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なぜ「おいしさ」を感じるのか!「コク」「キレ」の秘密にも迫る食科学の最前線

2018.04.10
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食事に行って料理が出てきたら写真を撮ってSNSに投稿する。もはやこの流れが無意識に身についている方も多いのではないでしょうか。私もその1人です。

しかし、実は「おいしい」という言葉を使うときに、自分の表現力のなさ、ボキャブラリーの少なさに毎回ウンザリしてもいるのです。

私たちは「おいしい」という言葉を人生でいったい何回使うのでしょうか。1日に何度も何度も目にするような接触頻度の高い単語でありながらも、「おいしいって何?」に正面から答えられる人って少ない気がします。もちろん自分も含めて、ですが。

例えばお肉の表現。「柔らかい」「口の中でとろける」このような表現はよく使いますが、これって食感について語っているだけで肝心の「味」については何も語っていないんですよね。

サシがたっぷり入った和牛を「おいしい」と感じる人もいれば、赤身で脂身の少ないお肉を「おいしい」を感じる人もいる。人によって感じ方が違い、つかみどころのない「おいしい」っていったい何なのか。

最近、熟成肉がブームですが「なぜ熟成するとおいしいのか」を知らずに、なんとなくブームに乗って食べている人が大半のように感じます。

「肉は腐る直前がおいしい」と言われていたけれど、カビに覆われた熟成肉は腐ってはいないのか? 冷蔵庫に入れて放置しておけば熟成肉になるのか? スーパーで売っている黒く変色しかけの肉は特においしいと感じたことがないけれど、本当に腐る直前がおいしいの?

これ、聞かれて正しく答えられる人はおそらく1割もいないのではないかと思うのです。

「肉は腐る直前がおいしい」といいますが、熟成肉は腐りかけの肉ではありません。腐るとは、腐敗細菌が繁殖し、タンパク質などが分解されて悪臭や有害物質が発生すること。一方、熟成肉では温度や湿度をコントロールして肉を寝かせることにより、腐敗細菌の働きを抑えつつ、肉が本来持つ酵素や有用細菌を働かせて、肉の熟成を進めています。ドライエイジングでは、水分を蒸発させるため、うま味が凝縮し、「熟成香」と呼ばれるナッツのような独特の香りも生まれます。(中略)長く熟成させるため、筋肉の構造が大きくゆるみ、通常の肉の熟成や霜降り和牛とは異なる、ふわっとするような、独特の柔らかさになります。

ポイントは柔らかさと香り。熟成肉は、ビーフジャーキーのような肉の凝縮されたうま味と、生肉の柔らかさの良いところどりが出来るから「おいしい」と考えると分かりやすいかもしれませんね。

「おいしい」の定義とは果たして何なのでしょうか。本書は「おいしい」について科学的に迫った本です。

実はおいしさは舌や口の中ではなく、脳で感じています。(中略)私たちは、嗅覚、視覚、味覚、触覚、聴覚の五感を使って食べ物のあらゆる情報を受け取っています。脳は五感を使って食べ物の情報を受け取ると、それを食べてよいか悪いか判断します。食べてよいと判断すれば、おいしいと感じるしくみになっており、必要な栄養素を摂取するのです。

酸味や苦味が苦手な人が多いのは、腐敗した食品特有の風味と共通するものがあるからで、逆に「甘み」は安全である可能性が高い。甘いもの好きなのは危険を避けるための本能に基いていた……そう考えると、甘いものをやめられない人が多いのも頷けますね。

いっぽうで、ビールやピーマンなど年齢を重ねて美味しく感じるものは「これは苦いけれど食べても大丈夫」と経験を重ねるうちに体がOKを出していくそうです。

「おいしい」は舌で味わうだけの嗜好性の高い感覚だと思っていたのですが、実は生きていくために「これは食べても大丈夫」と感じること、生命を維持するために体に栄養を取らせるという本能に基づいた感覚。脳に五感で様々な情報を伝えて、視床下部がOKを出せばおいしいと感じる。すなわち、「おいしい」とは「もっと食べなさい」という脳の命令だったのです。

本書では他に、以下のような内容も記されています。

・寿司ネタの厚さが違う理由(赤身、白身、イカ、貝など)
・冷めたご飯が美味しくないのはなぜか
・だしのうま味、最もおいしい配合比
・砂糖や酢を使うとなぜ腐りにくくなるのか
・カレーのルーを火を止めないで入れると溶けにくいのは
・冷凍食品が昔より格段に美味しくなった理由
・ダイエット中の「一口だけ食べたい」が原因で挫折するわけ

身近にある食品の例や調理法による違いで、「おいしさ」の謎に迫っていきます。ビールのおいしさの表現を例にあげましょう。

コクは、口のなかでうま味が持続すること、キレがあるとは味が消えるスピードが速いことととらえることができます。たとえばビールでは、苦味の後味が少ないほどキレがあると感じます。

このように、「コク」「キレ」など何となく日常でよく使っている言葉についても理論的に説明できるようになるので「おいしい」についての表現力が読むだけで身についていくのが嬉しいポイント。

「もうちょっとカッコよく『おいしい』を表現したいな」と感じていたら、ぜひ手にとってみてください。

  • 電子あり
『「おいしさ」の科学 素材の秘密・味わいを生み出す技術』書影
著:佐藤 成美

旨味成分に関する研究が注目されるなど、近年は「食」の科学的な研究が進んでいます。実際に、食品メーカーでは分子レベルの研究から新商品の開発が行われたり、科学的な知見をもとにした調理技術がフランス料理をはじめとする実践分野でも応用されたりしています。そもそも、「おいしさ」とは飲食にともなって起こる生理的な感覚(快感)です。人は五感をフルに使っておいしさを感じており、そのファクターは味や香りだけでなく、人間特有の生理作用や環境にまでおよびます。
現在、「食の科学」の分野で活躍されている大学研究者、メーカー研究者にサイエンスライターが取材し、「おいしさ」を感じるとはどういうことか、「おいしさ」を作るとはどういうことか、「食」分野での研究の最前線をわかりやすく紹介します。また、食材のおいしさはどこから来るのか、その成分や、調理や熟成によってどのような化学変化がおこっておいしくなるのか、詳しく解説します。

レビュアー

上岡史奈 イメージ
上岡史奈

20代のころは探偵業と飲食業に従事し、男女問題を見続けてきました。現在は女性向け媒体を中心に恋愛コラム、男性向け媒体では車のコラム、ワインの話などを書いています。ソムリエ資格持ちでお酒全般大好きなのですが、花粉症に備えて減酒&白砂糖抜き生活実践中。

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