ぼくたちは、すこしずつちがう。だから支えあえる。
三人の少年の忘れられない夏の友情物語。
予想のつかない展開、感涙のラスト。
学校イチの人気者の“秘密”とは?
デビュー作である『ぼくたちのリアル』で、産経児童出版文化賞フジテレビ賞、児童文芸新人賞、講談社児童文学新人賞の3つの賞を受賞した戸森しるこさん。 読者を惹きつける個性バラバラな少年3人の友情物語は、どうやって生まれたのでしょうか?
このお話がうまれたきっかけはなんですか?
ある日インターネット上で、男の子が描かれた二枚のイラストを見かけました。そのとき、リアルとサジが私の中に現れたのです。ふたりがとても魅力的だったので、このふたりの出てくる物語を書きたいと思いました。
私の中で動き回るふたりに、「きみたちで物語を書いてみようと思う」と声をかけたことを、よく覚えています。そのあと、このふたりをより魅力的に描くために、主人公は別の少年にしようと考えました。それが渡です。主人公だけれど、渡はふたりよりも少し遅れて、この企画に参加しました。三人がそろったあの瞬間こそが、「ぼくたちのリアル」の出発地点です。
このお話で伝えたいことはなんですか?
物語を通してみなさんに「伝えたい」と思っていることはあります。でも、それをそのまま言葉にしてしまうというのは、あまり気が進みません。それと同じように感じる必要はないからです。リアル・渡・サジのように、みなさんの個性や感じ方もバラバラなはず。いろんな感想が生まれて当然です。私はみなさんに自由に感じてもらいたいと思っています。
どんな人に読んでもらいたいですか?
『ぼくたちのリアル』が必要なあなたに。この本を読んでくださったみなさんが、リアル・渡・サジと友だちになってくれたらうれしいです。あと「三人の中で誰が好き!」というのは、聞いていてちょっと楽しい。
どんな子どもでしたか?
本が好きで大人しい子どもでした。人前で話すことがとても苦手で、授業中は先生から指されるまで発言できなかった記憶があります。でも本当は目立つのが結構好きだったみたいで、六年生の時は渡のように放送委員をやったりもしました。そのころのクラスメイトからは、「何を考えているか分からなかった」とか、「ミステリアスだった」とか言われることがあります。実を言うと、私自身も自分が何を考えているのかよく分からないと思っていました。 「しるこ」という不思議なあだ名がついたのは、ちょうどそのころです。当時のクラスメイトによると、「(肌の色が白くて)おしるこの中のおもちに似ていたから」だそうです。
好きな作品はなんですか?
好きな本はたくさんあります。でも「どれか一冊」と言われたらこれを答えることにしています。斉藤洋さんの『ルドルフとイッパイアッテナ』。
十歳くらいの時に読んで、私が生まれてはじめて「おもしろい!」と思った本です。本を好きになったきっかけでした。そのころ習っていたピアノの教室に持って行って、待合室で読んでいました。それまで読書感想文は苦手だったのですが、「この本なら書きたい」と思って、それを選んで書きました。それから二十年以上たった今でも、それが一番好きな本です。冒険・友情・ユーモア・猫。私の好きなものがつまっています。
どうして作家になろうと思ったのですか?
子どものころから空想するのが好きで、心の中に現実とは別の世界や人々が存在していました。みんなもそうなんだろうとずっと思っていたのですが、どうやらそうでもなさそうだ、と、気付き始めたのが十代後半のころ。現実に気をとられている間に、それまで心の中で育ててきた空想の世界が消えてしまうという経験をしました。
空想の世界は、一度消えてしまったら、そこでおしまい。まったく同じ形で自分の中に戻ってくることはないのだと知り、大きなショックを受けました。「もう消えてほしくない」と、私は強く願いました。その手段として、「文章にする」「物語にする」ことを選んだのだと思います。そうすれば「ほんものに近くなる」と考えたわけです。そして、自分のそういった個性を活かして仕事にできそうなのは、「作家」だろうなと思いました。
『ぼくたちのリアル』の次にかいた『十一月のマーブル』は、どんな作品ですか?
絵を描くことが得意な六年生の男の子・波楽(はら)が主人公です。自分のおとうさんに届いた葉書を見つけたことをきっかけに、波楽はそれまで知らなかった家族の秘密を知っていくことになります。
親友のレンが力になろうとしてくれますが、波楽とレンとの関係にもある秘密が。いくつかの偶然が重なるようにして生まれた、運命と絆(きずな)の物語です。この本を大人になってから読み返したら、ひょっとすると今とは違う物語が見えてくるかもしれません。そんな本にすることを目指しました。『ぼくリア』を読んでおもしろかったら、『十一月のマーブル』もぜひ読んでみてください。
戸森しるこ
1984年 埼玉県生まれ。武蔵大学経済学部経営学科卒業。東京都在住。『ぼくたちのリアル』で第56回講談社児童文学新人賞を受賞し、デビュー。同作で日本児童文芸家協会児童文芸新人賞、産経児童出版文化賞フジテレビ賞を受賞。2作目に『十一月のマーブル』がある。
感動の声、続々!
「完ぺきな人間はいない」ということに感動しました。ぼくも誰かの助けになれるのかも。(11歳、男性)
「3人の友情にふれて、読んだあと、誰かを信じたくなった。心がかわいたら、大人も読むべき夏の課題図書。少年時代を思い出しました。(56歳、男性)
親とうまくいかなかったり、異性や同性への恋心などナイーブな問題を抱える3人組。お互いを思いやるやりとりに心ときめきました(35歳、女性)