乱歩賞受賞、本屋大賞ノミネート……想像もしていなかった1年
ひたすら目の前の仕事をしていたら、あっという間に1年が過ぎていました……。1年前に僕が想像していたよりも、遥かに多くの方に読んでいただけました。過去に乱歩賞を受賞されている先輩作家の皆さんからも面白かったと褒めていただき、とてもうれしかったです。
——『殺し屋の営業術』は江戸川乱歩賞の受賞作として初となる「本屋大賞」ノミネートも果たしました。書店員の方々からの感想を直接聞く機会も多くあったのではないかと思います
本屋大賞にノミネートされたときは、オリジナルのPOPを作製してくださる書店員さんが何人もいらっしゃったんです。自分の作品のために手の込んだものをつくっていただく経験ははじめてだったので、ものすごくありがたいなと思いました。
——数多くいただいた感想のなかでも、特に印象に残っているものはありますか
ふだんはビジネス書を多く読まれている方々が「ためになった」「参考になった」とSNSなどに感想を投稿してくださっていて、小説やミステリーが好きな層だけでなく、その外側にも届いているのだとうれしくなりました。僕よりも遥かに営業経験がある方々ばかりなので、むしろ僕のほうから営業のテクニックをお聞きしたいほどです(笑)。
パワーアップした主人公・鳥井が巻き込まれる、苛酷な出世レース
もともと江戸川乱歩賞に応募した作品なのもあって、続編を出すつもりで書いていたわけではありませんでした。ただ、刊行直後から「続編のありそうな終わり方でよかった」と感想を多くいただいたので、これははやく続編を考えたほうがよさそうだな、と。2作目はノンシリーズを執筆する方向で打ち合わせを進めていたのですが、予定を変えて続編を執筆することになりました。想像を上回る大きな反響をいただいたおかげです。
——『殺し屋の出世術』では、〈極東コンサルティング〉に入社した鳥井が次期社長の座をめぐる、敗者=死の出世レースに巻き込まれていきます。前作は「社外営業」でしたが、今作で鍵を握るのは「社内営業」。これまで組織に溶け込めたことのない鳥井にとっては唯一と言っていい苦手分野です
今回は鳥井の苦手な状況をまず想像して、それをどう切り抜けていくかを考えることで物語を組み立てています。そのため僕も鳥井と同じように、この不利な状況をどうすれば切り抜けられるだろうかと悩みながら書いていきました。
——鳥井と出世レースを繰り広げる強敵として、世界を支配する野心を抱いている謎の男・鷹見と、その側近であり桁外れな戦闘能力を持つ少女・翼が新たに登場します。どちらも前作にはいなかったタイプの、魅力的なキャラクターでした
前作では一般人だった鳥井が怪物になるまでの過程を描いたので、今回は映画『ゴジラVSキングギドラ』のような怪物同士が戦う物語にしたかったんです。鳥井が苦手分野に直面して、理不尽な状況に追い込まれる物語にするとは決めていたので、鷹見は鳥井の苦手をすべて得意とするキャラクターにしました。側近の翼はそんな鷹見を外側から見つめる存在として登場させています。彼女の戦闘能力が高いのは、純粋にアクションシーンを描きたかったからですね。
——鷹見は人間を使い捨ての駒にする冷酷な人物ですが、それでは鳥井は部下を大事にしているのかと言われたら、決してそうとは断言できないのも本作の面白さです。利用しているようにも大切にしているようにも見える、矛盾を両立させた底知れなさに、鳥井の魅力があるようにも感じました
鳥井は接する人によって印象が変わるキャラクターだと思います。営業モードの彼と、鷹見と対峙するときの彼と、部下と接するときの彼では態度もまったく異なるはずで、今回はその差異を表現できるよう、鳥井本人よりも周辺人物の視点を多くしました。ただ、表面的には部下にひどいことをしない人物として鳥井を描いていて、そこが鷹見との決定的な違いだとも思います。
——ちなみに野宮さんは、鳥井と鷹見、どちらの部下になりたいですか
鷹見は体育会系すぎるので……強いていうなら鳥井でしょうか。鳥井の本性を見抜ける自信がないので、表面上は楽しく働けそうな気がします。でも、どちらの部下にもなりたくはないです(笑)。
登場するのは、実際に使われている営業テクニック
実は、営業のノウハウをまとめた書類を仕事でつくっていた時期があるんです。当時の僕は加盟店が多くある会社の本部で働いていて、全国の営業担当者に向けた研修やセミナーを担当したり、外部のコンサルタントの方と一緒に営業マニュアルを作成していました。当時のマニュアルをもとに営業している方はいまも全国にいらっしゃるはずです。もちろん守秘義務もあるので、すべてのノウハウを作中に登場させられるわけではないのですが、現場で実際に使われているテクニックも一部盛り込んでいます。
——野宮さんは現在専業作家として活動されていますが、会社に勤めていた当時、出世欲はありましたか
社内の出世レースは途中から完全に降りていました。2018年に電撃小説大賞を受賞して翌年にデビューしたのですが、ちょうど会社の昇格試験と重なっているタイミングだったんです。夜の11時まで残業して土日も出勤して、昇格試験の準備もしながら小説を執筆する……という日々を送っていました。結果的に昇格はできたものの、会社と小説の両立は無理だと悟りましたね。それからは出社も週3回に減らして、小説を頑張って書くことで生活を成り立たせていました。
——ちなみに、文芸の業界で出世していきたい野望は……?
なんと答えればよいのか(笑)。まずはなによりも、次の作品を面白く書くことが大事かなと思います。そうして10年、20年と繰り返し書いていたら自ずと結果はついてくるはずなので、長く書き続けることを目指していきたいです。
——これからの作品も楽しみにしています。「次の作品」の構想はすでに固まっているのでしょうか?
『殺し屋の営業術』『殺し屋の出世術』につづく、「海外編」となるシリーズ3作目を予定しています。現時点で登場済みのとある主要人物にも新たにフォーカスを当てるつもりで、はやくお届けできるように鋭意執筆中です。
——それはいまから待ち遠しいです……! 最後に、読者の方に向けて一言お願いします
ありがたいことに、前作では想像を大きく上回る反響をいただきました。だからこそ上がりきったハードルを乗り越えられるよう、『ターミネーター2』のような面白い続編に仕上げることを、今回の「ノルマ」にしていました。かなり大変なノルマでしたが、無事に達成できたと自負しています。ですので安心して、お読みいただけるとうれしいです!
1993年福岡県生まれ。長崎大学経済学部卒業。2018年第25回電撃小説大賞で選考委員奨励賞を受賞し作家デビュー。2025年『殺し屋の営業術』で第71回江戸川乱歩賞、王様のブランチBOOK大賞2025受賞。2026年同作で本屋大賞6位。『魔法少女と麻薬戦争(少年ジャンプ+)』など、漫画原作者としても活動中







