あなたも介護前夜です
「介護前夜」とは、親は健在ではあるけれど、子が「このままで大丈夫だろうか」と心細くなり始める時期。あるいは、親の老いを感じ取りながらも、まだ何から始めればいいのかわからずに立ち尽くしている、そんな時期のことです。
「人生100年時代」という言葉のせいか、「70代なんてまだまだ若い」と考える人が多くなりました。確かに75~79歳では、約9割の人が要支援・要介護認定を受けていません。しかし裏を返せば、およそ9人に1人は、すでに何らかの支援や介護が必要な状態として認定されています。さらに85歳以上では、全体の6割近くが要支援・要介護認定を受けています。
親が二人とも健在、さらに配偶者の親もいるならば、介護が必要になる確率は一気に跳ね上がります。つまり、誰もが介護と無関係ではいられなくなる未来は、すぐそこまで迫っているのです。
介護の問題はケースバイケースで、親の状態ばかりでなく、経済や仕事の状況、法律までからんだ複雑なものです。しようとすればいくらでも難解にできるでしょう。本書は、そこを一般化して、「最低限これだけは知っておけ」という情報だけを採り入れています。自分にとっても、得るものが多くありました。
私たちのほとんどが、介護をどうすべきか、まるで知りません。何ひとつわかっちゃいない。本書はそのための「教科書」として、多くのことを教えてくれます。
介護の費用は、誰が出すべきなのか。仕事は続けていていいのか。リフォームは必要か。兄弟姉妹ともめないために、話しておくべきことは何か。利用できる公的な制度にはどんなものがあるか。そのために何が必要か。
本書はQ&Aで構成され、誰もが抱く疑問に着実に答えを与えてくれています。章末には「まとめ」がついていて、知りたいことがどこに書かれているのか検索も容易です。著者の語り口もわかりやすくやわらかで、経験に裏打ちされた多くの知識を披歴してくれています。
また、随所にかわいらしいマンガが差し込まれていて、本書がとてもフレンドリーであることも特筆すべきことでしょう。
介護は長い長い戦いだ
母親の物覚えに問題が生じていることは、10年ほど前から気づいていました。そのときは大して気にもとめなかったのです。年齢をかさねて記憶力が落ちるのは当然で、そうならない人の方がめずらしいでしょう。
異常だ、と思ったのはいつのことでしょうか。
今や母親は多くのことを忘れています。人はたいがい親と記憶を共有しているものですが、親がそこにいるにもかかわらず、記憶は自分だけのものになりました。いわゆる「おふくろの味」も失われてしばらく経ちます。母親はもはや、そんな料理があったことすら覚えていません。何度も何度も何度も何度も同じことを尋ねます。質問の答えを忘れているのではない。質問したことを忘れているのです。
アンタ誰、と問われるのも、そう遠くないことでしょう。
認知症は、通常の病と大きく異なります。「症」と名がついているものの、それを罹患している当人のほとんどは(すくなくとも私の母親は)それを痛いとも悲しいとも苦しいとも思っていません(思っても忘れます)。多大なストレスを抱えるのはいつでも周囲の人。
終始葛藤はつきまといます。子を子として認識できない人は果たして親なのか。親だった人ではないのか。
「家で死にたい」と願う親に献身的な介護をし、仕事との両立ができなくなった末に、共倒れしてしまった人。義理の親の介護で家に縛り付けられ、心を病んでしまった人。将来の介護目的で親と同居を始め、離婚してしまった夫婦。介護費と遺産問題で確執が深まり、決裂したきょうだい……。介護疲れの末に起きた、取り返しのつかない悲しい事件が報じられることもあります。
本書には「親と自分の人生を壊さないための備え」と副題がつけられています。親と同等かそれ以上に、「自分の人生」に力点が置かれています。親は大切だが、自分も大切だ。共倒れになったら意味はない。そんな主張は、本書のあちこちに見られます。
「親にはずっと、昔のままでいてほしい」と願うのは、ある意味、私たちのわがままかもしれない、と思うことがあります。親の人生は、親のもの。人生の最後のひとときを、のんびりと、不安なく過ごしてもらうにはどうしたらいいのか。家族が判断に迷ったとき、立ち返りたい視点だと思っています。
認知症になったからといって、親子の絆が消えてしまうわけではありません。思いは、親の心のどこかにしまってある。私たちが覚えていれば、それでいい。そんなふうに、ゆったりと考えてみてはいかがでしょうか。
介護に関して10年先輩の友人が教えてくれました。
「介護は長期戦だよ。長い長い戦いだ。なんかやって解決するようなものじゃない。いろんなサービスを利用しながら、こっちもそのつもりで挑まないといけない」
そして、こうつけくわえました。
「おれたちだって、いずれ同じになるんだよ」








