ステロイドはこわい薬?! ──それは誤解です
ステロイドの副作用で……皮膚が厚くなる? 皮膚が黒くなる?
⇒適切な強さ・量を使わず、悪化したときの症状です
ステロイドを塗っていると……そのうち効かなくなってくる? 中毒になる?
⇒正しく使えば、使わなくてよい状態になります
ステロイドはアトピー性皮膚炎の治療では欠かせない薬ですが、乳幼児では軽症のことが多く、ほとんどの場合でステロイド外用薬は使っても弱いランクです。ステロイドを使わず保湿剤だけでよいこともあります。
ステロイドがこわくて、塗ったり塗らなかったり、塗る回数を減らしたり、量を減らしたりしていませんか? 親がよかれと思ってやることが逆効果になることもあります。正しい知識を身につけ、ベストな治療を受けましょう。
迷わずに標準治療を受けよう
アトピー性皮膚炎をよくするには、薬物療法だけでは不十分です。正しい治療法は、ステロイドを使うことだけではありません。保湿などのスキンケアを心がけ、生活全般を見直して悪化因子を取り除きます。三つの柱で皮膚の状態を底上げしていきます。
標準治療の三本柱
① 薬物療法…皮膚の炎症をしずめ、かゆみを改善
② スキンケア…皮膚を清潔にして汚れなどの刺激を取り除く
③ 悪化因子の除去…ダニやハウスダスト、食物などの悪化因子を減らす
完治ではなく、コントロールを目指そう
炎症をしずめるだけが治療ではなく、薬とスキンケアなどで「よい状態を保つ」ことが治療の目標です。完璧に治ることにこだわらず、日々の生活の負担をなくすことを目指しましょう。
心がけたいこと
・正しい情報をもとにする
・医師との信頼関係をきずく
・子どもといっしょにアトピー性皮膚炎に付き合っていく
アトピービジネスにふりまわされないで
<アトピービジネスとは>
科学的な根拠によらず、アトピー性皮膚炎がよくなるという治療法や商品をすすめるのがアトピービジネスです。なかには伝統的な民間療法もあり、すべてダメとはいえませんが、高額なものには注意が必要です。
家族や周囲の人が治療法を正しく理解せず、不確かな情報に翻弄される場合も。なかには、効果に乏しい治療に高額をつぎこんでしまうなど、深刻なケースもあります。
治療を続けていても、ちょっとしたことで悪化したりと、なかなか治療の効果を実感できないことがあります。そんなときに「ステロイドは危ない」といわれたり、「ステロイドは効かないのではないか」と誤解したりして、標準治療を中断し、民間療法や、高額な治療法に乗り換えたりする人は少なくありません。しかし、現在のところ標準治療以外に、効果が認められている治療法はありません。重症になって受診する患者さんのなかには、本来治るはずだったのに、標準治療以外の治療法で悪化してしまった人もかなりいると考えられます。
ステロイドの本当の副作用を正しく知ろう
ステロイドは、もともと体の中にあるホルモンの一種で、別名は副腎皮質ホルモン。アレルギー反応や免疫反応を抑える働きがあり、ステロイド外用薬(塗り薬)はアトピー性皮膚炎の治療では欠かせません。ステロイド外用薬に副作用がないとはいいませんが、間違った使い方で悪化した症状や飲み薬の副作用と混同し誤解している人が多くいます。誤解をといて正しい副作用を知ることが大切です。
誤解されている症状
・長い間つかっているのに、一向によくならない
・薬を中断すると、すぐにぶり返す
・皮膚が黒ずんでくる
⇒これは、薬の誤った使い方による症状
・免疫力が低下する
・骨がもろくなる
・顔が丸くなる(ムーンフェイス)
・糖尿病の危険性が高くなる
⇒これは、飲み薬の副作用
ステロイドの塗り薬は皮膚から吸収されますが、体内に浸透して血液中に入るのはごくわずか。副作用は起こっても、塗った部分だけの局所的なものです。塗り薬を替えたり、中断したり、塗る期間をあけたりすれば改善します。
治療に関しての不安や疑問を解消しよう
気になるけれど、医師に聞くほどではない……と思っていることが、意外に治療の効果に影響する場合もあります。ちょっとしたことでも、疑問や不安を解消して治療に取り組みましょう。
Q. 赤ちゃんや子どもに強い薬を使って大丈夫?
A. ステロイド外用薬の副作用は、強さだけではなく、使う期間に比例して起こりやすくなります。つまり、強い薬でも短期間に使うだけなら、副作用は起こりにくいことを知っておきましょう。
Q. 市販のステロイド薬を使ってもよい?
A. ステロイド外用薬を薬店やインターネットで購入することは可能です。しかし、アトピー性皮膚炎の治療のためにはおすすめできません。市販のステロイド外用薬は安全性のため効き目が弱いものが多く、炎症がひどい人にはあまり効果が期待できません。
Q. ステロイドを自分で 薄めて使ってもよい?
A. ワセリンで薄めたと思っても、ステロイドが皮膚から入る量が少なくなるわけではありません。自分で希釈することで正しい使用量がわからなくなり、場合によっては使いすぎる可能性もあります。混ぜる量などを医師に相談しましょう。
Q. ジクジクした肌の治療法は?
A. まず小児科か皮膚科で相談しましょう。特に乳児の場合、炎症部分から異物が入って、アレルギーの原因となる可能性があります。
監修者プロフィール
江藤隆史(えとう・たかふみ)
東京逓信病院皮膚科部長。 1977年東京大学工学部卒。1984年東京大学医学部卒。関東中央病院、東京大学医学部皮膚科を経て、ハーバード大学病理学教室に留学。帰国後、東京大学医学部皮膚科にて医局長、講師・病棟医長を努め、1994年より東京逓信病院皮膚科医長。1998年より同部長。2014年より副院長を兼任。専門はアトピー性皮膚炎、乾癬、悪性黒色腫、水疱症。