PICK UP

2026.08.26

レビュー

New

胴元はなぜ「必ず儲かる」のか? 確率・統計であばくギャンブル必勝法のウソ

大きく勝つ人は、トータルでそれ以上に負けることも少なくない。トータルでは大きく負けていても、満足のいく大勝ちがあれば、ギャンブルへの投資はペイするものと考えられたい。それが、ギャンブルというものの本質なのである。
そもそも「トータルで勝っているか否か」などと気にするようでは、あまり良いギャンブラーとは言えない。長期的に見ればほとんどの人は負けているわけで、それがゆえにギャンブル産業は成立する。「自分だけは勝てる」などとは、ゆめゆめ考えないように。
いきなり夢のない一節を引用してしまったかもしれないが、ギャンブルにおけるオカルトを完全排除し、数学的アプローチを徹底している本書の著者が語る「ギャンブルの本質」が、思いのほか精神的なものであることがわかった上記の一節は、かなり意外であり興味深いものに感じた。

著者の谷岡一郎氏は、大阪商業大学の学長であり、総合経営学部の教授。同大学にて「ギャンブル社会学」という学問分野を立ち上げた社会学者であり、私が麻雀にハマっていた大学時代、竹書房等の麻雀雑誌でよく名前を拝見していたのを覚えている。

本書は2001年に講談社ブルーバックスから出版された『確率・統計であばくギャンブルのからくり――「絶対儲かる必勝法」のウソ』を大幅に加筆・修正し、改題した一冊である。
刊行の契機として、2016年に成立した「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(IR推進法)の存在と、近年台頭してきた「スポーツ・ベッティング」と「オンライン・ベッティング」の存在があるという。

本書の中で一貫しているのは、ギャンブルに対する徹底した数学的アプローチに基づく「オカルトの否定」である。
本書は、前書と同様に、世に跋扈(ばっこ)する「ニセのギャンブル必勝法」の存在に批判的である。
特に、オカルト的な主張は全面的に否定する。ギャンブルの世界は、本質的に数学の法則に従うものでしかない。本書の中でも触れるが、特定のギャンブルにおいて数学上(期待値上)プラスになる状況はありうる。
しかし、胴元側の立場からすれば、「一定割合を控除してこそ産業として成立する」こともまた明白な事実である。ポーカーやスポーツ・ベッティングのプロとして存在する、ごく少数のギャンブラーたちは、“システムのひずみ”を利用してプロとして生き残っていることも事実であるが、その戦術は数学的な裏付けのあるものに限定され、決してオカルトの介入する余地はない。
このスタンスのもと、第I章「ギャンブラーの誤謬――『確率論の罠』にハマるからくり」では、多くの人の“直感”を裏切るであろうさまざまな確率論の例題を提示。いかに私たち素人の「こうなるだろう」が勘違いに溢れているかを浮き彫りにする。
例題Ⅰ-3-a マリエの誕生パーティー
11月25日に誕生日を迎えるマリエは、パーティーに招待する客の人数について悩んでいる。マリエとしては「自分と同じ誕生日の人」が客の中にいる確率を半分以下にしたい。さて、何人までなら招待できるだろうか。ただし、1年は365日とし、実際に計算しなくとも、考え方(概念、式)だけでよい。
解答・解説は本書に譲るが、多くの人は「思ったより少ないな」と感じる結果になっているかと思う。

続いて第II章「『胴元の収益構造』のからくり――期待値と控除率」では、あらゆるギャンブルについて考察する際の基本の数値である(そしてそれはごく一部の例外を除いてほぼ100%未満である=プレイヤーが損をする)”期待値”、そして胴元が「薄く広く勝つ」ことを可能にしている”控除率”の存在について解説する。
例題Ⅰ-5
ルーレットで赤か黒かに賭けて勝つ確率は、どちらの場合でも19分の9(約47.37%)で、50%を下回る分は胴元のテラ銭(収入)だと考えてよい。このルーレットに1ドルずつ賭け、元金900ドルを1000ドルに増やしたい。1000ドルになるか、残金ゼロになるまで続けるものとする。
さて、この賭けが成功するのは何人に1人くらいであるか(答えはおおよその予想でよい)。
これも解答・解説は本書で確かめてほしい。こちらは先ほどの例題以上に「え、そんなに少ないの!?」と感じることだろう。

本書の中では、たとえば競馬で「コツコツと勝つ」方法として実践している人たちも少なくないだろう「複勝転がし」という戦術がいかに理に適っていないか、直感的には負けまくりそうな「ロングショット(大穴狙い)」がいかに(本命にかけ続けることに比べて)期待値的に優位になり得るか、などが語られている。
そうはいっても日本の公営ギャンブルの控除率の高さを考えると、競馬でプレイヤーが長い目で見て勝利すること自体が“ほぼ不可能”である、という結論にはなるのだが。

