その後は、世間にすっかり浸透したワイヤレスイヤホンの恩恵にあずかり、音楽を聴く日々だ。とはいえ、それ以外の聴き方と縁がない分、最新のオーディオ事情にはとんと疎い。だから本書を通じて、オーディオをめぐる変化と進化の速度にふたたび驚かされた。
著者は今回執筆した目的を、こう記している。
ネットワーク全盛の時代、オーディオの世界も大きな変化の波にさらされ、ハードウェアも再生スタイルもこの20年ほどで大きく様変わりしました。変化のスピードが速いので、しばらく距離を置いていたら全体像がつかめなくなったという人も少なくないと思います。そんなオーディオファンのために、現在のネットワークオーディオの状況を整理し、スムーズに導入して便利に使いこなすための方法を紹介することが本書の目的です。
著者は東京都立大学理学部物理学科を卒業後、出版社に勤務した。のち、1990年にオーディオ評論家として独立。その後はオーディオ専門誌の『STEREO』、『季刊Audio Accessory』 、『季刊Stereo Sound』や、ネットメディアの「Phile-web」、「StereoSound Online」、「AV Watch」といった媒体で活躍を続けている。著書も数多く出版しており、本書と同レーベルのブルーバックスでも、2013年に『ネットオーディオ入門』を刊行している。
ちなみに本書では、定額制音楽配信を楽しむための知識も紹介されている。たとえば「ロスレス」や「ハイレゾ」といった高音質音源についての解説や、ストリーミングサービスごとの違いや選び方、そして音声データのファイルフォーマットや圧縮方法の違いについても細かく触れられている。ほかに、音楽ファンでなくとも目にすることがある「WAV」や「ALAC」「MP3」といった音楽データの形式についても詳しく載っていて、あやふやだった知識が思いがけず補完できた。
なお第二部には、「ネットオーディオ」により深く親しむための情報がぎゅっと詰まっている。特に、日本ではまだサービスが開始されていない『Qobuz(コバズ)』(フランス)や『TIDAL(タイダル)』(ノルウェー)といった、海外で提供されている定額制音楽配信サービスに関する記述も目を引いた。前者は今秋、本邦でも開始予定があるとのことで、事前に準備したい人にはうってつけの内容だろう。
作り手が届けたい音楽を、より良い音で聴くために。初心者であっても「最新のサービスに興味がある!」という方は第一部までを、「実際にお金をかけて、自分の手元で機材を揃えてさらに音楽を楽しみたい!」という方には、第二部まで含めて読むことを勧めたい。