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2019.03.04

レビュー

挫折した人でもわかる「相対性理論」 アインシュタインは何を考えたのか

相対性理論という難解な理論・学問の入門書はあまたありますが、この本ほど読むものを楽しくその世界へ誘ってくれるものはそうはありません。一気に読めて、アインシュタインがどのように相対性理論を発見していったのか、そしてその理論が私たちになにをもたらしているのかが手に取るようにわかります。入門書のマスターピースです。


難解さを溶かせるユーモア

アインシュタインというと舌を出した写真が有名ですが、その写真からもわかるように彼は人間味、ユーモア精神に満ちた天才でした。(そういえばファインマンもですが物理学者にはユーモア溢れる人が多いのでしょうか)

この本もユーモア精神ではアインシュタインにひけをとりません。

飛行機に乗って、高い空の上から海と空の境目をみたときには、大地は丸いと感じるだろう(ほんとかいな)。いや、少なくとも、月が地球の影に入って起こる月食のとき、月に映える地球の影のフチをみたときに、地球の丸さを感じる(うーん、これもあやしい)。

この一九〇五年もまた、科学史上で〈奇跡の年〉と呼ばれている。アインシュタイン、御年、二六歳。
翻(ひるがえ)って、自分が、二〇代に何をしていたかというと……。え、ニュートンやアインシュタインと比べるなって? 考えないことにしよう。

このような文章があれば読むものは難解な理論に恐れを抱くことなくその理論世界に入っていけます。倦(う)まずたゆまず読み進むにはユーモアは最良の活力源になります。この試みは大成功です。

文章だけではありません。各章冒頭に書かれたモリナガ・ヨウさんの6コマ漫画もまたユーモアを漂わせながら私たちをアインシュタインの世界の入口に誘っています。

モリナガさんは相対性理論の要所の図解でも大活躍しています。

前後の文を合わせて読むと理論の核心がストーンと腑(ふ)に落ちます。

相対論や量子論の本質は、複雑な数式にあるのではなく、常識的な考え方の変革にある。だから、基本的な部分の(全部とは言わないまでも)いくつかは、ごく基礎的・初等的に説明できるし、考え方さえ変えれば、理解できるモノのはず、なのだ。

「常識的な考え方の変革」を理解するには分かりやすい図解は大きな武器になります。まして「思考実験」が重要なこととなる相対性理論ですから、理解には役立ちます。難解さにひるまないためのユーモアも。


アインシュタインの夢を追って

第1章の扉にあるアインシュタインの言葉です。

ここからこの本は相対性の世界へ入っていきます。

アインシュタインは相対性理論の鍵である「光速度一定」という規準(絶対的なもの)の発見によって、ニュートン力学の大前提であった「絶対空間」「絶対時間」というものに疑問を突きつけました。

ニュートンの絶対空間を否定し、静止しているとか動いてみえるとかいう、お互いの運動状態のような関係そのものが重要だと考えた。これが(運動の)「相対性」の基本的な立場である。

この本は、ここから始まり、相対性理論、量子力学、ブラックホール、宇宙論、重力波へと私たちを導いていきます(何度もいうようにおもしろさ、わかりやすさで一気に読み進められます)。

そしてアインシュタインが最後まで追求し続けた夢へと続きます。

物理的世界の統一とは、物理的な世界を支配するルールの共通化にほかならない。あるいは、アインシュタインの言葉にもあるように、最少のルールであらゆる事象を説明できるようにすることである。

アインシュタインの夢である「物理法則を統一する」ということはどういうことでしょうか。

具体的な値を計算するためには数式が必要だが、世界のルールの本質は、数式によらない直感的なもの、感性的なものではなかろうか。
そしてまた理解するということは、スポーツやゲームなどの例でもわかるように、より感情移入し、さらには具体的に参加するということでもある。
(略)
物理的世界を理解するということは、物理的世界に自主的積極的に参加することにほかならないのである。

物理的世界は私たちの日常から離れた、どこか遠くにある抽象的な世界を意味するものではありません。私たちが生きている世界そのものです。ですから「理解する」ということは人間的な行為ものそのものだ、と著書はいっているように思います。これはアインシュタインの精神そのものではないでしょうか。


アインシュタインへのオマージュ

この本の各章はアインシュタインの言葉から始まっています。ユーモラスなもの、真摯な姿勢を感じさせるもの、自らの発見に畏怖を感じたもの、さらに哲学的なものもあります。

これは目の前の現象にとらわれている私たち自身と、アインシュタインの研究姿勢をあらわしたものでしょうか。

さらにこのような言葉があります。


E=mc2

相対性理論が導き出したアインシュタインの著名な公式です。
「質量がエネルギーと等価である」ことをあらわしたこの公式は核分裂・核融合という巨大なエネルギー世界の存在を教えたものです。そして「原爆にせよ水爆にせよ、核爆弾の原理」を教えるものでした。

人間は、核融合はもとより、核分裂さえ、まだ完全にはコントロールできていない。しかし自然は、まったく無意識のうちに、安定な核融合を実現させ、核融合の炎で暗黒の宇宙を照らし出しているのだ。それは宇宙に輝いている数多(あまた)の星であり、そして太陽である。

これらの言葉から浮かび上がってくるのは真摯で徹底的に真理を求め続けるアインシュタインの姿です。この本の素晴らしさはこのようなアインシュタインの姿が浮かびあがってくるところにもあります。


物理的世界を理解するということは、物理的世界に自主的積極的に参加することにほかならないのである。

これは倫理的な姿勢にほかなりません。

そして著者は次のメッセージでこの本を締めくくっています。

間違いや失敗を恐れずにその一歩を踏み出し、一度しかない人生を生き抜きたいものである。いつの日かきっと、自分の歩いてきた道が、自分にとって"相対的に"正しい答えになっているだろう。

これもまたアインシュタインの人間的な・倫理的な精神に通じるものではないでしょうか。この本は相対性理論の優れた入門書というだけでなく、この本はアインシュタインの(精神の)優れた解説書になっていると思います。マスターピースと呼ぶ所以です。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の2人です。

note⇒https://note.mu/nonakayukihiro

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