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2016.07.12

レビュー

【習慣恐怖】行動の40%を占め、人格を支配する。変える技術を!

「私たちの生活はすべて、習慣の集まりにすぎない」。この本で引用されているウィリアム・ジェームズ(アメリカの哲学者、心理学者)の言葉です。ちなみにウィリアム・ジェームズはプラグマティズムを主唱し、また意識の流れの理論の提唱者としてもよく知られている学者です。

ウィリアム・ジェームズの言葉に続けてデュヒッグさんはこう続けています。
──私たちが毎日行っている選択は、よく考えた末の意思決定だと思えるかもしれないが、実はそうではない。それらは習慣なのだ。(略)デューク大学の学者が2006年に発表した論文によると、毎日の行動の、じつに40パーセント以上が、「その場の決定」ではなく「習慣」だという。──

だとするならば、この「習慣」というものを見直し、変えることによって自分を変え、望ましいものに変えていけるかもしれません。

ではどのようにすれば「習慣」を変えることができるようになるのでしょうか。まず「習慣」はどのようにして生まれてくるのかをつかむ必要があります。

「習慣」は3つの段階を経て生まれてきます。
──第1段階は「きっかけ」で、これは脳を自動作業モードになるように、そしてどの習慣を使うかを伝える「引き金」である。次が「ルーチン(きっかけに反応して起こる慣例的な行動や思考)」で、これは身体的なものだったり、脳や感情に関わるものだったりする。そして最後が「報酬」で、これはある具体的なループを、将来のために記憶に残すかどうか、脳が判断する役に立つ。時間がたつにつれ、この「きっかけ→ルーチン→報酬」というループは、どんどん無意識に起こるようになる。きっかけと報酬が相互につながると、強力な期待や欲求が生まれる。やがて、そこに一つの習慣が生まれる。──

「きっかけ」→「ルーチン」→「報酬」→「きっかけ」の流れが強くなることで「習慣」となるのです。そしてこう記しています。
──習慣を変えるには、前と同じきっかけで、前と同じ報酬を使いつつ、新しいルーチンを組み込むべきなのだ。きっかけと報酬がそのままなら、ほぼどんな行動も変えることができる。──

重要なのはルーチンを変えるということになります。このルーチンを変えることによって「習慣というもの」を変えていくことができます。

ここで気をつけなければならないのは、「習慣はなくせない」ということです。
──そのため交換するしかない。そして、もっとも簡単にそれができるのは、習慣入れ替えの鉄則が適用されたときであることもわかっている。同じきっかけと同じ報酬を使えば、新しいルーチンを入れることができるのだ。しかしそれだけではじゅうぶんではない。つくり替えた習慣を身につけるには、「変われる」と信じる必要がある。──

「信じる」という言葉に驚かれるかもしれませんが、この「信じる」という意味を再確認させてくれるのがこの本の魅力のひとつです。そこにはウィリアム・ジェームズの「人生は価値あるものだと信じなさい。そうすればあなたのその信念が、人生は価値あるものだという事実を生み出すでしょう」という言葉が響いているように思います。

この本の最後では習慣入れ替えをどのようにしていけばいいかを詳説しています。これには4つのステップがあります。
1.ルーチンを特定する:自分の習慣を理解するためには、「きっかけ、ルーチン、報酬」のループに何が当てはまるのかを特定しなければならない。ある行動の習慣のループを分析できれば、以前の悪習を新しいルーチンに置き換えることができる。
2.報酬を変えてみる:報酬の背後にある欲求は自分では気がつかないことが多い。その欲求の正体を突き止めるために報酬を変えてみる。
3.きっかけを見つける:場所、時間、心理状態、自分以外の人物、直前の行動とに分けて自分のきっかけをつかむ。
4.計画を立てる:自分の習慣のループがわかったら、これをつくり替えるためには、もう一度、選ぶことから始めなければならない。そうするのに一番簡単な方法は、計画を立てることだ。

このステップを踏むことで、たとえ時間がかかっても、習慣を変えることができるようになります。

──習慣がどのように働いているかがわかれば(きっかけ、ルーチン、報酬を特定できれば)、習慣を支配する力を手に入れることができるのだ。──

「心が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。習慣が変われば人格が変わる。人格が変われば運命が変わる。」
ウィリアム・ジェームズのこの言葉が実感できるのではないでしょうか。

この本の興味深い点は「習慣」というあいまいとも思えるものを掘り下げたところにあります。「習慣」は人間の行動、心理に強い影響を与えています。その「習慣」に着目することで商品開発・宣伝の世界に大きな成果を出した企業の例も紹介されています。

それだけではありません。デュヒッグさんは社会運動の広がりにもこの習慣の力が働いていることを突き止めます。詳細はぜひ読んでいただきたいのですが、かつてのアメリカの公民権運動を解析して、そこに習慣力(=社会習慣)を発見しました。

社会運動は次の3つの段階を経て「ひとりでに進むようになり、臨界状態に達する」そうです。
1.友人との間の社会習慣、そして親しい知り合いとの強い結びつきから運動が始まる。
2.その運動がコミュニティの習慣となり、隣人や仲間たちをまとめる弱い結びつきの力によって拡大していく。
3.リーダーが参加者に対し、新たなアイデンティティや当事者意識を感じられるような、新しい習慣を与える。

公民権運動は始まりは一人のアフリカ系アメリカ人女性の逮捕から始まりました。バスの中で起きた出来事がバス・ボイコット運動へ、さらには公民権運動へとつながっていった背景にはこの3つの段階がありました。社会習慣が運動を拡げ、成功させたのです。実は重要なのは「隣人や仲間たちをまとめる弱い結びつきの力」のようです。「弱いつながり」こそが友人同士の「強いつながり」を広げていくキーになっているのです。この部分はこの本の中でも特筆すべき箇所だと思います。

「心が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。習慣が変われば人格が変わる。人格が変われば運命が変わる。」という言葉にもう一つ付け加えるべきなのでしょう、「そして社会が変わる」というひと言を。

習慣という私たちが気づかずに行っていること、そこに着目することは自分たちの可能性を広げることにつながるのです。そんなことを考えさせてくれる楽しい1冊です。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。

note
https://note.mu/nonakayukihiro

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