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2015.05.21

レビュー

【生命誕生】137億年前に起きた物質と反物質のせめぎあい

「生まれたばかりの宇宙は、ものすごくたくさんのエネルギーが存在していたので、物質も反物質もたくさんできていました。物質と反物質はいつもペアで生まれるわけですから、その割合は変わらなかったのだろうと考えることができます。ところが、物質と反物質が本当に一対一でできたとすると、宇宙がだんだん大きくなって冷えてきたときに、物質と反物質が再び出会うと、やはり一対一で消滅してしまいますから、最終的に何も残らないで、宇宙は空っぽになってしまうはずです。しかし、宇宙は空っぽにはならずに、私たちは存在しているわけです。なぜ、このようなことが起きたのでしょうか」

この謎を村山さんは分かりやすい文章と図を駆使して解き明かしています。物理学に詳しくない人も、苦手だと思っている人もこの本なら大丈夫。宇宙の謎、素粒子の世界、そして物質がなぜ存在するようになったのかがとてもよく理解できると思います。

この本で大きく取り上げられているのはニュートリノとヒッグスという2つの素粒子です。
ニュートリノの奇妙な振る舞いと素粒子を結びつけるヒッグス粒子の働きによって物質が存在できるようになっています。
「ヒッグス粒子が凍りつくことで、それまで熱くて無秩序だった宇宙に秩序が生まれた」のであり、この凍りついた「ヒッグス粒子が飛び回ってしまえば(略)私たちの体は一〇億分の一秒というほんのわずかな時間でバラバラになり、消えてなくなって」しまいます。

広大な宇宙も確かに始まりは極小なものだったはずです。137億年前、「誕生したばかりの宇宙は原子よりもはるかに小さなものだったのですが、ビッグバンの起こるほんの少し前に、三ミリメートルぐらいまで急激に大きくなった」ところでビッグバンが起こり宇宙が誕生したと考えられています。このインフレーション理論にもまたニュートリノが関係していると考えられているそうです。

素粒子の世界の解説をふくめ、宇宙についてもっと知りたくなるという読者の気持ちをかき立てる最適の入門書です。
「私たち物質が生き残るためには、物質の方が反物質より多くないとダメです。計算してみると約一〇億分の二。つまり、ビッグバンでできた物質と反物質のバランスをちょっと崩す必要があるわけです」
こうしてはじまった宇宙、物質の歴史、その謎の一端に触れることで拡がるものがあるように思えます。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる覆面書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。

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