命を守る未来のテクノロジー
DXをビジネスだけに留めず、激甚化する災害から一人でも多くの命を守ることに繋げられたら……。
『2040年の防災DX』は、2040年におけるデジタルテクノロジーを利用した最新の防災技術と防災の未来像、そこに至るまでの様々な問題点や課題、また国内外の実例を紹介する1冊だ。
著者の村上建治郎氏は、株式会社Spectee(スペクティ)の代表取締役CEOを務める。東日本大震災における災害ボランティアの経験に端を発したスペクティは、災害情報の解析と配信を専門に行うベンチャー企業だ。「危機を可視化する」をミッションに、SNSや気象データ、カーナビ情報、道路・河川カメラなどのデータから災害やリスク情報を解析し、被害状況の可視化や予測を行う。
東日本大震災が起きた2011年から現在までのおよそ14年は、体感としてはかなり短い。その間にLINEが登場し、AIが身近な存在となり、ロボットやドローン技術が発達するなどデジタル技術も目覚ましく発展した。ここから次の15年もテクノロジーは大きな進化を遂げていくことが予見できる一方、気づいたら2040年になっているのではないか……そんな気がする。
本書はそんな近未来の防災において、どんな世界の到来が予測されるのかを、スペクティの取り組みとあわせて私たちに見せてくれる。
近未来の防災の姿
防災に関係する先進技術は、主に「AI」「ドローン」「ロボティクス」「デジタルツイン」「人工衛星」「インターコネクティッドの世界」の6つのカテゴリーで捉えることができる。各カテゴリのテクノロジーやノウハウはそれぞれ独自に発展しながら、相互に連携して防災における大きな役割を果たしていくことになるはずだ。
例えば家電などのIoT情報と「見えない部分、情報が不足している部分をAIによって補完」することで
一刻を争う避難行動に際して、家電から送られてくる情報をもとに残留者の有無等を判定できれば、人命救助の効率が飛躍的に上がるはずだ。

このような最新テクノロジーは防災の現場においてもかなり頼れる存在に見える。しかし日本の自治体が抱える予算の問題や行政上の思想、前例の少ない取り組みに対する厳しい目などが「防災DX」を阻む意外な壁となることがわかる。実際に防災DXを推進している自治体として挙げられている福井県のような先行事例が増えることにより、先進技術の理解と普及が進むことを期待せずにはいられない。
そんな中、内閣府が提唱する概念は
デジタルとフィジカルの融合によって、経済発展と社会的課題の解決の両立を目指すSociety5.0の社会である。

デジタル技術でリスクを最小限に
人間が主体となってデジタルテクノロジーを活用することで、防災に関する未来が明るいものになる……。本書はそんな未来の実現にむけた道のりを示してくれる。