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2016.01.02

レビュー

「努力する子ども」はどう育てられたのか。親は何を見るべきか?

近年、巷には子育て本があふれ返っています。灘中・高等学校→東大理科三類に3人の子どもを入学させた“奈良のゴッドマザー”の著書が注目を集めましたが、この本もユニークな子育て論です。

著者は、井上真吾さん。ボクシング最年少世界2階級制覇チャンピオン井上尚弥さん、東洋太平洋スーパーフライ級チャンピオン井上拓真さん兄弟の父であり、トレーナーでもあります。その彼自らが、息子たちとのコミュニケーション術やトレーニング方法など、生々しい子育ての秘訣を伝えてくれます。

読み進めるうちに、著者のボクシングへの情熱、そして子どもたちに対峙する姿勢のまっすぐさに、感動して涙が出てしまいました。素晴らしい家族の一体感や、夫婦愛、忙しい現代社会では見失われがちな親子の絆が、ギュッと詰まっています。

一般に、「ボクシングのチャンピオンになれるなんて特殊な才能がある人だけ」と思ってしまいますが、この本を読めば、それが必ずしも真実ではないことがわかります。

まず、ボクシング好きの著者の姿を見てボクシングをやりたいと言い出した小さい息子たちに、人気度の高いサッカーや野球ではなく、ボクシングの手ほどきをしたところに、著者一流の勘のよさと、“選択と集中”の勝利を感じます。

「子どもが本気で興味があるものがあれば、小さいうちに親がそれを尊重し、伸ばしてあげる」。このことは、親にしかできない大切な仕事だと思います。

また、小さい頃に「凄いね」と、ほめて伸ばすことの大切さも改めて感じました。頭ごなしにやらせるのではなく、ひとりの人間として対等に接し、子どもが自らやる気を出し努力を続けるように仕向けることの大切さ、また、親自らが良い見本を見せることの大切さをこの本は教えてくれます。さらに、「強い相手以外とは戦わない」という井上家のモットーは、子どもに高い目標を持たせ、目線を高くすることがいかに重要かも物語っています。

一方で、中学に入ってからは慢心しないよう、常に戒める発言をしていたそうです。
「調子に乗るなよ」
「よくやった。でも、負けた相手は必死になって練習してくるからな」
厳しく叱責することもあったようです。ほめそやし過ぎておごりを持つようになってはいけない、これもまた、子育ての中で難しいさじ加減のひとつでしょう。

現代では、多くの親がよい大学に入学させたり、よい就職をさせたりすることを目標とし、まだ子どもが小さい頃から塾に入れて受験勉強を課すことが一般化しています。しかし、子育てにはもっと多様性があってもいいのではないでしょうか。

誰にでも当てはまる「理想的な子育ての方法」などないので、親の「見極める能力」が重要になってくるのではないかと思います。

私も日々試行錯誤しながら3人の子どもを育てていますが、自分の子育てが間違っていないのだと、この本を読み、勇気づけられました。私自身、絵を描くことが好きな子どもに絵の教室を勧めてみたり、音楽が好きな子どもにキーボードを買い与えたりしただけで、一般に言われる「理想的な子育て」はあえて意識してこなかったからです。

「努力は天才に勝る!」
多くの子育て中の方に、そしてこれからお子さんを育てる若い世代の方に、ぜひ読んでいただきたい1冊です。

レビュアー

常山あかね イメージ
常山あかね

早稲田大学卒業後、損害保険会社勤務。育児を機に退職後、SOHOでインターネット業界の仕事に携わる。1999年、メルマガやWEB等オンラインコンテンツを専門にしたライタープロダクション「企画室壱頁」を個人事業登録。2006年法人化。現在、(株)壱頁 代表取締役。「仕事も子どももあきらめない」女性が生き生きと輝く日本を目指すソーシャルベンチャーの代表として、日経新聞をはじめ、マスコミ掲載多数。消費生活アドバイザーとして、テレビ番組のコメンテーターも務める。

株式会社壱頁
http://壱頁.jp
http://www.page1.ne.jp/

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