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2018.09.29

レビュー

セクシーな料理を作り、セクシーに食べる。『食べる女』になりたい。

最初に宣言する。本レビューで「セクシー」と100回は言うと思う。
100回はさすがに大袈裟か。でも『いとしい人と、おいしい食卓』を読みながら本当にそのくらい「セクシー!」と心の中で叫んだ。あと「まいりました!」も。

ひとはおいしい食事をすると、体が元気になる。
いとしいセックスをすると、心がやさしくなる。

これは同著者の小説『食べる女』の冒頭文だ。
大人ですね。心が大人。成熟してセクシーな女性じゃないとこんなセリフ出てきやしない。

この物語を原作とした映画「食べる女」が9月21日から公開される。出演が小泉今日子さん、沢尻エリカさん、前田敦子さん、広瀬アリスさん、山田優さん、壇蜜さん、シャーロット・ケイト・フォックスさん、鈴木京香さんと、まあ驚きのゴージャスさ。詳細は後で書くとして、本書はこの映画の世界とリンクする食エッセイ&料理レシピ集だ。

「いとしい人がそばにいて
おいしいごはんがあって
たわいないことで笑っている」

そんなシンプルな幸せでもいい。みんなと同じじゃなくても、みんなに分かってもらえなくても、いいじゃないか。誰のものでもないあなたの人生なのだから。

そして、いとしい誰かといつか出会えますように。
出会えた人には、おいしい日が、いつまでもいつまでもつづきますように。

著者の、女性たちと食べ物に対する愛が深い。毎日を懸命に生き、切なさや孤独と戦う、現代(いま)を生きる女性たちへの応援だ。著者は女性たちに「おいしい女」になってほしいと願っている。おいしい女になってとことん自分を味わいつくしてほしい、おいしい男を育ててほしいと。

すごいな。酸いも甘いも知り尽くした女の言葉だ。私もあやかりたい。そのおいしい女とやらになりたい! セクシーになりたい!

まずはレシピにある料理を作ってみようじゃないか。何かヒントが隠されているかもしれない。ふむふむ、どんな料理なのかな……?

あなたが作るのはどんな料理ですか? と訊かれたら、「セクシーなおふくろ料理」と答えることにしている。

!!! セクシーなおふくろ料理!

おふくろ料理ってだけでも男性の胃袋わしづかみワードなのに、セクシーがつくなんて料理としてこれ以上ない強さではないか。
さらに……

おいしいものをつまんだ指は口中まで追いかけてくる。箸だったら運び終えたあとは退散しないとガリリと噛まれてしまう。噛んでしまう。でも指は舌に寄り添って一緒に味わうことだってできる。舌でおいしいものは指にだっておいしいのだ。やがて咀嚼が始まると、指は口中から出ていく。でも口元から遠く離れたりはしない。柔らかになった食材が喉の奥へ消えた頃合いを見計らって、再び口中へと忍びこむ。まだ僅かな食材や匂いが残っていて、指は舌と一緒にそのおいしい余韻を味わう。そして最後には舌に自分(指)を舐めさせたり、唇にしゃぶらせたり、歯に甘噛みだって許してしまう。指は食いしんぼうではあるが欲ばりではないのだ。おいしいものをひとり占めになんかしない。

なんということだ。この人は食べ方にまでセクシーをまとっている。それはほとんどセックスであるかのようだ。

まいりました。私は人生半分終わってしまいましたがまだ遅くはないですか? 著者なら「遅いなんてことはありません」と優しく言ってくれそうだ。その妄想の中の優しい言葉に甘えて、セクシーなおふくろ料理とやらを見よう見まねで作ってみるぞ!

