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天才アラーキー「カップルは二人で過ごす時間を撮りなさい」【インタビュー連載第6回】

2021.08.06
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美容誌「VOCE」で約20年続いた、写真家・荒木経惟のインタビュー連載。連載タイトルの文字通り、荒木の写真は「愛」を説明する。連載114回を公開。

──写真で綴る“私小説”が完成した。ベストセラー「写真ノ方法」から10年。そのときの聞き手が写真を選び、荒木さんが説明した。私写真は私小説になり、言葉は、いつしか写真になった。気持ちをぶつけながら、大切な人の写真を撮ってプリントして、アルバムに整理すれば、誰でも、かけがえのない私小説を作ることができる。物語の中に、日常の光と影が揺らめく。

“いまは機械で大抵のことはできちゃう。そうなると、試されるのは気持ちなんだよ。愛情なんだよ”

最近って、みんなデジカメとか、カメラつきのケータイで写真撮ってるだろ? あれ、そのあと、ちゃんとプリントして、アルバムに貼っつけたりしてんのかな? 別に、昔あった、上に透明なフィルムをかぶせるみたいな、大袈裟なやつじゃなくてもいいんだけど(笑)、やっぱりね、写真を見ると、“幸福な思い出”に対するノスタルジーが湧き上がるものだから、せっかく撮ったなら、アタシの言葉で言うところの、“ブツ”にして、手触りとかも感じられるようにしておいたほうがいいと思うんだ。何とかカードみたいなのに保存するんじゃなくってさ。

なんでそんな話をしたかっていうと、ちょうど、アタシにとってのアルバムみたいな本が出たんですよ。『写真ノ愛・情』っていうんだけど、「日本人ノ顔」プロジェクトを仕切ってる和多田(進)から、アタシの写真の中から自分で何点かを選んで、その写真についての話を聞き書きでまとめたいって言われてさ。あいつは写真のことは分かってるだろうなと思っていたし、アタシはもう写狂老人で余裕だから(笑)、全部、任せることにした。そうしたら、いい写真集が出来上がってきたんだよ、これが。ちゃんと私写真で構成された、私写真になってる。文章も、文字になっていないで、写真になってる。

写真って、ビックリするぐらいいろんな物語が写るものなんだよ。あとで説明する必要なんかないくらい、とにかく饒舌。たとえば、表紙に使われた陽子とアタシの写真(※冒頭の写真)なんか、幸福そのものじゃない? 森山大道さんが遊びにきたときに撮った写真だっていうのは覚えてるんだけど、アタシが撮った写真じゃないから、名作って言われてもちょっとなぁ……(苦笑)。実は、誰が撮ったのかも覚えていない。ま、覚えていなくてもいいんですよ。ギャラなんか請求されると困っちゃうから(笑)。

全体としては、案外、バルコニーの写真が多くなった。陽子と過ごした時間もあれば、彼女がいなくなってからの空虚な空間や、チロちゃんとの時間、増えていく怪獣ども、錆び付いて転がったテーブルとか、このバルコニーでの出来事を追いかけると、それが、アタシの幸福の物語になってるんだね。今回は、和多田が写真でアタシの小説を紡いだわけだけど、そういうことをやってみると、不思議と写真を選んだヤツの性格が出る。あいつはすごく真面目な男だってことが、あらためて分かったよ。だから、これは、アタシも照れてる場合じゃないな、とまぁちょっと覚悟を決めたっつーか……。王道のセレクト? うん、そうかもしれない。でも、せっかくなら、アタシの場合はそこに「点」をつけて、玉道(ぎょくどう)と言いたいね(笑)。

電子図書とかデジタル新聞とか、データの配信とかさ、これからはプリントしない、ブツにしないもののほうが主流になるなんて言われてるけど、震災のあと、瓦礫の中から家族写真が見つかったなんてニュースを耳にするとさ、やっぱり、人間には、形として手元に残る思い出があった方がいい。アタシはそう思うね。ノスタルジーが、幸福な時代の思い出が、人が生きていくうえでは必要なんだ。いや、もちろんいま現在避難所で暮らしてる人は、心のナントカなんて言ってる場合じゃないと思うよ。それよりもまずはカネだろう。ちゃんと仕事につくことだろう。生きる基盤を整えることが最優先だろう。ただ、その先はまたきっと、幸福だった時間を心の支えにするはずなんだ。だから、いま写真を撮る余裕のある人たちは、恋人や、家族や、友人や、ペットや、大好きな景色の写真を、どんどん撮るといい。自分も撮ってもらうといい。それをちゃんとプリントして、アルバムを作りなさい。昔はさ、女の子が生まれたときは、成長記録をアルバムにして、お嫁に行くときに持たせたものさ。

カップルは、二人で過ごす時間を撮りなさい。愛おしい気持ちをぶつけられる人たちの写真は私写真なんだから、並べるだけで私写真になる。いまみたいにカメラの機能が発展しちゃうと、むしろ素人のほうが、いい写真を撮れることが多いんですよ。ちょっと前までは、写真家っていうのは技術で食ってた。でも、いまは大抵のことは写真機がやってくれる。そうなると、試されるのは“気持ち”なんだ。写真を撮るときは、愛情がなくちゃダメなんです。

この間、哲学堂で遊ぶ子供たちを撮ったんだけど、木漏れ日がキレイで、ゾクゾクしたね。子供たちがいくら元気でも、そこに当たるが直射日光だけじゃつまらないんだよ。やっぱり、陰がないと。人生も、写真も、光と陰のハーモニーがないとね。愛情のほかに、写真を撮るときに気をつけることがあるとすれば、まぁそのことくらいかなぁ。

【プロフィール※連載当時ママ】あらきのぶよし

’40年東京都三ノ輪生まれ。写狂人から写狂老人へ。5月25日、めでたく71歳の誕生日を迎え、夕方には、清澄白河のタカ・イシイギャラリーに現れた。子供、女、珍獣、花、医者、空、女優、横綱、3・11の夜……。ありとあらゆる日常と非日常が入り乱れ、才能が大暴走。六本木で開かれたバースデーパーティはもちろん大盛況!

(取材・文/菊地陽子)

  • 電子あり
『愛バナ アラーキー20年ノ言葉 2001-2020』書影
著:荒木 経惟

雑誌『VOCE』で2001年から約20年続いた荒木経惟のインタビュー連載から、荒木氏が残した“名言”を収録。

【荒木氏の20年分の“生の声”の集大成】女性論、写真論、幸福論、芸術論、死生論など、荒木氏の“生の声”を収録。20年間表現しつづけてきた変わらない哲学は、触れた人の背中をそっと押す優しさと、視点が変わる新しい気づき、そして人生を「をかし」むユーモアに溢れています。

【あらゆるシリーズから豊富な写真を掲載】さっちん、空景/近景、幸福写真、エロトス、チロなど、初期〜現在の作品まで163点を収録。パッと開くと、その時の心に刺さる名言や写真に出合える1冊です。

【20年間取材したライターのレポも収録】連載のロングインタビューを再編集した長文の「荒木論」も8つ収録。巻末には、取材時の荒木氏の様子を劇場的に捉えたエピソードコラムや、現地で取材した海外展のレポート、著名人の撮影の様子なども掲載。

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