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【マンモス復活プロジェクト】絶滅した生物の復活に挑戦した研究者たち

よみがえれ、マンモス! 近畿大学マンモス復活プロジェクト
(文:令丈 ヒロ子 絵:深川 直美)
2022.01.25
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絶滅した生き物をよみがえらせる

映画「ジュラシック・パーク」で私が一番強烈に覚えているのは、ティラノサウルスが車を襲うあの有名なシーンではなく、うっかり樹液にのみこまれ、やがて琥珀の一部になってしまった蚊だ。その気の毒な蚊が吸った恐竜の血液をもとにして劇中の恐竜は現代によみがえる。もちろん映画はフィクションだけど、いつかこの世にいる研究者の誰かが実現しちゃいそうな気がしたのだ。

『よみがえれ、マンモス!』で研究者たちが求めたのは琥珀ではなくシベリアの永久凍土だったが、「あ、これ実現しちゃうかも」と肌が粟立つ感覚は、ジュラシック・パークで感じたそれよりも濃密だった。近畿大学のマンモス復活プロジェクトチームが一歩ずつ、本当に一歩ずつ、じりじりとマンモスに近づいていくさまが面白い。

こちらの本は小学校上級・中学から読めます。シベリアでの調査、スーパーコンピューターによるゲノム解析、タンパク質の発見、iPS細胞の可能性、練習に練習を重ねた細胞核の取り出し、研究の価値を理解してもらうための論文発表……めくるめくブルーバックス的世界が広がっているが、子どもでも読みやすい平易で楽しい文章で、ふりがなつき。



イラストもポップで楽しい。(こちらは近畿大学の生物理工学部の教授である宮本裕史先生。きっとソックリなのだろう)

このイラストで示されるように、ゾウとマンモスのDNA塩基配列の違いは0.7%なのだそう。めちゃくちゃご近所さん! 科学ってすごい! ……と盛り上がるだけじゃなく、科学技術が進歩するときに人間がぶつかる問題にも触れている。

マンモス探しに17年

「マンモス復活プロジェクト」が始動したのは1996年。プロジェクトのリーダーは、家畜繁殖学の博士で動物の受精のしくみを解明した入谷明先生だ。

生き物が滅びてしまう原因の一つに、人間の繁栄があるとしたら、その生き物を保護したり復活させることが、人間の責務でもある

入谷先生はこう考え、マンモスをよみがえらせることも夢ではないと近畿大学で研究チームを立ち上げた。1996年といえばちょうどイギリスでクローン羊の「ドリー」が誕生した頃だ。マンモスは羊とちがって既に滅んでしまった生き物なので、乗り越えないといけない山がさらにたくさん待っている。当初の発想と課題をまとめたイラストがこちら。最初の一歩から大変なのだ。



マンモス復活プロジェクトの最初の一歩であるイラスト左上の「いい状態の組織サンプルを入手できるの?」が解決するまでになんと17年かかる。

いい状態の組織サンプルを持っているマンモスの遺骸ってどこにあるの? 広いシベリアをただ探査するだけじゃ見つからない。そこで、毎日マンモスの遺骸を探して牙を取る暮らしをしている「マンモス・ハンター」やロシアの研究者たちの協力を得て、やっと理想的な組織サンプルを持つマンモスに出合う。

2002年にシベリアにあるサハ共和国で見つかったその理想的なマンモスはYUKAと名付けられる。実際のすがたはこちら。



鼻の形がちゃんとわかる! YUKAすごい。

そして、こんなくだりがさらっと書かれているのもこの本のいいところだと思う。関係者への丁寧な取材がうかがえる。

発掘されたYUKAの所有権は、サハ共和国科学アカデミーにあります。
入谷先生は、採取した組織ができるだけいい状態で、早く近畿大学で受け取れるように、科学アカデミーの総裁と共同研究合意書を交わし、サンプルの国外持ち出しの許可を受けました。

よいしょよいしょと掘り返して、さあ早く大学に持って帰るぞというときにこんな手続きが必要なんですね。易しい文章でいろんな角度からマンモス復活プロジェクトの様子を教えてくれる。

「マンモスの筋肉に似たもの」って何?

