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【一家に1冊の感染症バイブル】感染症は災害に似ている。忘れたころにやってくる。

たいせつな家族を感染症から守る本
(著:生田 和良)
2021.06.03
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正しく怖がろう

2021年5月現在、SNSで「ある特定のワード」を含んだ投稿に対して自動で注意書きが表示される。たとえばFacebookで「ワクチン」に関するニュースサイトをシェアしたり、「ワクチン」という単語を含んだ投稿を行うと、「ワクチンに関するリソースについては、新型コロナウイルス感染症情報センターをご覧ください」とリンク付きの補足が表示される。この機能が追加されるまでにどれだけの混乱があったのだろうと想像するとヘトヘトになる。

わからないことや目に見えないことはとても怖い。だから、せっかく怖がるのなら、正しい情報を手元にならべて正しく怖がりたい。噂話なんてもう沢山なのだ。

『たいせつな家族を感染症から守る本』は、ウイルス学と感染症の研究と対策に長年携わってきた医学博士の生田和良先生が、日本で日常生活を送る人にむけて、そのライフステージごとに注意すべき感染症を教えてくれる本だ。読むと気が引き締まる。

本書は、

① 感染症を起こす病原微生物を知る

② からだのしくみとしての免疫を知る
③ 感染症のかかりやすさを知る

ことで、少しでも知識をもって、見えない相手を過大に恐れることなく、ともに暮らす日常の「感染症生活」について、ヒントとなる情報を盛り込んだものである。

そう、今は新型コロナウイルス感染症で頭がいっぱいになりがちだけど、感染症ってそれだけじゃなくて日常生活に潜むリスクなんだよなあ……。でも、少しでも知識があれば、少しは落ち着いて戦えるはずだ。

ウイルス? 細菌?

まずは敵を知ろう。本書の前半では感染症を引き起こす犯人たちの正体がわかりやすく語られる。知ることによって正体不明の不気味さが和らぐ。大事な章だと思う。知ることは武器になる。

まず「細菌」。

細菌は栄養があれば自らの力で細胞分裂をして増えることができる。(中略)なんとなく生き物としてイメージしやすい。

じゃあ「ウイルス」は?

一方、ウイルスは自ら増えるだけの力を備えていない。必ず、増やしてくれる宿主(しゅくしゅ)細胞が必要になる。その意味では、生き物とはいえないかもしれない。しかし、一旦、人間などの生き物の細胞に取りついて(感染して)、からだの中で増殖し始めると、凄まじい数の子孫ウイルスを作り、取りついた宿主細胞を破壊したり、殺さないまでも正常に機能させない状態にしたりと、宿主に大きな影響を与える。
あるウイルスに感染しやすい細胞(感受性細胞という)は、そのウイルスと結合するレセプター(受容体)を細胞表面にもっている。感染とは、そのレセプターとウイルス表面が結合することで成立する。

このレセプターの仕組みを知ると、「インフルエンザのワクチンを毎年打つのはなぜ?」や「なぜ新型コロナウイルス感染症は子どもが発症しづらいの?」といった不思議がわかる。

そして、最近あらゆる場所で目にする消毒液が、細菌とウイルスにどう働きかけるのかも解説される。あの消毒液たちを「ありがたいな~」と思いながら使わせていただく一方で、アルコールと次亜塩素酸ナトリウムのボトルが並んでいると「どっちを使えばいい?」「強いのはどっち?」と悩む。



正解は「有効な消毒はウイルスの種類によって違う」だ。パワーの強弱じゃないんですね。やっぱり、知ることって身を守る武器になる。

私はどんな感染症を気にかけるべき?

本書の各章で紹介される感染症は、次の家族をモデルに語られる。



この図を見るとライフステージや生活環境によって特に気をつけるべき感染症が違うことがよくわかる。ちょこんと並ぶ犬や猫も感染症において鍵になる存在なのだ。

たとえば私は本書でいう成人期のライフステージにいる。


わかる。元気いっぱいで、じっとしていられなくて、海外旅行が大好き。輸入感染症のやっかいさはこの一年イヤってほど目にした。もちろん、コロナ禍の前から入国時にサーモグラフィーのチェックを受けてきたが、下記の表を見ると潜伏期の長さにギョッとする。

「元気いっぱいだけど感染しています」という状態がままあるのだ。

そして、海外でも国ごとに気をつけるべき感染症が異なる。たとえば私の大好きなインドネシアはというと……、

マラリアや狂犬病のリスクもある。特に、麻しんが流行しており、日本人旅行者によるウイルス輸入例が多い。

母子手帳を読み返すと麻しんのワクチンは接種してもらえているようだ。狂犬病のワクチンはまだ打ったことがない。次に旅行へ行くときは打ってもらおう。知らない犬に近寄ったり触ることは絶対にしないけれど、ゴロゴロ昼寝する犬たちを「かわいいなあ」とじっくり見てしまう。

