アメリカ・NY(ニューヨーク)で日本女性向けの料理教室を主宰しているひでこ・コルトンさんに、「NY流のおもてなし」について伺いました。日常にエンターテイメントがあふれるNYならではの、ゲストを喜ばせる方法とは?
”世界一の料理大学”と言われる、1946年創立の老舗料理学校『CIA(カリナリー・インスティテュート・オブ・アメリカ)』で料理の基礎を学んだ後、すぐには料理の道に進まず、外資系投資銀行に10年勤務。その後、42歳のときに「NY*おもてなし料理教室」を現地で始めたひでこさん。その教室は「おいしい! 簡単! ほかとはちょっと違う!」と人気を呼び、受講者数は、今や1500人を越えるほどの人気です。
──そもそも料理教室をはじめたきっかけは?
はじめはフランス料理に興味があったのですが、結婚してアメリカに渡り、これは現地の料理をきちんと学んだ方がいいぞ!と決意。『CIA』に通い、アメリカ料理の基礎をしっかり学びました。ただ、その後、離婚してしまい、生活のため、また金融業界に戻ったんです。しばらく料理のことなど忘れていましたが、再婚し息子を出産後、あまりに忙しいので業界から離れました。そのとき、もともと興味を持っていたこともあり、自分で時間調整ができる料理教室を開いたんです。
──どうしてこんなに人気が出たと思いますか?
こんなにも生徒さんが集まるとは、最初は思っていませんでした。私の生徒さんはほとんどが、海外駐在員の奥様です。ご主人のお仕事でついてきた奥様たちは、慣れない土地でとても不安なんですね。だから私のお教室を通して現地の日本人と出会いたいと思う方が多いようです。NYのパーティは、“人との出会いがいちばんの目的”と言われるほど。だから私のお教室も、“出会いの場”として活用してくださる生徒さんたちであふれているのかもしれません(笑)。
──NYというと毎週末、どこかの家でパーティを開いている印象がありますが、実際はどうなのでしょうか?
はい。そのとおりです(笑)。毎週末、どこかしら、誰かの家でパーティが行われています。NYのパーティがすごいところは、みんな、子どもの頃からパーティ慣れをしているので、テーマを立てるのも上手だし、そのテーマにとことんそって会場作りも料理もするところ。根っからのエンターテイナーなんですね。たとえばこれから来るバレンタイン。テーマを「LOVE」と決めたら、会場は「LOVE」を彷彿とさせるカラー(赤やピンク、ゴールドなど)やモチーフ(ハートやエンジェル)で埋め尽くし、料理もすべてテーマに沿って作ります。バレンタインなら、それこそ肉料理のソースにチョコレートをしのばせるといった具合です。その徹底ぶりが日本人にとっては、おもしろく感じるのではないでしょうか。また、先ほども言いましたが、ニューヨーカーにとってパーティは新しい人との出会いの場。仲間内ばかりで集まる日本のパーティとはちょっと違うんですね。いつも新しいゲストをお呼びするので、常に出会いがあり、エキサイティングなんです。
──ひでこさんの料理が人気の秘密は?
(1)立ち上がるシャンパーニュの泡の中で、ダンスしているかのようなクランベリー。華やかなカクテルは始まりにぴったり!
(2)焼き鳥の変化球。ライムとコリアンダーの香りがついたエスニック味です。
(3)パンナコッタはNYでも人気のデザート。ティーバッグを使って簡単にアレンジしました。
私の料理は、日本では食べたことのない味つけばかりなので、パーティの最中、食べ飽きるということがありません。その秘密は、日本人の感覚では考えつかない香りづけや食材合わせが多いからだと生徒さんたちは言っています。
NYには世界各国の最先端の情報や食が集まります。そのため、ニューヨーカーたちというのは非常に舌が肥えていて、うるさいんですね(笑)。だから“どこかで見たことがある料理”や“食べたことのある味”というのを、私はできる限り避けるようにしているんです。シャンパンにしてもそのまま出すことはまずありません。リキュールにつけたドライフルーツをグラスに入れてから注いだり(写真1)、ニューヨーカーにとってはおしゃれなフィンガーフードである焼き鳥も、塩やたれと言ったありふれたものではなく、ライムで味付けしたりするんです(写真2)。作り方が簡単で、おもてなしデザートの定番・パンナコッタも、カモミールティーで作るだけで別物になるんですよ(写真3)。つまり、私のおもてなし料理は、ごくありふれた料理の食材合わせをちょっと変えたり、香りをプラスしていたりするだけ。じつは難しいものではないんです。
──今回、初めての著書「新鮮! こんなの初めて! NYのおもてなしレシピ」を刊行されましたが、読者の方にはどんな活用の仕方がおすすめですか?
日本人にとってはちょっと変わった食材合わせや香りづけの料理が多いですから、いきなり全部私の料理でおもてなしするというのは、著者ですけれど、あまりおすすめしません(笑)。ゲストが驚いてしまうと思うからです。ですので、いつもの作りなれたおもてなし料理の中、1品だけ“NYのおもてなしレシピ”を取り入れてみてください。
たとえば気取らないおうち飲み会で、サラダに生ハム、チーズが並ぶ中、『あさりのディップ』(本書17ページ)があったりしたらおもしろいと思いませんか。もちろん普段の食卓にも使えます。今夜のメニューがカレーだとしましょう、そこへ『温製レタスサラダ』(レシピ参照)を入れるだけで、マンネリ化しがちな家族の食事にも新鮮さが加わります。そんな風に、私のNY流レシピを活用していただければ、幸いです。
「温製レタスサラダ」レシピ
〈材料〉
レタス……1玉
オリーブオイル、パルメザンチーズ……各大さじ4
塩、こしょう……各少々
〈作り方〉
1 レタスは縦4等分に切る
2 1のレタスの断面に、オリーブオイルを大さじ1/2ずつかけ、塩、こしょうをふる。
3 フライパンに2のレタスを入れ、断面を中火で軽く焦げ目がつくまで焼く。
4 一度返し、断面にパルメザンチーズ大さじ1ずつふりかけて返し、チーズが溶けるまで焼く。
聞き手 児玉響子