猛暑(酷署、はては獄暑という人もいるそうですが)続きの日本列島、残暑まで含めればこの暑さの途方もなさに気が遠くなりそうです。テレビでも連日、熱中症予防の話で持ちきり。こまめな水分補給、塩分もこまめに摂取というのが対策の大原則。
でも適切な水分補給の仕方を考えたことがあるでしょうか。水分はがぶがぶ飲めばいいというものではありません。塩分でも、吸収を高めるために糖分を摂取する必要があります。経口補水液にも糖分が含まれています。ですから、このような経口補水液で水分を補給した後には口腔ケアが必要になります。虫歯のリスクが高まるからです。
でももっと効率的な水分摂取法があります。それを科学的な根拠から解き明かし、さらにレシピという形で紹介しているのがこの本です。
水は人間にとって重要なものであるのはいうまでもありません。成人の人間の体の約60%が水分といわれています。幼児はこの割合が高く、年齢とともに割合は低くなります。しかしこの本によれば「分子レベルでは、人体の99%が水分」ということになるそうです。驚くべき数値ですが、それだけに水の重要性、その効果ははかりしれません。
なにしろ水分不足(脱水症状)は「頭痛」「衰弱」「頭がぼんやりする」「不眠」「免疫力の低下」を引き起こし、さらには「認知症」などの「直接的な一因」にもなるそうです。
脱水症状は熱中症に典型的にあらわれます。けれどそれだけではありません。実は私たちに「軽い脱水症」をもたらすものが普段の生活のなかにあります。
塩分が多く、水分の少ない加工食品など、私たちが食べるものを代謝するには、体に大きな負担がかかる。さらに水分を含んだ野菜や果物の不足が体を乾燥させつづけ、干(ひ)からびさせる。
食生活だけではありません。私たちの生活環境そのものの中に「脱水症」を引き起こす原因があります。著者たちがあげているのは、蛍光照明、冷暖房、電子機器など、さらには薬によっては服用することでも脱水症を引き起こします。意外な要因としては「長時間動かないでいる」ということもあります。
脱水症状に対してこまめな水分補給が必要なのはいうまでもありません。でも私たちは本当に効果的な水分補給をしているのでしょうか。なにより肝心なことは「最も必要とする筋肉、細胞、筋膜(体の結合組織)に浸透」させることができているかどうかです。
そして、的確な水分補給をするために著者たちが提案しているのが、水を「飲む」ではなく「食べる」というやり方です。
ボトルウォーター1本と一緒にリンゴを1個食べれば、ボトルウォーター2本分よりずっと多く水分を補給できる。
現在、植物に含まれる水分を摂取することは、水だけを飲むより効果が高いことが解明されつつある。植物の水分はすでに精製され、ペーハー(水素イオン濃度)のバランスもよいアルカリ性で、ミネラルを含み、栄養素も豊富で、構造化され、活性化されているため、細胞に吸収されやすいのだ。
この考えに基づいた水分補給法が「クエンチプログラム」です。(クエンチ Quenchとは、渇き・欲望・情熱などを、いやす、和らげる、満たすという意味です)
「クエンチプログラム」を試してみるための入門プログラムがこの一覧表です。
表を見てすぐに気がつくのは「マイクロムーブメント」が必須になっていることです。これは「体を動かすことが水分補給につながる」ということから設けられています。もっとも「動かす」といっても「運動」ではありません。体をほんのわずか動かすことで細胞は活性化され水分補給はぐんとしやすくなります。
具体的には、たびたび後ろを見たり、肩、足首、腰を回したり、もちろん目もぐるりと回したりと、体を回転させることで水分をさらに流し入れる。(略)腕や脚であれ、首や背骨であれ、ひねる動きをすれば、老廃物を超高効率で行うことができる。
この科学的・生理学的根拠も解説されています。また、具体的な体の動かし方も図示されていますので、ぜひ本書を見てください。
この効果を実感できた人たちに向けた標準的なプラン(1週間)も一覧表になっています。
詳細なレシピやアレンジの仕方も載っています。自分なりの工夫もできます。
自分が脱水症になっているかどうかを知るための20のセルフチェックが載っています。まずチェックしてみましょう。「体重を減らそうとしても減りそうもない」「午後に疲労感がある」などのチェックですが、この20の「質問のどれかに当てはまったなら、体が『水分が必要だ』という合図を送っている」と考えた方がよいそうです。まずはやってみましょう。
「ごくごく水を飲むだけでは十分ではない」
これを忘れずに、水分をしっかり補給すれば「集中力が高まる」「睡眠状態がよくなる」「お腹の張りやむくみが消える」「若く見える」などの効果があります。それがよくわかる1冊です。
ところで料理には欠かせない「脂肪」についてもじっくり書かれています。「脂肪を食べたほうがやせる」という話から、飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸の話、さらに「体にいい料理オイルの選び方」も載っています。こんな1文があります。
意外にも脂肪と水分補給には深いかかわりがあるのだから、脂肪恐怖症の日々とはお別れし、食事に脂肪を取り戻す正しい決断をしよう。この場合、脂と水は混じり合う。
この本は理論編から始まっていますが、脱水症チェックで引っかかった人は後半のレシピ編から読むことをおすすめします。この本の実践的な価値がストレートに感じ取れます。脱水症状は現代の隠れた流行病かもしれません。日本の夏恒例となった酷暑時期だけでなく四季を通じて体をうるおすことが私たちにどれほど重要なことなのかを実感させてくれます。そして正しい、効果的な水分補給をおこなうか……その効果を上げるための必携書です。
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の2人です。
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