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1日の食べものが大豆15粒だけに……!『窓ぎわのトットちゃん』のもうひとつのお話。
(原案:黒柳 徹子 文:柏葉 幸子 絵:松本 春野)
あのトットちゃんにまた会える
『窓ぎわのトットちゃん』を読んだのは小学校高学年の頃だったでしょうか。あまり本を読まない子でしたが、トットちゃんのお話は読み始めたら止まらなかったことを覚えています。
どうして?という疑問に素直で、やろう!と思ったことはやらないと気が済まない、そんな天真爛漫(てんしんらんまん)なトットちゃんが大好きでした。
世界中で翻訳がされ、2500万部を超える大ベストセラー作品なので読んだことのある方も多いのではないでしょうか。
『トットちゃんの 15つぶの だいず』では、あのトットちゃんにまた会えます!
小学校1年生で退学になり、あのトモエ学園に通っているトットちゃんに!
本作は『窓ぎわのトットちゃん』に描かれなかったお話です。
1日に15粒の大豆しか食べ物がない時代があった
トットちゃんが小学2年生の時に日本は戦争を始めました。楽しかった日々は一変。
毎日眠れぬ夜が続き、大好きなパパは兵隊として戦地へ行き、食べ物もどんどんなくなっていきます。ある日、「これがあなたの一日ぶんの食べものよ」と渡されたのは封筒に入った15粒の大豆。
いつ、どのくらい、この15粒を食べようか……トットちゃんの長い1日が始まります。
戦争を子どもと一緒に考えるきっかけに
正直、戦争を扱った作品であるため始めは読むのを躊躇しました。
戦争を描いた作品というのはどれも悲しくて、読むと辛くなり、読後の気分も沈みがちです。実際、子どもの頃に観たり読んだりした戦争作品はずっと忘れられない恐怖体験として残っているものも多いです。
しかし本作は、戦争という事実と悲惨さを描きつつも未来を感じさせる読了感にほっとしました。そしてトットちゃんらしい行動と笑顔に救われました。
例えば、毎日帰りにキャラメルの自動販売機のもとへ寄り道をするシーン。
キャラメルは無いとわかっていても毎日来てキャラメルの味を思い出すしぐさはトットちゃんらしいなと、頬がゆるみます。
戦争の悲惨さを次の世代にも伝えていきたいと思う反面、私たち親世代は経験していないことをどう伝えるのか悩ましいところです。私が観たり読んだりした作品を共有していくこともできますが、怖いという印象だけを伝える結果になるのではないだろうかとも思っていました。
そんなことを悶々(もんもん)と考えてたこともありましたが、本作『トットちゃんの 15つぶの だいず』を読み、これならば親子一緒に日々の絵本体験の時間を通して戦争について対話ができると感じました。
トットちゃんというキャラクターが子どもたちにも親しみやすく、「15つぶのだいず」が少しずつ減るというのもイメージがしやすくハラハラドキドキすることでしょう。
また絵本の醍醐味(だいごみ)であるイラストは水彩画の淡く優しいタッチで、1ページごとに様々なトットちゃんの表情を見せてくれます。「トットちゃんのこの表情はどんなことを考えているのかな?」と子どもに問いかけながら読み進めていきたい作品です。
ちなみに、『窓ぎわのトットちゃん』世代としては「トットちゃん=いわさきちひろさんの絵」という印象が強いのではないでしょうか。本作の挿絵を担当した松本春野さんはいわさきちひろさんのお孫さんとのこと。とても素敵な繋がりで、まさに「令和のトットちゃん」が誕生したんだなと感じます。
今年も終戦記念日のある8月がやってきました。
「戦争」について考える第一歩として『トットちゃんの 15つぶの だいず』をおうちでお子さまと読んでみるのはいかがでしょうか。
<とうとう、トットちゃんの一日の食べものは、だいずが15つぶだけになってしまいました。>
『窓ぎわのトットちゃん』では描かれなかった、トットちゃんのもうひとつのお話を絵本にしました。
女優の黒柳徹子さんが自分自身の小学生時代をえがいた『窓ぎわのトットちゃん』。世界で2500万部以上のベストセラーとなり、「トットちゃん」と「トモエ学園」は世界中の人から愛されています。
トットちゃんの小学校時代は、日本が戦争をはじめた時代でもありました。
だいすきなパパ。トモエ学園の楽しいお弁当の時間。あまい、あまいキャラメル。<家族そろって、安心で、うれしかった毎日>から、いろいろなものがなくなっていきます。
そして、ある日、とうとう一日の食べものが、炒った大豆15つぶだけになってしまいました。トットちゃんは、15つぶをいつ食べるか、悩みに悩んで……。
長年ユニセフ親善大使として活動されている黒柳徹子さんの原点ともなる、トットちゃんの等身大の戦争体験です。
語りかけるような文章を書いてくれたのは、数々の賞に輝く児童文学作家の柏葉幸子さん。ジブリの「千と千尋の神隠し」に大きな影響をあたえた作品『霧のむこうのふしぎな町』など、魅力的なファンタジーを次々に生み出しています。
絵を手がけたのは、やさしい画風が人気の絵本作家・松本春野さん。「トットちゃん」といえば、いわさきちひろの絵を思い出しますが、松本さんは、いわさきちひろのお孫さんにあたります。大のちひろファンでもある黒柳徹子さんが、「かわいい!」と喜んでくれた令和のトットちゃんになりました。
戦争を描いてはいますが、小さいお子さんにも安心して読んであげられるように配慮してあります。いつも前向きで一生懸命なトットちゃんとはじめて出会うのにもぴったりな1冊です。
*読んであげるなら5歳くらいから
*ひとりで読むなら小学校低学年から
*すべての漢字にふりがなつき
レビュアー

ライター。フリーランスで働く1児の母。特にマンガに関する記事を多く執筆。Instagramでは見やすさにこだわった画像でマンガを紹介。普段マンガを読まない人にも「コレ気になる!」を届けていきます!
Twitter:@Micha_manga
Instagram:@manga_sommelier
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