まずは「焼きなす」。(P.48)

レシピはこんな感じだ。
全ての写真が美しい。料理写真集として眺めているだけでも幸せになれる美しさ。


完成品がこちら。



わざわざ熱さを我慢して皮をむくらしい……私も負けずに熱いうちにむこうとした。あっつ! 拷問のようだがこれもセクシーへの道。

急いで醤油をたらし、指でへたを持ってぶら下げ、大きく開けた口の中へ落としてみた。
熱い! 香ばしい! ジューシー! 熱い!(以下エンドレスループ)
熱いうちにむいたから汁がたっぷり含まれる。そのセクシーなことったら。


続いて「ブラウンマッシュルームのシンプルサラダ」。(P.61)



マッシュルームを手で割るという作業は初めてだ。人肌のようなぬくもりを覚えてドキッとした。これも手で口へ運んでみる。生のマッシュルームというものをゆっくり味わうのも初めて。EVオリーブオイルにまとわれたマッシュルームをかじると、土というか森のような香りが一気に口中に広がった。
ああ、生のマッシュルームってこんな味だったんだ。新たな出会いを果たしたかのよう。

そして「トマトのトマトドレッシングサラダ」。(P.64)



メインの材料が1種類の料理が続く。

トマトをトマトドレッシングで食べる? なんで? と最初は意味がわからなかったが、段々わかってきたぞ。食材が1つだと、それに対する向き合い方が深くなる。「おいしい」がよりはっきりくっきりわかる。

セクシーの先生(著者のことです)は毎日こんな料理を作って、おいしいと対峙し、おいしい女になっていっているのか。なるほどな……なるほどな……ぶつぶつ……。

しかしこのトマトドレッシング、おいしすぎる。パスタ、ハンバーグ、グリーンサラダ、そうめん、豆腐……何にかけても絶対合う。万能すぎる。トマトが安い時に買って常に冷蔵庫に置いておきたい。

ここまで一気に作って一気に食べて、でもまだお腹が、口が、指が、おいしいものを求めていることに驚いた。

ようやく炭水化物「アボカドそうめん」。(P120)

1口すすり、くらっと眩暈(めまい)がした。おいしすぎる眩暈(めまい)。本当に。ライムの爽やかさとアボカドのコクの対比。なんてエロい食べ物だ。セクシーを超えてエロい。

最後にデザートとして「しらたま」。(P189)



え? たかがしらたま? と思った私を殴りたい。こんなに奥深く繊細でセクシーな食べ物だったなんて知らなかった。レシピの説明があまりにおいしそうだったので真似してみた。

水けを残したしらたまを皿にのせ、皿の端に砂糖をスプーン1杯ほどのせる。静かに皿を揺すると、しらたまの肌にあった水分が流れ、砂糖がぽってりと水分を含みます。これにまぶしつつ食べるのが色っぽい。

しらたまって、あんこやフルーツや寒天がなくても、上白糖だけというシンプルさでこんなにおいしくなるものだったのか。極上の幸せ。

……こうしてめでたく幸せなおいしさで満腹になった私は、少しでもセクシーな女になれただろうか。って、そんな1日くらいでなれるもんじゃないよね。

映画「食べる女」は、年齢・職業・価値観もそれぞれ違う女8人が本音トーク満載の食卓を囲む姿を通して、女たちの今を描いている。

私は女優・小泉今日子が大好きだ。女優として、女として、大好き。他にも鈴木京香さんに、壇蜜さんに、あとあっちゃんも映画女優として素晴らしい。よくこんなに豪華な女優たちが集まったものだと興奮している。セクシーな脚本家はセクシーな女優を選ぶのがうまい。

この本には、「玉子とトマトときくらげのシノワ風炒め」「牛ひき肉と春雨の煮込み」「みょうがのかき玉吸い」など、映画に登場する料理のレシピも掲載されている。エッセイを読んで、レシピを見ながら料理を作って、食べて、映画を観に行って、また作って食べて……。

おいしくセクシーな女性になって、自分自身の人生をもっと謳歌(おうか)しようと誓った!

レビュアー

野本紗紀恵 イメージ
野本紗紀恵

一級建築士でありながらイラストレーター・占い師・芸能・各種バイトなど、職歴がおかしい1978年千葉県生まれ。趣味は音楽・絵画・書道・舞台などの芸術全般。某高IQ団体会員。今一番面白いことは子育て。

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