4月22日からのTBS日曜劇場(毎週日曜よる9時~)で、海堂尊の『ブラックペアン1988』がドラマ化される。主演の二宮和也が演じるのは「オペ室の悪魔」と呼ばれる、孤高の天才外科医・渡海征司郎。渡海に振り回されながら成長していく新人研修医・世良雅志役には竹内涼真。
この春、間違いなく見逃せない大型ドラマ。原作シリーズの面白さを徹底解説だ!
くせ者たちが揃う大学病院
バブルが終わる頃の日本の医療を描いていることから《バブル》三部作とも呼ばれるこのシリーズは、『ブラックペアン1988』で幕を開けた。時代設定は1988年。まだバブルが続くと日本の大半が信じていた頃、一人の青年が、東城大学医学部の中心的存在である佐伯外科に研修医として入局した。世良雅志である。まだまだ新米の彼を待ち受けていたのは、個性的な曲者たちだった。
天下の帝華大学出身でマサチューセッツ医科大学にも留学し、革命的な医療機器スナイプの世界的エキスパートであるにもかかわらず、ビッグマウスが過ぎて帝華大学から放り出されてきた高階権太講師や、天才的な手技を持ちつつ周囲と同調せず、昇進も拒否し続けているヒラの医局員の最年長・海渡征司郎、あるいは佐伯外科のトップであり東城大学医学部付属病院の佐伯清剛教授、昼寝を得意とする(?)猫田看護主任など、それぞれに猛者と呼ぶべき面々が揃っていたのである。
そんな猛者たちのなかで世良は医師としての経験を積み、様々な観点から、医師とは、あるいは医療とはなにかを学ぶ。『ブラックペアン1988』は、そんな彼の成長ぶりを描きつつ、佐伯外科に古くからひそむ秘密でも読者の心をとらえる一冊だ。ある人物の医師としての矜持が予想外の形で示されるクライマックスも印象深い。
医療とカネという問題
続く『ブレイズメス1990』では、高階がさんざん引っかき回していた佐伯外科に、また新たな輩が加わる。
佐伯教授の指示で、世良が欧州はモナコまで赴いて呼び寄せた天城雪彦である。モンテカルロ・ハートセンターにおいて、世界で彼しか行えない革命的な心臓手術を大金が動くルーレットを絡めて行っていた男だ。この作品は、そんな天城の心を日本に向けさせるための世良の奮闘をまず描き、さらに、天城が日本に帰国してから佐伯外科がとことん振り回される様を描いている(天城配下に置かれることとなった世良は、天城から青二才を意味するジュノと呼ばれて可愛がられつつ、誰よりも天城に振り回される日々を送る)。
天城は、“医は仁術”といって日本の医療関係者が目を背けていた医療と金というポイントに徹底的にメスを入れ、高階の神経を逆なでする。とはいえ、抜群の腕前としっかりした考えを持つ天城による問題提起(しかも実践を伴う)だけに、中途半端な反論は全く通用しない。そんな二人の対立に加えて、天城が実現させようとする“公開手術”までを世良は至近距離から見ることになり、そしてやはり医療とはなにかを深く考えていく。
ここにしかない、絶品の読み味
そして三部作の完結篇となる『スリジエセンター1991』だ。
“スリジエ”とは、さくらのこと。そして“スリジエ・ハートセンター”とは、佐伯教授の指示で天城が設立を進めている心臓手術専門病院のことである。天城は、その設立資金を獲得するため、地元の名士であるウエスギ・モータース会長の公開手術を目論んだ。だが、東城大医学部内には、天城のそうした動きを快く思わない者が数多く存在していた。その一人が、高階である。高階は、佐伯教授も出馬する東城大学医学部付属病院の次期院長選挙を背景に、天城への闘いを密かに仕掛けていった……。
彼が天城に対して仕掛ける罠は、実に周到である。公開手術というただでさえ非日常の現場において、高階の策略によって、天城は極めて不自由な手術を迫られるのである。ピンチだ。おそろしくピンチだ。実際には高階が仕組んでいた以上の出来事も発生し、天城はさらに追い詰められる。とてつもないピンチなのだ。第2巻を経て高階から天城に“推し変”したであろう読者は、天城の危機に心底ハラハラすることになる。このスリルは、そう、ここにしかない。海堂尊の小説でしか味わえないスリルなのだ。現場で苦しむ天城には申し訳ないが、絶品の読み味なのである。
今回のドラマ化をきっかけに原作を手に取る方もいるだろう。そうした方は、実に幸せ者である。《バブル》三部作を読む、そのスタートラインに立っているのだから。あるいは、人によっては、さらに広く海堂尊ワールドの入り口に立っているのだから。是非、足を踏み出して欲しい。その先には、上質で幸せな読書体験がたっぷりと待っているので。
原作を既に読んだという方々も、せっかくのドラマ化なので読み返してみてはいかがか。とうに御承知だろうが、充実した時間が、ここには約束されているのだから。
(文・村上貴史「IN★POCKET」3月号より一部抜粋)
著者プロフィール
海堂尊(かいどう・たける)
1961年、千葉県生まれ。医師・作家。1988年千葉大学医学部卒。1997年千葉大学大学院博士課程修了。『チーム・バチスタの栄光』(2006年/宝島社刊)で第4回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しデビュー。宝島社のシリーズはファンの熱烈な支持を得て累計1000万部を超える。同シリーズを含め『ジーン・ワルツ』『極北ラプソディ』など映像化作品も多数。『ブラックペアン1988』『ブレイズメス1990』『スリジエセンター1991』のバブル三部作は累計150万部を突破している。作品群は世界観が統一され「桜宮サーガ」とも呼ばれる。現在キューバ革命の英雄チェ・ゲバラの生涯を描く大河小説「ポーラースター」シリーズを執筆中で、最新刊は第2巻『ゲバラ漂流』。