23区に潜むマジョと蟲
東京は魔都がよく似合う。東京の「東京らしさ」の1つは「“都市”が密集している」ところだ。それぞれの“都市(区)”の規模が大きく、人が無数にいて、どの土地にもわかりやすい特徴がある。東京はたくさんの遺伝子が1つの体に詰まったキメラのような存在だ。だから「なんだってあり」な気がしてくる。
『23区東京マジョ』はそんな東京のキメラっぷりを思い出させる。身体中どころか口の中にまで蓄光の刺青を入れた“マジョ”が暗躍し、“蟲”がうごめく都市。そこで凄惨な殺し合いが始まる。みんな「渋谷区が」「葛飾区が」などと囁きながら。
奇怪で、禍々しくて、退屈する暇がない。
私は君の兄を絶対に治す
“ハナコ”は台東区在住の高校生。運動も勉強もそれなりに秀でた人物で、浅草の喫茶店でバイトをしながら“兄”を見舞う日々を送っている。ハナコの兄は、とある事件により6年間ずっと意識不明のまま。
兄を助けたいけれど現代医療では無理。もどかしさと怒りのような感情をフツフツと抱えながらハナコは生きている。
ある日、隣の葛飾区で奇妙な殺人事件が起こる。被害者は2人。臓器を抜き取られた男と、風呂で溶かされ身元が全くわからない幼女。2人からは違法薬物も検出された。
臓器売買? 暴力団絡み? こんな不気味なニュースを聞きながらハナコが考えるのは「もし臓器売買したらいくらになるかな」という皮算用。ひたすら兄のことで頭がいっぱいなのだ。
そして、どうしても兄を治したいハナコは、“マジョ”の噂話を聞く。
現代医療では治せない患者でも「必ず治せる」という怪しい闇医者だ。居ても立っても居られずマジョを探し始め……、
ついに出会ってしまう。彼女の名前はカバネラ。台東区のマジョだ。そう、マジョはそれぞれ「東京の23区」と結びついているのだ。1区に1人ずつマジョがいる。
しかもバッテンが付いた区のマジョはすでに殺されている。なぜだか殺し合いをしているらしい。マジョたちにとって東京は紛争地帯だ。(私が暮らしている区のマジョはまだ生き残っている……!)
だから、カバネラはハナコに契約を持ちかける。
兄を治療する代わりに、カバネラの用心棒となりマジョの抗争に加われ、と。マジョたちはそれぞれ“契約者”と呼ばれる用心棒を雇っているのだ。
そうこうしているうちに早速渋谷区が台東区に攻めてきた! 区別対抗のマジョ狩り……読んでるこっちはめっちゃ楽しいが、高校生のハナコが立ち向かえるの?
相棒はムカデ
意識不明の兄、闇医者、マジョ、マジョ狩り……禍々しくてエッジの効いた要素が多いが、さらに強烈なものが登場する。“痣蟲(あざむし)”だ。
マジョはそれぞれ“痣蟲”を持っており、カバネラの場合はムカデだ。ハナコはこのムカデを自身に寄生させて戦う。
ムカデに寄生され感覚が拡張されまくったハナコの状態を見ると、確かに薬物によるバッドトリップのようだ。
ムカデたちはよく自分のことを「ムカデ」と呼んでペチャペチャ喋っている。愛嬌があってかなりかわいい。
マジョの刺青は蓄光なので、明るい場所にいるカバネラはただの女の子に見える。日常の掛け合いも楽しい。こういった場面を読むと、日常と地続きの紛争であることがよくわかる。
台東区にマジョが来る
カバネラとハナコの周りで事件が起き続けたことにより、それぞれの区のマジョと契約者は台東区に目をつけ始める。
なんでそんなに仲が悪いんだよ君ら……という点も目が離せないが、「次はどの区が来るか?」と想像するのが楽しい。新宿区のマジョってどんなの? 目黒区の痣蟲って? ど真ん中の千代田区もまだ生き残っている。豊島区も強そう……。この辺りのネタの尽きなさが東京の強みだ。個人的には自分の区も心配だが、台東区のカバネラとハナコと可愛いムカデには絶対に勝ち残ってもらいたい。
レビュアー
元ゲームプランナーのライター。旅行とランジェリーとaiboを最優先に生活しています。