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2014.06.25

レビュー

園芸少年

たまたま持っていた紙コップの水を捨てたら、そこに生えていた植物だけ元気になっていた! え? たった一回水をあげただけで、植物って元気になるの?

不真面目なわけでもないけれど、特別やる気があるわけでもない、ごくごくフツーの高校生、篠崎達也は、自分の些細な行動が作りだした、小さな奇跡にびっくりする。そんな達也と一緒になって、その小さな奇跡に感動するのは、見た目はちょっと怖くてだらしないけど、実は心優しい少年、大和田一平。二人は、ひょんなことから園芸部に入ることに。そんな二人に、段ボールをかぶらなければ外に出られない少年、庄司が加わる。三人の目標は、園芸部員がいなくなって、すっかり朽ち果てた学校の倉庫の裏の花壇を、緑と花でいっぱいにすること!

なかなか上手く育たない植物。大和田は、段ボールを常にかぶっている庄司のことを「BB=Box Boy」と呼ぶが、このBBが、植物にとても詳しいことにびっくりする。その理由は簡単。BBは、園芸に関する本を、ちゃんと読んでいたのだ。BBってなんかすごいぞ。そこで、大和田は篠崎を誘って図書館へ行く。

そうだよね、何かにきちんと取り組もうとしたら、ちゃんと調べなきゃ(知ろうとしなくちゃ)。植物のことを知ることも、誰かのことを知ることも、何だか少し似ている。

人が苦手なBBが、そんな園芸部の活動を通して、どこかだらしなく不良っぽい大和田に次第に心を開いていく。その過程がまた心地よい。BBのことを初めて見た大和田が言った言葉は、「こいつ、おもしろいじゃん」。それは決して馬鹿にした言い方ではなく、一人の人間として認めた言葉。「こいつ面白いぞ、友達になりたいな」、そんな大和田の、人を変な物差しで見ない、優しくてまっすぐな気持ちが伝わってくる。もちろん、見かけが不良っぽくて、人から敬遠されがちな大和田にだって、いろいろ事情はある。そんな二人を温かく見守るのが、篠崎の役どころだ。

このお話は、そんな、ちょっと不器用な少年たちが、植物を通して織りなす、心温まる成長(生長)物語。自分たちが生きていくのが難しいように、植物もまた、上手く生長するのは難しい。手をかけて、愛情をかけて、ひとつひとつ育てていくのは、自分の心も、そして誰かに対する思いやりもきっと一緒。古い花壇を掘り起こし、種を植えて、水をやる。そんな生きものを愛しむ想いが、彼等自身をどんどん育てていく。

植物がぐんぐん生長するように、三人の少年たちが、心通わせながら育っていく様子が、何とも言えず微笑ましい。もしかすると、ちょっとつまずきかけた、三人の高校生デビューも、遅咲きながら見えてきた?

レビュアー

有山裕美子

1964年、東京都武蔵野市生まれ。小学校教員、公共図書館職員を経て、現在は、工学院大学附属中学校・高等学校の専任司書教諭として勤務する傍ら、2つの大学で、司書教諭課程の非常勤講師を勤める。絵本作家のモーリス・センダックをこよなく愛し、日本一のコレクターを自負するが、真偽のほどは定かではない。

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