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2016.04.05

レビュー

昭和のヒーローは、なぜ「在日」をタブーにしたのか?

本書は、在日韓国人3世である朴一氏による、日本で活躍する在日韓国人とその出自についての著書である。

筆者は、本書を読んで初めて在日韓国人の芸能人などを知ったが、特段驚かなかった。そして、そのこと自体はさして重要ではない。むしろ、いまだになぜ隠し続けているのかを知ることが重要であると考える。出自を隠す理由に、在日韓国人というだけでいじめられた、という現実があったという。

詳細は本書を見て頂きたいが、筆者は、その差別構造を小林よしのり氏の著作「ゴーマニズム宣言」に書かれた内容を紹介している。どの国にも差別する側と差別される側があるが、在日韓国人であることがいまだにタブー視されているのは、日本の恥部と言える。

プロ野球選手として活躍した、張本勲氏が力道山から言われた言葉が衝撃的だ。

――すると、リキさんの表情が変わり、ぶんなぐられました。『日本の植民地時代にわしら朝鮮人は虫けらのように扱われたんだ。隠していかないと生きていけなかったんだ。いまこうして国民のヒーローになったわしが朝鮮人だと言ってみろ、ファンがどれだけ落胆するか、貴様になにがわかるか』――

かつて行われた戦争の歴史や日本人に対する認識が、まだ生々しく息づいていたのが昭和だった。歴史に“たられば”は禁物だが、戦後(日本人である)力道山の戦いぶりがナショナリズムをかきたて熱狂させたと言われるが、仮に彼の出自を知っていたら、反応は違っていたのだろうか。

なお、ここからは筆者の私見だが、日本人も徐々に変わってきたのではないかと思う。例えば、スポーツ界や芸能界での在日韓国人の活躍ぶりに眉をひそめている人は少数派ではないだろうか。むしろ、出自を知ったから応援するのをやめるなどというのは、圧倒的に少数派のはずである。ヘイトスピーチをしている輩も少数派であることは間違いない。

二重国籍を認めるかどうかは慎重に考える必要があるが、今後さらにグローバリゼーションが深化していく中で、今まで以上にソフトパワーを発揮し、アジアにおいて中国とは違った魅力ある国になるためにも、今まで以上に外国人に寛容になる必要があると思う。また、そうなるポテンシャルが日本にはある。

例えば、相撲は国際化に成功した事例と言って良いだろう。テニスにおける英国と同じく、ウィンブルドン現象となって久しいが(先場所は10年ぶりの日本人力士の優勝だった)、力士の出身国は拡大する一方だ。不祥事後にも確実に客足を取り戻して再び人気が高まっている。囲碁の世界でも、中国、韓国、台湾人棋士の活躍ぶりはつとに知られている。

スポーツや各種競技、芸能界に共通することは、一定のルールにおける実力社会であるということだろう。

芸能界は少し違う力学が働きそうではあるが、実力があれば国籍に関係なく評価される場が多くあることは、成熟した国家にとって不可欠な要素だ。

こうしたことを踏まえると、大多数の国民は本来は移民に寛容な気がするが、なぜか政治判断になると後退してしまっているのが残念だ。


本書は、特に、大学生や20代の若い読者に読んで頂きたい一冊である。

レビュアー

望月 晋作 イメージ
望月 晋作

30代。某インターネット企業に勤務。年間、150冊ほどを読破。

特に、歴史、経済、哲学、宗教、ノンフィクションジャンルが好物。その中でも特に、裏社会、投資、インテリジェンス関連は大好物。

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