何の予備知識もなく読み始めたら、あまりの面白さに思わず「お見事!!」と喝采を送っていました。まだ、第1話を読んだだけだというのに。
異世界を扱う話は、状況設定やキャラクターの把握に頭を使うものですが、『魔法使い黎明期』は色々なキャラクターが出て来るにもかかわらずテンポが良く、すんなりと異世界に入り込むことができました。
改めて見ると、原作は『ゼロから始める魔法の書』の著者でもある虎走(こばしり)かける氏のファンタジー小説。これにタツヲ氏のハイレベルな作画が、見事にマッチしています。
主人公は、「ウェニアス王国王立魔法学校」始まって以来の成績不良による退学者となりそうなセブ君ことセービル。
退学者は追放されるだけでなく、魔法学校に居たことすら忘れさせられるのがルール。だから入学前の記憶がほぼないセービルは、魔法使いになるしか生きる術がありません。
そんな成績不良者の救済措置として設けられたのが、魔女の村での特別実習でした。
セービルに同行するのは、笑顔を武器に生きて来たという学校一の秀才ホルト。あと1年で卒業できるほど優秀なのに、なぜか数年かかる特別実習に立候補したのです。
そしてこの2人を引率するのが、ロス先生こと黎明の魔女ロー・クリスタス。魔法学校学長の友人で、教師でもないのにセービルたちの引率を引き受けました。
見た目はロリータなのに、年寄じみた言葉で毒舌を吐くロス先生。中身は絶対におっさんだろ!とツッコミを入れたくなります。
しかし彼女は、契約者以外が触ると魔力を全部吸われてしまうため“魔女喰い”と恐れられている「ルーデンスの魔杖(まじょう)」を唯一操れる魔女でもあるのです。
3人は旅の途中、別行動で魔女の村を目指していた半人半獣の“獣堕ち(けものおち)”クドーが襲われたことを知ります。
“獣堕ち”は、戦闘能力や再生能力が高い反面、人々からは凶暴で危険と思われ、凋落の象徴と忌み嫌われている存在でもあります。
500年に及ぶ魔女と教会の対立が収まり、数年前から平和な世の中になったはずなのに、教会の原理主義者たちによる“魔女狩り”が活発になりつつありました。
クドーを襲ったのも、魔女と戦うために集められた戦闘集団〈女神の浄化(デア・イグニス)〉の裁定官でした。
足手まといになるからとセービルとホルトを置いて1人、「ルーデンスの魔杖」で裁定官と闘うロス先生。
ロス先生の圧勝かと思われたそのとき、後を追って来たセービルとホルトが現れ、怒涛の展開となります。ここで早々と最初の山場がやって来るのですが、その見せ方がまた素晴らしい!!
今まで伏せられていた様々なことが、明らかになって行くからです。
『魔法使い黎明期』は、登場人物が皆、何かしらの辛い過去を背負っているところが魅力だと思います。
セービルは魔法学校に入る前の記憶がほとんどなく、獣墜ちのクドーも昔は見世物小屋の檻の中で拘束されていました。
優等生のホルトには、誰にも言えない複雑な事情があり、成績が優秀なのに特別実習に参加した理由が暴かれて行きます。
そして、彼らの引率を引き受けたロス先生にも、どうやら深いわけがありそうなのです。
こうした様々な要素が絡み合うので中身が濃く、一気に読んでしまうのが勿体なくなった私は、毎日1話ずつ読んだほどです。
また最後まで異世界特有の世界観、魔法に関する複雑な設定がすんなりと頭に入ってくるあたりは、構成の凄さと言いましょうか、ただただ脱帽するばかりでした。
君にふさわしい世界に連れて行こう
これは、魔法学校に入る前のセービルが、おぼろげな記憶の中で覚えていた言葉です。
私はこれを「人にはそれぞれ相応しい場所があるんだよ、たとえ今は上手く行ってなくてもね」と言われた気がしました。
そんなことを思わせてくれる『魔法使い黎明期』。この作品に出会えて、本当に良かったと思いました。
レビュアー
「関口宏の東京フレンドパーク2」「王様のブランチ」など、バラエティ、ドキュメンタリー、情報番組など多数の番組に放送作家として携わり、ライターとしても雑誌等に執筆。今までにインタビューした有名人は1500人以上。また、京都造形芸術大学非常勤講師として「脚本制作」「ストーリー制作」を担当。東京都千代田区、豊島区、埼玉県志木市主催「小説講座」「コラム講座」講師。雑誌『公募ガイド』「超初心者向け小説講座」(通信教育)講師。現在も、九段生涯学習館で小説サークルを主宰。
公式HPはこちら⇒www.jplanet.jp