海外旅行にさあ出かけるぞと出国ゲートを抜けたあとで「各地の感染症情報」の啓発ポスターを見かけてハッとなることがある。あのタイミングでハッとしてちゃダメだ。旅先のいいところやおいしい食べ物をネットで下調べするのと同じように感染症情報と対策のことも事前に把握しないと。そのほうがうんと安心して気持ちよく旅を楽しめる。

無数の感染症に対する勘所がわかる

私たちの身の回りには数えきれないくらい感染症のリスクがあるけれど、それぞれの勘所がわかっていると「なんだか怖い!」とパニックにならずに対処ができる。そして意外な落とし穴が日常生活に潜んでいることも本書でわかった。知ると迎え撃つことができるのだ。

とくに高齢者は「えっ、そんなところも気をつけないといけないの?」と驚くことの連続だ。

レジオネラは、世界的に、自然界に広く生息している。温泉以外でも、家庭で使う機器で湿気があるようなものでは、この細菌が棲みつく可能性がある。(中略)
たとえば、加湿器などの、貯水している期間が長くなった場合などである。小まめに掃除を行い、水はできれば毎日交換することが望ましいとされている。

今すぐ実家の高齢な家族に知らせたい……。

そして「誰が気をつけるべきか?」を知ることは、日常生活を送る上でとても大切だ。私は一時期とても神経質になってしまって、ジムのシャワールームに一歩も近づけなかった。「緑膿菌ってのがいるらしいよ」との噂を聞いたからだ。緑の膿って字面がめちゃくちゃ怖い。でも実際はというと……、

緑膿菌は、水まわりなど、広く環境中に存在する細菌で、健康な人では問題にならない細菌である。この細菌も、日和見感染症を起こす細菌と位置づけられ、高齢者など、免疫力が弱くなっている人には問題となる感染症を引き起こす。

私はまだ怖がるべき年代や健康状態ではない。そして緑膿菌は水まわりにいっぱいいるのだから、ジムのシャワールームだけを避ける意味は薄い。きちんとボディソープで体を洗って清潔にしたほうがいい。

最後まで読むと感染症に対する怖さの質が変わる。無闇に恐れるのではなく、戦い方がわかるのだ。

手洗い、ワクチン、マスク。これらの言葉を聞かない日はないけれど、やがて事態が収束したらメディアやSNSや日常会話での存在感は薄くなるかもしれない。はやく日常が戻って欲しいと思いつつも、せめて本書の次の言葉だけは心に留めておきたい。

感染症は災害に似ている。忘れたころにやってくる。だから備えよう。

『たいせつな家族を感染症から守る本』書影
著:生田 和良

一家に1冊の感染症バイブル。
微生物である細菌とウイルスの違いを知る、人のからだのしくみを知る、ライフステージによって出会う感染症の違いを知る。そうすることで自分や家族の感染症危機管理スキルを高めよう。
自分や家族の免疫の力を知り、どこでどのような感染症が待ち受けているかをあらかじめ想定できれば、感染症との共存生活はうまくいく。本書は新型コロナウイルス感染症に特化せず、幅広く感染症を扱っている。
著者は長年ウイルスの研究をし、ワクチンの開発に携わり、行政機関の最前線で感染症と対峙してきた。感染症は忘れたころにやってくる。見えないが身近にいる細菌とウイルス。でも、災害に備えるように感染症に備えれば、何とかなるのではないか。今からでも遅くない。しかし、人は忘れるようにできている、だから的確に感染症と対峙することができるように繰り返し学ぼう。
本書でそれぞれの世代で気になる感染症の知識を増やし、お互いにちょっとした知識を語れるようになろう。感染症を学び直すきっかけになり、そして、10年後、また引っ張り出して読む本です。

目次
はじめに
本書に登場する家族のメンバー紹介
第1章 予習●感染症に関する日本の特殊性
第2章 予習●微生物――見えないから微生物
第3章 予習●からだの強さと免疫のしくみを知る
第4章 保育園、幼稚園、小中高など集団生活で気になる感染症――予防接種やインフルエンザ
第5章 思春期・青年期で気になる感染症――性感染症と妊娠
第6章 成人期で気になる感染症――インフルエンザ、風しん、麻しん、輸入感染症
第7章 高齢期で気になる感染症――肺炎や薬剤耐性菌感染症など
第8章 感染症の検査とワクチン、抗体医薬
おわりに
索引

レビュアー

花森リド イメージ
花森リド

元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。

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