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2026.10.14

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その日は突然やってくる! 親と自分の人生を壊さないための備え【介護前夜の教科書】

あなたも介護前夜です

「介護前夜」とはなにか。本書ははじめに、それを説明することからはじまっています。
「介護前夜」とは、親は健在ではあるけれど、子が「このままで大丈夫だろうか」と心細くなり始める時期。あるいは、親の老いを感じ取りながらも、まだ何から始めればいいのかわからずに立ち尽くしている、そんな時期のことです。
老境にさしかかった立川談志が、「おれは老人初心者なんだよ」とボヤいていたのを思い出しました。介護に関しては、多くの人が初心者です。だったら準備をしておこう。それが本書の主題です。
「人生100年時代」という言葉のせいか、「70代なんてまだまだ若い」と考える人が多くなりました。確かに75~79歳では、約9割の人が要支援・要介護認定を受けていません。しかし裏を返せば、およそ9人に1人は、すでに何らかの支援や介護が必要な状態として認定されています。さらに85歳以上では、全体の6割近くが要支援・要介護認定を受けています。
親が二人とも健在、さらに配偶者の親もいるならば、介護が必要になる確率は一気に跳ね上がります。つまり、誰もが介護と無関係ではいられなくなる未来は、すぐそこまで迫っているのです。
本書が多くの人をターゲットにしていることはまちがいないでしょう。だから、というわけでもないでしょうが、本書には「できるかぎり間口を広くして、多くの人に接してもらおう」という努力が随所に見られます。
介護の問題はケースバイケースで、親の状態ばかりでなく、経済や仕事の状況、法律までからんだ複雑なものです。しようとすればいくらでも難解にできるでしょう。本書は、そこを一般化して、「最低限これだけは知っておけ」という情報だけを採り入れています。自分にとっても、得るものが多くありました。

私たちのほとんどが、介護をどうすべきか、まるで知りません。何ひとつわかっちゃいない。本書はそのための「教科書」として、多くのことを教えてくれます。
介護の費用は、誰が出すべきなのか。仕事は続けていていいのか。リフォームは必要か。兄弟姉妹ともめないために、話しておくべきことは何か。利用できる公的な制度にはどんなものがあるか。そのために何が必要か。

本書はQ&Aで構成され、誰もが抱く疑問に着実に答えを与えてくれています。章末には「まとめ」がついていて、知りたいことがどこに書かれているのか検索も容易です。著者の語り口もわかりやすくやわらかで、経験に裏打ちされた多くの知識を披歴してくれています。
また、随所にかわいらしいマンガが差し込まれていて、本書がとてもフレンドリーであることも特筆すべきことでしょう。
マンガ:すぎやまえみこ
マンガ:すぎやまえみこ

介護は長い長い戦いだ

自分はすでに「介護前夜」ではなくなっています。

母親の物覚えに問題が生じていることは、10年ほど前から気づいていました。そのときは大して気にもとめなかったのです。年齢をかさねて記憶力が落ちるのは当然で、そうならない人の方がめずらしいでしょう。

異常だ、と思ったのはいつのことでしょうか。
今や母親は多くのことを忘れています。人はたいがい親と記憶を共有しているものですが、親がそこにいるにもかかわらず、記憶は自分だけのものになりました。いわゆる「おふくろの味」も失われてしばらく経ちます。母親はもはや、そんな料理があったことすら覚えていません。何度も何度も何度も何度も同じことを尋ねます。質問の答えを忘れているのではない。質問したことを忘れているのです。
アンタ誰、と問われるのも、そう遠くないことでしょう。

認知症は、通常の病と大きく異なります。「症」と名がついているものの、それを罹患している当人のほとんどは(すくなくとも私の母親は)それを痛いとも悲しいとも苦しいとも思っていません(思っても忘れます)。多大なストレスを抱えるのはいつでも周囲の人。
終始葛藤はつきまといます。子を子として認識できない人は果たして親なのか。親だった人ではないのか。
「家で死にたい」と願う親に献身的な介護をし、仕事との両立ができなくなった末に、共倒れしてしまった人。義理の親の介護で家に縛り付けられ、心を病んでしまった人。将来の介護目的で親と同居を始め、離婚してしまった夫婦。介護費と遺産問題で確執が深まり、決裂したきょうだい……。介護疲れの末に起きた、取り返しのつかない悲しい事件が報じられることもあります。
介護を起因とした痛ましい事件は後を絶ちません。子が親を殺すことさえめずらしいことではなくなっています。ニュースは事件を報じますが、「親がどういう状態だったか」「親子関係はどうだったか」を詳らかに述べてはくれません。幸か不幸か、自分はこうした事件の報に接するたび、「ひょっとすると……」と考えるクセがついてしまいました。

本書には「親と自分の人生を壊さないための備え」と副題がつけられています。親と同等かそれ以上に、「自分の人生」に力点が置かれています。親は大切だが、自分も大切だ。共倒れになったら意味はない。そんな主張は、本書のあちこちに見られます。
「親にはずっと、昔のままでいてほしい」と願うのは、ある意味、私たちのわがままかもしれない、と思うことがあります。親の人生は、親のもの。人生の最後のひとときを、のんびりと、不安なく過ごしてもらうにはどうしたらいいのか。家族が判断に迷ったとき、立ち返りたい視点だと思っています。  
認知症になったからといって、親子の絆が消えてしまうわけではありません。思いは、親の心のどこかにしまってある。私たちが覚えていれば、それでいい。そんなふうに、ゆったりと考えてみてはいかがでしょうか。
本書は、自分のような「すでに前夜ではない」人間にも、大きな勇気をもたらしてくれました。あなたの親が健在なら、ぜひ一読をおすすめします。

介護に関して10年先輩の友人が教えてくれました。
「介護は長期戦だよ。長い長い戦いだ。なんかやって解決するようなものじゃない。いろんなサービスを利用しながら、こっちもそのつもりで挑まないといけない」
そして、こうつけくわえました。
「おれたちだって、いずれ同じになるんだよ」

レビュアー

草野真一

早稲田大学卒。元編集者。子ども向けプログラミングスクール「TENTO」前代表。著書に『メールはなぜ届くのか』『SNSって面白いの? 何が便利で、何が怖いのか』(講談社)。2013年より身体障害者。
1000年以上前の日本文学を現代日本語に翻訳し同時にそれを英訳して世界に発信する「『今昔物語集』現代語訳プロジェクト」を主宰。

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