2017年上半期(1月~6月)の新書部門売り上げナンバーワンを記録した『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』。“なぜ、この本は面白いのか!?” 著者のケント・ギルバートさんに聞いたベストセラーの秘密。
──刺激的なタイトルですが、なぜこんなに反響があったのだと思われますか?
現実的に、たったいま北朝鮮が(ミサイル実験などで)暴れています。中国はその北朝鮮に対して本気では動かない。韓国が新大統領(文在寅)に変わったはずなのに、日本に対する冷たい態度は変わらない。なぜ中国や韓国は、日本と仲良くできないのか。みんな理由がわからないままフラストレーションを感じています。また一方では、中国や韓国は日本を恐れているともいいます。それはなぜか? 両国の徹底した反日教育は有名な話ですが、それだけでは彼らの行動を理解できない。中国、韓国、北朝鮮の三ヵ国と日本の間に横たわる、それ以外の“何か”があるのではないかと思い、わたしなりに根本の部分を掘り下げてみたのがこの本です。
──そのフラストレーションに対して、読者の皆さんからは、「腑に落ちた」とか「目からうろこが落ちた」などのコメントが多数寄せられています。
それだけ、現状がわかりにくかったということです。<儒教>というキーワードにしても、福沢諭吉など、その問題点を日本人はとうの昔に指摘していた。ですが、戦後の断絶した教育で忘れられていました。そこにこの本が出たことで、もう一度、みんなが考えるきっかけになったのだと思います。いまは、こういう過激にみえることを書くと、すぐに反論を受けることになります。ですが、アメリカ人であるわたしが、中国や韓国を嫌わなければならない理由はどこにもありません。本書にも謳(うた)いましたが、この本は、ある国家が、隣国と正しく付き合っていくための<外交の作法>の本だと思っています。
──なにかと騒々しい隣国ですが、日本人はどのように対処していけばいいのですか?
もちろん、この作法書には、警告の意味合いも含まれています。ちょっとキツい言い方になりますが、日本は性善説の強いお人好しの国です。性善説は外交の邪魔になります。日本の考え方をベースにして相手国と付き合おうとすると損をする、つまり国益を損ねるのです。相手を理解して、ときには断固とした強い姿勢を見せることも必要なんです。
──相手に対して意見をぶつけたり、問題解決のリーダーシップをとったりすることを、日本人はなんとなく避けていく傾向にあると思いますが。
日本では長い間、謙遜や謙譲の気持ちが美徳とされてきました。日本人は、リーダーシップをとったり国益を声高に主張するのは美徳に反すると思いがちです。ですが、謙遜と臆病は紙一重なのです。日本の国益はだれが決めるのか? それは、自分たち日本人が決めるに決まっている。中国では夫婦喧嘩を始めると、外に出て近隣の第三者に聞こえるようお互いの正義を訴えようとするという話を聞いたことあります。内に引きこもらないで外に味方をつくるのです。そういう国民性の国々と向き合っている場合、ただ黙って静かにしていたら、第三者に対してどんどん立場が悪くなる。そのなかなか見えない構造に早く気がつくべきなのです。
日本に対する世界の世論はだれがつくるのか。それは、日本を少しでもよく理解し評価してもらうために、日本が努力しなければいけないこと。先進国には、そのための情報機関が必ずある。アメリカではCIAが世界の情報を集める機関だとすれば、逆に米国側から“アメリカの言い分や魅力”を宣伝していくための機関もちゃんと存在しているのです。
──日本が世界のなかで、進んでリーダーシップをとっていくことが、また同時に「魅力的な日本」を発信していくことにつながってくると。
わたしの講演会で、日本は大国だと思いますか?という質問をすると、参加者の10パーセントも手を挙げません。これだけ存在感が大きい国なのに、自国民にその意識がない。G7のなかで人口は第2位。円は世界3大通貨。国連への供出金も多額のものを負担している。これは紛れもなく大国であり、またそういう役割を求められている。たしかに中国や韓国は、日本に対して特別な感情を持っているかもしれません。ですが実は、世界の多くの国が、日本がリーダーシップをとることを期待しているのです。そのためには、失われつつある日本の自尊心を、政治や教育などの場で、しっかりと取り戻していくことが重要なのです。
日本では、武士道も正しく教えられていません。日本の敗戦処理に伴う戦後教育で、自国の文化に対する誇りを破壊させられたので、それら日本人の思想や様式をどう扱っていいかわからなくなっている。ほんとうの日本とは、いったいいつの日本なのか。西洋に追いつけ追い越せとやった明治の頃なのか、それともそれ以前の日本なのか。もう一度、立ち返って考えてみる必要があると思います」。
──世間では、嫌中、嫌韓、親日、反日などの言葉が行き交っています。最後にお伺いします。この本で、いちばん大事にしなければならない、隣国と付き合うための作法とは、どのようなものでしょう?
好きとか嫌いとか。そういう感情は、はたして意味があるのでしょうか? 世界を見渡せば、感情的には仲が悪くても、外交としてうまくやっている隣国の例はいくらでもあります。好きだとか嫌いだとかの感情に埋もれがちな、東アジア各国の根本的な構造についてもっと知ってもらいたい。それがわたしの願いです。自分の価値観だけではなく、交渉相手をよく知るというのは“外交の基本中の基本”であり、もっとも重要な作法です。国家間やビジネス上の関係だけではなく、一般の方々にも、この構造を知ることによって、ニュースを読み解き、正しい政治家選びをしてもらえたらと思っています。
──本日はありがとうございました。
インタビュー・文/中丸謙一朗
1952年、アイダホ州に生まれる。1970年、ブリガムヤング大学に入学。翌1971年に末日聖徒イエス・キリスト教会のモルモン宣教師として初来日。経営学修士号(MBA)と法務博士号(JD)を取得したあと国際法律事務所に就職、企業への法律コンサルタントとして再来日。弁護士業と並行して英会話学校「ケント・ギルバート外語学院」を経営。またタレントとしてもテレビに出演。2015年、アパ日本再興財団による『第8回「真の近現代史観」懸賞論文』の最優秀藤誠志賞を受賞。『日本人の国民性が外交・国防に及ぼす悪影響について』と題した論文は、日本人の誠実さなどを「世界標準を圧倒する高いレベル」と評価。一方、その国民性が「軍事を含む外交の分野では、最大の障害になる」とした。
著書には、『ケント・ギルバートの素朴な疑問 不思議な国ニッポン』(素朴社)、『国際化途上国ニッポン』(近代文芸社)、『不死鳥の国・ニッポン』(日新報道)、『まだGHQの洗脳に縛られている日本人』『やっと自虐史観のアホらしさに気づいた日本人』(以上、PHP研究所)などがある。