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2016.01.19

レビュー

遠藤保仁の「知性」と「哲学」があなたの思考を刺激する

先に断っておくと、本書は遠藤保仁選手がご自身のプレーを子細に分析したり、微に入り細を穿ちながら戦術的なことを語っている本ではありません。『白紙からの選択』は、言わば、遠藤保仁さんの考え・言葉を綴った「哲学書」です。

──ところで、サッカーにおける最も重要な要素とはなんだと思いますか? 

サッカーに限らず森羅万象は複合的で、何かひとつだけで成り立っているものの方が少ない。だから、きっとこんな質問はナンセンスなのですが、遊びだと思ってひとつ挙げてみてください。

ちなみに僕の場合は「知性」です。

戦略、戦術、局面における個の判断など、サッカーを行う上で知性の存在は欠かすことができません。僕の認識では、そうしたサッカーにおける知性の体現者が、元バルセロナのシャビ・エルナンデスであり、指導者なら元バルセロナで現バイエルン監督のペップ・グアルディオラ、──そして日本人選手においては遠藤保仁さんなのです。

スペースを認知してそこにするするっと侵入する動き、味方から受けたパスをトラップするとき、次のプレーに繋げるためのボールの方向づけなど──遠藤選手のプレーを観ていると、ああこの人はとても賢いんだなと、常に知的な喜びを感じます。そのため僕は、遠藤選手が試合中にどんなことを考えているのか、ずっと気になっていました。そうした次第で、本書『白紙からの選択』を手に取ったのですが──。 

意外や意外、本書によると遠藤選手はプレー中、「たぶん、何も考えてません」とのこと。

……え、ホントに? 

「遠藤保仁という選手のプレーを客観的に見たら……、ある程度はやっかいな選手なんじゃないですか? 何考えているのかわからないから。僕の長所はそこだと思います。常に「白紙」の状態でいられるところ。ま、短所にもなりえるんですけどね。「白紙」になるコツは、ありません。何も考えなきゃいいんですよ、単純な話」

もちろん本当にまったく何も考えていないわけではなく、テレビには映らないところで細かいフェイントを繰り返しているそうです。

僕は『白紙からの選択』を読了して、遠藤選手に対しては、むしろ、知的な人、論理的に物事を考える人という印象をますます強めました。と同時に、禅問答みたいな物の考え方をする人だな、とも。オフの日には一切トレーニングをしない。ハーフタイムにシャワーを浴びる──など、遠藤選手は本書でずいぶん〝マイペース〟なことを言っています。
 
しかし、それにしたって明確なルール──判断基準があってやっていることであり、その動機を詳しく読むと、マイペースというよりも論理的な人なんだなという印象を濃くするのです。そもそも、周りからマイペースと言われがちな遠藤選手は、ご自身でマイペースと認めつつも「遠藤はマイペース」論に反論しています。

「僕だけじゃなく、みんな〝マイペース〟ですよね?」と。「だって、「マイペース」って、〝自分のペース〟のことでしょ?」と。

言われてみれば、その通り。言いくるめられた感がなきにしもあらずですが、遠藤選手の考え方には、他にも、教訓や示唆に富むものが多いと感じます。そういうところが、『白紙からの選択』を読んでいて僕は一番面白かった。この本のセールスポイントでしょう。

「火事場で初めて馬鹿力を出すようじゃ、遅い」

「すべてに対してゼロの状態で向き合えば、ある程度は対応できる」

「ピンチをチャンスとは思わない。ピンチはピンチ。乗り越えた先に、キレイな景色があるとは限らない」

「捨てずに変化する。変化に乗り遅れなければ、生き残る可能性は高くなる」

人は迷っていたり、物事について思考を発展させたりしたいときに、他者の言葉に励まされ、他人の考えを取り込むことで自分の考えを先に進める手助けとしたりするものです。

僕自身、〝遠藤哲学〟に触発されました。あなたの思考を刺激する言葉も、『白紙からの選択』の中に記されているかもしれません。

白紙からの選択

著 : 遠藤 保仁

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レビュアー

赤星秀一 イメージ
赤星秀一

小説家志望。1983年夏生まれ。愛するクラブはマンチェスター・ユナイテッド。

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