現代がコンピュータ/インターネット全盛時代であることに、異論のある人はいないでしょう。誰もがスマートフォンと呼ばれる「ポケットに入るパソコン」を持ち歩き、折に触れネット(コンピュータ・ネットワーク)にアクセスし、自分宛のメッセージや情報を得ています。
ただし、それが携帯電話の形をしているのはたぶん過渡期的現象にすぎないのでしょう。パソコンはやがてメガネや腕時計の形態をとり、人間の生活になくてはならないものになる、と言われています。
ここまで読んで、「まさかぁ」と思った人、いるでしょ?
たしかに、誰も彼もがグーグル・グラスみたいなメガネをかけている未来は想像しがたいものです。
でも、携帯電話が今よりずっと大きくて、ショルダーバッグに入れて持ち歩くたいへん高価なものだった頃を思い起こしてみてください。「電話を持ち歩くなんて冗談だろ!」と言った人もいたはずです。そういう人も、今や携帯電話を持ち歩かずにはいられません。
もっとも、「ウェアラブルなパーソナル・コンピュータ」が一般化するには、最低でも10年はかかるのではないか、と言う人もいます。
普及のネックは、電池。すなわち、電力を安定供給できるようになって、はじめて実用化できる、ということでしょう。
本書の筆者は、こんな問いを投げかけています。
「もし、電気がなかったら、世の中どうなっていただろう?」
本書はそんな「電気の重要性」にふれつつ、そのしくみを明らかにしようとしています。
現代のようなコンピュータ/インターネット全盛時代を迎えるためには、当然のこと電気ないしは電子の利用技術が進歩しなければなりません。
コンピュータは、2進数をもちいればあらゆる計算ができ、それは電気のオンとオフで伝えることができる、という発見から生まれました。(詳細は拙著『メールはなぜ届くのか』を読んでね!)
ただし、この発見も現実化するためには半導体がなければなりません。そして、半導体はパソコンのみならず、テレビからデジタルカメラ、電子レンジ、自動車の車載コンピュータに至るまで、ありとあらゆる電化製品で利用されています。
オームの法則は、電気工学でもっとも重要であるとされています。筆者はドイツの物理学者オームに敬意を払いつつ、半導体にはオームの法則が適用されないことを述べています。もちろん詳細な理由つきです。
いわゆる電気工学の解説書ではなく、随所に数学が取り入れられているのも、本書の特徴のひとつでしょう。電気と電子を追いかけるうち、読者はやがてシュレーディンガー(量子力学)の方程式に至ります。きわめて興味ぶかい本です。
ただし、注意事項をひとつ。本書を読み解くためには、高校卒業程度の数学と物理の知識が必須です。
レビュアー
早稲田大学卒。書籍編集者として100冊以上の本を企画・編集(うち半分を執筆)。IT専門誌への執筆やウェブページ制作にも関わる。日本に本格的なIT教育を普及させるため、国内ではじめての小中学生向けプログラミング学習機関「TENTO」を設立。TENTO名義で『12歳からはじめるHTML5とCSS3』(ラトルズ)を、個人名義で講談社ブルーバックス『メールはなぜ届くのか』を出版。いずれも続刊が決まりおおいに喜んでいるが、果たしていつ書けばいいんだろう? 「IT知識は万人が持つべき基礎素養」が持論。