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人類に待つのは希望か、滅亡か。現代社会への警鐘を鳴らす令和の「西遊記」

西妖記(1)
(原作:冬森 雪湖 漫画:一ノ瀬 かおる )
2020.10.04
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中国の書物『西遊記』といえば、三蔵法師が孫悟空、猪八戒、沙悟浄をお共に経典を持ち帰るため天竺へ旅する話として、誰もが知っていると思います。
その『西遊記』を彷彿とさせるのが、この『西妖記』。
「妖」と付くだけあって妖魔が登場するのですが、単なる異世界の話ではなく、人間の本質について問われているようで心に沁み込んできます。

ありがたい経典をいただくため、天竺に向かっていた宗教本山・須弥山(しゅみせん)の尼僧・茜上人(あかねしょうにん)と、護衛の真守(まもり)と白霞(しらか)。
真守は、塞国(さいのくに)で王子の警護にあたっていた剣の達人。
白霞は、茜上人から時々とがめられるほど口数が多い毒舌家。

つい、どっちが猪八戒でどっちが沙悟浄? と思ってしまいますが、似ても似つかぬ美しさ。
まずは、この3人の立ち姿が非常に美しくて、惚れ惚れします。

旅の途中、邑(むら)人に頼まれ妖魔退治を引き受けた茜上人は、真守、白霞と妖魔がいると噂される廃鉱入り口で呪符を見つけます。
結界を解いて中に入ると、そこには足を切り落とされ精気のない若い男が横たわっていました。 

男は自在に操れる使い魔とするため、拷問の末わざと妖魔に堕とす「妖魔錬成術」の犠牲者だったのです。


誰もが母親の胎(たい)から“宝珠”を抱えて生まれ、質の良い宝珠を持つ者は神仏と繋がり啓示を受けることができます。

しかし、質の悪い宝珠を持つ者は、ひとの血と恐怖の波動を喰う“邪神”と繋がってしまうのです。

『西妖記』で“宝珠”は、とても重要なアイテムとして何度も出てくるのですが、この設定にハッとしました。
目には見えないけれど、私たちの誰もが大切なモノを持って生まれてきたのだという気がして。

密教の教えに十界というのがあります。一番上は“仏”で“人間界”は中間にあり、それより下にあるのが妬みや猜疑心にまみれた“修羅”、その下が“畜生”“餓鬼”と続き、一番下が“地獄”。
上にも下にも行ける狭間にあるのが、“人間界”だというものです。

妖魔とは、人間が苦界に堕(お)ち変幻したもの

『西妖記』には、自分たちのエゴのため他人を犠牲にし、欲望のために人の尊厳を踏みにじる、まさに人間界から堕ちた者たちが出てきます。
彼らによって傷つけられた者たちの憎悪の結集は妖魔を大きくし、足を切られた男と結びついてしまいます。


        
この話が、単なる異世界の妖魔と戦う話に止まらないのは、こうした魂に訴えかける奥深さがあるからだと思います。

異世界の話の多くは、読み手がその世界に身を置きに行く感じがするのですが、『西妖記』は向こうから心に入って来る感覚なのです。

茜上人によって救い出された男は、実は妖魔に堕ちていなかったことがわかります。むしろ、妖魔すらも懐く「真人(しんじん)」と呼ばれる者だったのです。

こうして、旅の一行は4人になるのですが、この謎の男がこの先どんな役割を果たすのか、どんなことに巻き込まれるのか、長い旅路になりそうですが見守っていきたいと思います。

  • 電子あり
『西妖記(1)』書影
原作:冬森 雪湖 漫画:一ノ瀬 かおる

人類がその進化を止め滅亡へと向かう中、ありがたき経典を手に入れるため天竺を目指す茜上人一行。立ち寄った邑(むら)で妖魔退治を頼まれた茜は、妖魔が現れるという廃鉱で1人の青年を見つける。足がなく、身の証明である「宝珠」を持たない彼は「塞の国」の王子・氷高の双子の片割れだった。茜はこの謎だらけの青年を天竺まで連れていくと言い出し邑へと戻る。そこで待ち受けていたのは攻撃が一切通用しない、最強最悪の妖魔だった。

レビュアー

黒田順子

「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。

公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp

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