念願のいい状態の組織サンプルが手に入ったら、次はその組織サンプルを解析し、細胞核を取り出す。この細胞核を取り出すエピソードが面白かったので紹介したい。

(しかし、いくらYUKAの保存状態がよくても、細胞核を取り出すのはかんたんじゃないぞ。)
発掘されたマンモスの筋肉は、ずっと冷凍保存されて、冷凍焼けした肉のような状態です。その状態から筋肉だけを細かくして、残っている細胞核を取り出すのです。
(それに、貴重なサンプルを無駄に使うことはできない。)

17年かけてやっと見つけたサンプルから失敗せずに細胞核を取り出す……想像するだけで緊張する。

安齋先生は、解析チームが解析作業をしている間に、できるだけマンモスの筋肉に似たものを探して、細胞核を取り出す予備実験をすることにしました。

そう、予備実験のためには「マンモスの筋肉に似たもの」を探すところから始まるのだ。

(干し肉っぽくて、適度に固くて……細胞がとれそうなものはないかなあ。)
お休みの日も、そのことで頭がいっぱいです。
(これ、似ているかも!)
安齋先生は、コンビニエンスストアのおつまみコーナーで、「厚切りビーフジャーキー」のふくろを見つけ、思わず手に取りました。

そんな身近なところに! ビーフジャーキーもまさか「マンモス復活プロジェクト」に活用されるとは思っていなかっただろう。安齋先生はいろんなビーフジャーキーを買い集め、ペットフードのささみを巻きつけた犬用ガムも研究室に持っていく。道なき道を切り拓くのだから手当り次第だ。ニュースや教科書でサラッと書かれている「実験成功」の裏にはこんなエピソードが沢山眠っているのだろうな。

マンモスが復活したあとの世界

『よみがえれ、マンモス!』は、研究チームへの丁寧な取材をもとに作られた本だ。
「はたしてYUKAの細胞核は生きているのか」をたしかめる研究者の胸の内もこんなふうに描写する。

(なにかちがった反応があるかなあ。)
今までは、まったく反応がなかったり、かすかに反応したように見えて、蛍の光のようにはかなく消えてしまったり。そんなことのくりかえしでした。
(今回も期待できないかもなあ……。)
今まで、ドキドキしては、ガッカリするような結果が続いています。あんまり期待しないように、自分の気持ちをおさえている山縣先生でした。

辛抱強く実験を繰り返し、誰も見たことのないものを見つけることの大変さが伝わってくる。そして……!

画面にぽうっと赤色の光が、浮かんで見えます。これは、YUKAの細胞核です。
「あれ?」
「おや?」
山縣先生はモニターに顔を寄せました。
安齋先生も、モニターに目をこらしました。
緑色のもやもやしたものが、細胞核のまわりに現れてきたのです。
「これは。」
「ぼ、紡錘体?」

紡錘体って生物の授業で教わった! うわ、YUKAの細胞核が分裂しようとしている! YUKAの細胞が生きている! (この本でもイラストつきで紡錘体と体細胞分裂のしくみをわかりやすく解説してくれます)

研究は、絶滅したマンモスの細胞分裂まであと一歩のところまで進み、「マンモス復活プロジェクト」は世界が注目する結果を示すことができた。

ここから先についても研究チームは考える。マンモス復活が現実味を帯びてくればくるほど、別の課題が浮かび上がる。倫理の問題だ。

たとえば、マンモスの出産について。希少動物であるゾウのおなかを借りてマンモスを出産させるのではなく、人工子宮を使うべきであること。そして、もし本当にマンモスを復活させたら、そこからどうするのか。

「……この研究には、そもそもかんたんに答えが出ない問題がたくさんあります。仮にこの研究が100年後に達成されたとしても、そのあとは? 生まれたマンモスはどう生きていくのでしょうか? マンモスは群れを作って生活する生き物なのに、1頭だけ? では何頭か仲間をつくってあげたらいいのでしょうか? でもマンモスが生活していたような環境を、用意できるでしょうか?」

復活したマンモスが1頭でうまく生きていけるかはわからない、では仲間をいっぱい増やしたとして、彼らは今の地球で無事に生きていけるのか。そもそも今いる生き物はどうなるのか。だからといって、研究そのものを「しないほうがいい。」やめてしまうことはちがうのではないか。マンモス復活プロジェクトの先生たちの熱い議論がとても面白い。

気が遠くなりそうな研究をあきらめずに一歩一歩重ねていく面白さと、生命科学の魅力、そして研究者の熱さがつまったノンフィクションだ。「そう、あと少し、たったの100年だ!」という言葉に胸を打たれた。100年先が楽しみになる。


※本記事で引用した画像の無断転載を禁じます。

  • 電子あり
『よみがえれ、マンモス! 近畿大学マンモス復活プロジェクト』書影
文:令丈 ヒロ子 絵:深川 直美

もしも、絶滅した生き物をよみがえらせることができるとしたら?

マンモスから採取した細胞核をもとに、マンモスを復活させられるのでは?
――20年前から近畿大学が取り組んできた「マンモス復活プロジェクト」を、『若おかみは小学生!』の著者、令丈ヒロ子氏が徹底取材。

それぞれの専門を生かし、得られた研究結果を次の研究者へとバトンのようにつないで、ついに世界を驚かせる論文を発表したプロジェクトチームの熱い日々を描く、本当にあった物語。

<すべての漢字にふりがなつき。小学校上級・中学生から>

レビュアー

花森リド イメージ
花森リド

元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。

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