僚にその地位にとどまってほしいからでしょうか。それとも官僚の人事を内閣人事局に握られているための自己保身でしょうか。

そのどちらもありうるように思います。
財務省は総理(行政府)を通して自分たちの考えを押し通そうとし、総理は財務省の人事に介入することで自己の地位を守ろうとする。ここにあるのは、相互監視ではありません。相互依存だと思います。それは、ある意味では困難さ(=責任)の押し付けあいであり、その結果、無責任体質が蔓延します。国民に責任をとらない行政府(=総理大臣)は間違いなく専横・独裁へと向かっていきます。

この本では政治(=政界)の実態分析だけでなく、日銀を中心とした経済分析(経済のルール)も記されています。そのどれもが私たちの課題として、今考えなければならないものだと思います。刺激されることの多い1冊です。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の2人です。

note⇒https://note.mu/nonakayukihiro

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