結果わかったのは、最も危険なのは「現状維持」ということ。資本主義社会は成長し続ける仕組みになっているので、現状維持の先には劣る・負ける未来しかありません。
だから、株式会社こそ投資が必要だと気付いたのです。借金をしてでも投資しなければ、この社会では勝ち続けられない、それが資本主義のルールなのだと知りました。
当時、無借金経営を続けることも不可能ではなかったとは思います。しかし、借金をしてでも投資し、スピーディーに成長させなければ、数年後に破綻していたでしょう。
本書は、そんな著者が考える、業種や規模を問わずに普遍的に通用する「企業を成長させるために重要なノウハウ」について、4つの切り口で語っている。
第1章「規模拡大に欠かせない『経営者マインド』」では、経営者としての基本的な心構えを自らの体験を交えながら語っている。特に本書の後半にもつながる重要な項目としては「事業を複数持とう」という提言だ。単一事業での経営はリスクが大きく、M&Aをしてでも複数の事業の経営を行うことが大切である、と説く。
特に同業種や近い業界の企業ではなく、異業種への参入を勧めている。同業種の企業を複数持つと、業績に関わる外部要因が同じなのが大きなリスクだという。業界全体が好調なときは利益が一気に伸びるが、下火になると一気に立ち行かなくなる。たとえば万博やIRの特需で潤う建築業界や、コロナ過で一気に壊滅状態となった飲食業界などを考えるとよくわかる。
第2章は「攻めと守りを両立させる『財務』の知識・ノウハウ」。借金に対する忌避感の払拭から始まり、銀行の融資担当者との付き合い方や、取引先とのお金のやり取りの際の鉄則、必要な投資や出費とそれ以外、いわゆる「生き金」と「死に金」の考え方について解説。
たとえば、融資申し込みの際に銀行の融資担当者がBS(バランスシート)や事業計画書のどこを注視しているかなど、経営初心者にとってありがたい「財務のイロハ」が記されている。さらに投資の優先順位として「事業→M&A→不動産→金融資産」という順番を提言。素人目線ではリスクが大きいように思われるM&Aの優先度がここまで高いことに驚かされた。
第3章「社員を200%生かす方法」では、社員の採用や待遇改善の極意、社長と幹部社員、一般社員との距離感についての考え方、さらには別の企業の担当者との付き合い方まで解説。企業規模の成長に合わせて、社員との関係性も変えるべきだという提言もある。
会社の規模や役割によって、距離感を変えるべきであることに私が気付いたのは、5社体制、140人ほどになった頃でした。
それまでは、社員には「24時間いつでも電話してきていい」と言っていた私。社長室にいると、一般社員がいつでも気軽にやってきて「今、少しいいですか?」ということもしばしばでした。
当時は、それがちょうどいい距離感だったのです。会社が少人数であるうちは、私の予定など関係なくフランクにやりとりできるほうが、会社が一丸となって成長できます。
しかし、部長職、課長職とさまざまなポジションが増える中、私のところに突然ふらっと一般社員が来た時に、違和感を抱いたのです。今の私が果たすべき役割は、社員と距離感ゼロで接することではなく、もっと別の事であると悟りました。
M&Aの対象企業をどうやって探すのか、企業の情報、データの中でどこに注目すべきなのかなど、ゼロからの手順が解説されているので、初心者にとって特に有用なノウハウが手に入る。後継者不足に悩まされている中小企業がもはや社会問題にもなっている状況だけに、この情報は経営者の間に広く共有されてほしい、と感じるほどだ。
全体的に「個別具体的なノウハウ」というより、あらゆる状況下で頭に入れておくべき「企業経営を成長・拡大させるための基礎的な情報や認識」を解説しており、平易な文章で書かれているので、財務知識や経営学などの関連分野に関する知識が乏しい私でもまったく問題なく読める一冊になっている。
起業を考えている若い人たちに加え、イチから成長戦略を学びたい中小企業の経営者にもお勧めだ。最後に田村氏が本書の冒頭で記している言葉を引用して、終わりたいと思う。
しかし私はここに来るまで、おそらくあなたの想像を優に超えるほどの努力をしたつもりです。よって、残念ながら「楽をして黒字転換したい」と考えている方の役に立つことはほとんど書かれていないと思います。
しかし、「確実に会社の規模を拡大したい」「努力は惜しまないので成功確率を上げたい」と考える人には有用な内容を記したつもりです。きっと、会社の規模を拡大し、次のステージに進めるはずです。