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2016.10.21

レビュー

「独立国家」を0円で建てた男──日本を変える、支持率断然!の視座

以前紹介した『現実脱出論』が坂口さんの“原理=闘争宣言”だとすれば、この本はそこにいたるまでの坂口さんの“活動報告書”といえるものだと思います。

さて、自らを初代新政府内閣総理大臣と任じる坂口さんの考える“独立国家”とはどのようなものでしょうか。芸術家の考える“夢想”というようなものではありません。

たとえば以下のような疑問に正面から答えようというのが坂口さんが作り上げようとする“独立国家”です。

1.なぜ人間だけがお金がないと生きのびることができないのか。そして、それは本当なのか。
2.毎月家賃を払っているが、なぜ大地にではなく、大家さんに払うのか。
3.車のバッテリーでほとんどの電化製品が動くのに、なぜ原発をつくるまで大量な電気が必要なのか。
4.土地基本法には投機目的で土地を取引するなと書いてあるのに、なぜ不動産屋は摘発されないのか。
5.僕たちがお金と呼んでいるものは日本銀行が発行している債権なのに、なぜ人間は日本銀行券をもらうと涙を流してまで喜んでしまうのか。
6.庭にビワやミカンの木があるのに、なぜ人間はお金がないと死ぬと勝手に思い込んでいるのか。
7.日本国が生存権を守っているとしたら路上生活者がゼロのはずだが、なぜこんなにも野宿者が多く、さらに小さな小屋を建てる権利さえ剥奪されているのか。
8.二〇〇八年時点で日本の空家率は13.1%、野村総合研究所の予測では二〇四〇年にはそれが43%に達するというのに、なぜ今も家が次々と建てられているのか。

誰もがかつてはこのような“素朴な疑問”を持っていました。それがいつの間にか消えていく。坂口さんが『現実脱出論』で語ったように、「そうはいっても現実は……」という“硬直した現実論=現実感”を盾にして“素朴な疑問”を棚上げにしていったように思います。

この“疑問”を手放さないというのはどういうことでしょうか。

それに答えることは今の現実国家では難しい、あるいははぐらかされてしまう。ならばそれらの疑問に答えようとする“国家”をつくるしかない。

これがこの本のタイトルの由来です。それは「自分の人生をただ自分の手でどこにも属さずつくりあげている」ということです。

ではどのようにすれば“独立国家”をつくることができるのでしょうか。この本でキーワードとなっている「レイヤー(層)」という考え方です。ホームレスの人々の生活と触れ合って坂口さんはこのようなことを考えました。
──同じモノをも見ていても、視点の角度を変えるだけでまったく別の意味を持つようになる。彼の家、生活の仕方、都市の捉え方には無数のレイヤー(層)が存在していたのだ。彼が見ているレイヤーは普通の人が見ているレイヤーとは違うので、誰にも気付かれないし、誰からも奪われない。同時にそこを他の人が使っても文句がない。彼はこれまでの所有の概念とはまったく違った空間の使い方を実践しているのだ。──

“独立国家”は彼方にあるわけではありません。“パラレルワールド”のように私たちのすぐ横に(側に)あり、だれもが建国することができるものなのです。

もちろんこれは、“現実”というものから目をそらすということではありません。ましてや“現実”に怖れをなして、あるいはひるんで、“現実”を追認するだけになっている自分を容認することではありません。

忘れてはならないことは、動かすことのできない“現実”などというものはない、ということです。
──インフラなどの安定しているように見える社会システムは、みんなが暮らしやすいように、「ゼロ思考」でも対応できるようなレイヤーである。匿名化したレイヤーと言ってもいい。そこには「思考」がないから「疑問」もない。(略)社会システムのレイヤー、僕たちが勝手にそこに位置していると勘違いしている匿名化したレイヤーというのは、実は実体がないものだ。──

動かすことのできないのは“現実”ではありません。自分の思考を放棄し、既製の社会システムに身を委ねてしまうから、そう思い込んでしまうのです。怠惰への志向、長いものには巻かれろ的な志向が、本来は柔軟な“現実”というものを“頑迷固陋”なものにしてしまうのです。

“現実”というものにひるむこと、目を背けることは自分を喪失することにつうじるものがあります。

「独立国家は、僕たちそれぞれの精神の中に、確実に生まれている」
「思考しよう。そして、社会を拡張しよう」
「自分の人生をただ自分の手でどこにも属さずつくりあげている」

思考し続けること、それが“独立”への第1歩です。まずはイメージから変われといった人がいました。変えられないと諦めることなく、自分の思考を信じ、強くすることで、違った未来が開けてくるように思います。

生きることの勇気を感じさせてくれる1冊です。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。

note
https://note.mu/nonakayukihiro

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