10月28日、『文庫版 ルー=ガルー 忌避すべき狼』(京極夏彦著)『古事記異聞 オロチの郷、奥出雲』(高田祟史著)の刊行を記念して、東京ミッドタウン日比谷で開催された、京極夏彦と高田崇史のトークイベント。人気作家ふたりの初対談は創作活動の裏話満載で、会場は大いに盛り上がりました!
(対談を全3回で連載いたします)
【第2章】不思議なことは……ない?、ある?~会場の質問から
高田 今日は会場のみなさんに僕たちへの質問を事前にもらっているので、いくつか答えていきましょう。 「最強の怨霊は誰だと思いますか?」という質問がありますね。 僕の中では5大怨霊というのを決めてまして、スサノオ、天照大神、大国主、ニギハヤヒ、市杵嶋姫なんですが、最強の怨霊はスサノオだと思います。
京極 うーん、怨霊の定義によりますね。
そもそも今の一般的な解釈で言うと怨霊というのは“恨んで死んだ人の霊”になるんでしょうが、本来は、天変地異など人間が手出しのできない災厄の原因として生み出された概念ですよね。天人相関思想の延長のようなもので、国家規模の災いに人格を与えたのが怨霊ですね。平安時代なんかは怨霊の時代なんて呼ばれますが、怨みがましい人が多くいたわけではない(笑)。それがだんだん矮小化されていくわけですが、そのへんのオヤジでも怨霊になれるようになったのは。最近ですね。例えば白峯(しらみね・崇徳[すとく]天皇)なんかも現在では怨霊として語られますけど、あれは大魔縁ですからね、天狗ですね。御霊信仰との関わりも無視はできません。それがついに、テレビから出てくればもう怨霊でいいやという時代に突入して──
高田 貞子だ(笑)。
京極 貞子って、「あの程度の恨みであんなに殺すか?」って思いませんでした?(笑)。もっとひどい目に遭った人はたくさんいると思いますけどね。
高田 怨霊の人格的問題ですね。
京極 本来、妖怪や幽霊なんてものは、現象や事象が先にあって、それに対する後付けの説明としてあるものだったわけで、怨霊もそういう存在だったはずです。でも最近は違うんですね。まず“貞子ありき”で、しかもいきなり殺しますからね。ひどいです。数を正確に勘定していないんですけど、『リング』シリーズに加え『貞子3D』とか『貞子3D2』とかハリウッド版、『VS伽弥子』まで含めれば、一番殺してるのは貞子でしょう。伽椰子よりは殺してます(笑)。
高田 京極さんが貞子シリーズをそんなにご存知だとは思いませんでした(笑)。 では次にいきましょう。「説明のつかない不思議なことに遭ったことはありますか?」という質問ですが。
京極 ないです。
高田 僕はありますよ。神社に行くとケガをするんですよ。
京極 転ぶんですか?
高田 わからない。ケガをするというか、傷だらけになるんですよ。
京極 聖痕?
高田 そこまで立派なもんじゃないと思うんですけど。吉原の浄閑寺に行ったとき、手首に赤いすじがついてました。どうしてなのかわからないんですけど。
京極 自傷行為?
高田 無意識にやっちゃったのかな?
京極 タチの悪い編集者がつけたのかもしれませんよ(笑)。僕はずいぶん昔、神社でテレビの収録をしていたとき、首からダラダラ血が流れてきたことがありましたけどね。
高田 それって不思議なことですよね?
京極 別に不思議じゃないでしょ? 血が出ただけですよ。僕、傷が治りにくいんですよね。たぶん古傷が開いたんじゃないですか。だいたい、この世に不思議なことなんてないでしょ。
高田 わざと不思議な事象から目を背けてるようにも見えますが……。 次は「作品の中に自分に似ている登場人物っていますか?」という質問です。京極さんはどうですか?
京極 いないですね。
高田 僕は一応いるんです。『QED』の棚旗奈々ちゃん。僕がモデルなんですよ。
京極 えぇ~? それをにわかに信じろと言われても……(笑)。
高田 みんなそんな反応なんです。真実がうまく伝わらないんですよね。
京極 全く伝わってこないですね(笑)。登場人物が作家に似てるかというなら、ある意味、みんな似てるんでしょうけど。でも特定のキャラクターに自己投影して作品を書くかというと、そんなことないでしょう?
高田 無理ですね。歌も同じみたいですよ。先日、作曲もされているあるベテラン歌手の方と似たような話になって「僕らは自分の生活をリアルに歌っていると思われているけれど、そういう歌を歌っているのは中島みゆきさんくらい」と聞きました。
京極 そうなんだ……え? 中島みゆきさん、あんなつらい人生なんですか……。