さらに第III章「ルーレットに『流れ』はあるか――『独立事象ゲーム』のからくり」と第IV章「ブラックジャックの必勝戦術――『従属事象ゲーム』のからくり」では、ルーレットのような独立事象ゲーム(前回のプロセスや結果が次の試行の結果に影響を及ぼさないゲーム)と、ブラックジャックや麻雀のような従属事象ゲーム(前回のプロセスや結果が次回の期待値を変化させ得るゲーム)との違いについて解説。

大学時代より麻雀にハマっており、さらに海外カジノに行ったときにはブラックジャックを中心にプレイし、本書の中で記されているベーシック・ストラテジー(基本戦略)の初歩くらいは意識している(決してマスターはしていないが)私にとって、この章の解説がもっとも実践的かつ実感的で、面白く感じた。

第V章「大数の法則――ギャンブラーに『負け』をもたらす数学のからくり」では、プレイヤーの結果を期待値通り(つまりは負け)に収束させる「数学上の真理」である「大数の法則」について解説。ここで書かれていた3つの「プレイヤーの負けを早める方法」には、私も海外カジノに行ったときに良かれと思って実践していた(つまり負けを早めていた)方法も入っており、なんとも言えない気分になった。

第VI章「スポーツ・ベッティング――『オッズ』作成のからくり」は、今回、新たに全面的に加筆された部分であろう。あの「水原一平事件」についての描写を入り口に、現在、海外のギャンブル業界ではすでに中心となっているスポーツ・ベッティングの概要やオッズの作成方法等について解説している。

そして最後の第VII章が「賭け方の科学――『コマの上げ下げ』のからくり」。
ここでは「プレイヤーが負けることをほぼ運命づけられているギャンブルの世界で「優れたギャンブラー」でいられるための多くのポイントが語られている。

冒頭で引用した一節も、ここからのものだ。タイトルは「賭け方の科学」となっており、たしかに数学的アプローチをベースにしたものではあるが、本書の中では比較的「ギャンブラーの美学」に近いアプローチで記されている章のように思える。

正直、本書の中で数多く行われている期待値や控除率の計算式には、文系の私が高校数学で学んだ確率・統計のレベルを超えているものも多く、すべてが理解できたとは言い難い。しかし、読み進める中で、自分が「なんとなく考えていた確率論的なアプローチ」がいかに適当であったかが知れたこと、特に良かれと思って取っていた選択が、実は真逆の結果への近道になっていたと気づかされたことだけでも、有意義な読書体験だったと言える。

ギャンブルに限った話ではないが、生兵法は大怪我の基。私のように「なんか小賢しいただの凡人」が一番のカモである、という事実を突きつけられる一冊だった。

とはいえ、予定では日本にIRリゾートが完成するまであと5年弱。ここまで書いておいてなんだが、私自身「ちょっと体験してみたいかも」という気持ちが消えてはない時点で、結局は今でもまごうことなきカモなのだろう。本書の第VII章にある以下の言葉を胸に、せめて大怪我しない「良いギャンブラー」であり続けたいと思う。
なんのためにギャンブルをするのか――。その理由が立場によって同じでないのは確かであるが、経験上、優れたギャンブラーたちほど、ほとんどのケースで「楽しむ」ためにギャンブルをプレイしていることは間違いない。大多数の人は、楽しむためにギャンブル場に行くのであり、決して苦しむために行くのではないことがわかれば、あなたは良いギャンブラーになれる。

レビュアー

奥津圭介

編集者/ライター。1975年生まれ。一橋大学法学部卒。某損害保険会社勤務を経て、フリーランス・ライターとして独立。ビジネス書、実用書から野球関連の単行本、マンガ・映画の公式ガイドなどを中心に編集・執筆。著書に『中間管理録トネガワの悪魔的人生相談』『マンガでわかるビジネス統計超入門』(講談社刊)。

こちらもおすすめ

おすすめの記事

レビュー

【スマホ依存】深みにはまる前にできること。ゲーム、ギャンブル、SNS依存から抜け出す改善策

  • 医療
  • 健康
  • 中野亜希

レビュー

非効率なのになぜか結局いちばんうまくいく。掟破りな仕事術を一挙公開!

  • 仕事
  • Micha
  • ビジネス書

レビュー

ビジネスの現場でも不可欠なスキル「数的思考力」を磨く大人のための算数力講義

  • コラム
  • 中野亜希

最新情報を受け取る

講談社製品の情報をSNSでも発信中

コミックの最新情報をGET

書籍の最新情報をGET