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隠蔽された初期の機関誌を入手!『創価学会秘史』は学会員こそ読むべきだ。

創価学会秘史
(著:高橋 篤史)
2018.03.26
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日本最古の肉筆は『法華義疏(ほっけぎしょ)』、現在は皇室の御物となっている。どんな筆が使われているか、紙はどうやって用意したのか、興味はつきない。書いたのは聖徳太子とされているが、これには異論もあるようだ。『法華義疏』は法華経の注釈書である。すなわち、筆がはじめて使われた古い時代、法華経はすでにわが国の中心にあったのだ。

日本ほど、法華経というお経を重視し、その歴史に深くかかわらせてきた国はほかにない。

中国天台に学んだ最澄は、法華一乗の道場として比叡山延暦寺を開いている。法然も親鸞も道元もここの学僧だ。さらに、同じく比叡山に学んだ日蓮が、法華経ラジカリズムとでもいうべき思想を展開し、日蓮宗(法華宗)を起こす。

二二六事件の北一輝も、満州事変の石原莞爾も、たいへん熱心な日蓮の(法華経の)信者だった。乱暴にまとめるならば、あの戦争は法華経が起こしたとさえ言えるのだ。

戦後、日本の思想は大きく方向を変えた。しかし、法華経の影響力は決して弱まってはいない。宮沢賢治の作品は教科書の常連だが、あれは法華経の思想そのものなのだ。なにしろ賢治自身が「私の使命は法華経を広めることだ」と言っている。「あなたの詩や童話は法華経/日蓮思想の結晶ですね」と語っても、賢治は喜びこそすれ、断じて否定はしないだろう。

影響はそればかりではない。うちわ太鼓をひっぱたきながら「だいじょうぶだぁ~~」と叫ぶ志村けんのギャグは、日蓮信仰のパロディなのである。おそらくはその宗派周辺から批判があったためだろう、志村はこれを現在はやっていないが、番組タイトルにまでしていたのだから相当の自信作だったことはまちがいない。

そして現在。われわれは自民公明両党を政権与党としている。ご存じのとおり公明党は、創価学会を支持母体とする政党であり、創価学会とは法華経/日蓮思想の信者団体なのだ。すなわち、すでに聖徳太子の時代にメインストリームだった法華経は、今なおわが国の中心にあるのである。われわれの身体の中には、まるで血液のように法華経のエッセンスが流れているのだ。こんな国は世界中探したってないし、こんな国民はほかにはない。

その法華経の内容というのが、まるでSF、トンデモないんだが──そこまで話を広げると本論とズレてしまうのでまたの機会に。とにかくすげえんだ。

さて、『創価学会秘史』である。

創価学会は規模が大きく力も強いため、礼賛意見と同じくらい批判も語られてきた。本書は批判の書の系譜に属するものだが、単純に学会批判を展開しているわけではない。もっとドライに、初期の機関誌紙に目を通すことにより、創価学会という組織がどのように生まれ、成立してきたのかを明らかにしようとしている。本書を執筆する作者の手際に創価学会をおとしめようという意図は感じられない。

創価学会は、初期の資料を公開していない。人々の目にはふれないようにしている。学会の外部の者はむろんのこと、学会員さえ、それを見ることはできない。

なぜか。単純なことだ。初期の状況が明らかになると、都合が悪いからである。

創価学会には、「軍事政府と対決し弾圧された反戦平和の団体」という「正しいとされる歴史」がある。ところが、初期資料を読み解けば、これがまったくの作り話であることがわかってしまうのだ。

官憲と創価学会には、蜜月と呼んでいい時期があった。初期の学会はマルクス主義者を転向させ信仰に導くことで成り立っていたから、学会の信者増加は官憲の望むところだったのである。

また、あきらかに軍隊的組織論で動いていた時代もある。そのせいで排斥された幹部もあった。そのため、初期の資料は封印され、見られなくなった。初期の資料にあたると、「正しいとされる歴史」とはまったく異なる団体だったことが明らかになってしまうのである。

もっとも、これはひとり創価学会のみが特別なのではない。組織がある程度の大きさになったなら、どこもかしこもこれを同じことをしはじめるのだ。おそらくこれは、人のサガなのだろう。

為政者・権力者は、いつでも自分の都合のよいように事実をねじ曲げる。

もっとも有名な例は戦時中の大本営発表だろう。真実は伏せられ、情報はねつ造・改竄・隠匿された。負け戦も勝ったように報道された。めずらしいことではないのである。北朝鮮のような国なら今でも当たり前に行われているだろうし、規模こそちがえど、現在のわが国にも似た例はあるはずだ。

真に恐れるべきは、嘘が語られることではない。嘘が事実として伝えられ、それが真実になってしまうことなのだ。

大本営発表なんて嘘ばっかりだったと誰もが知っている。だが、あれしか報道されていないころ、あれは真実だったのだ。ミッドウェーもガダルカナルも実際はこてんぱんに負けていたわけだが、戦時中に負け戦だと認識できた者はほとんどいなかっただろう。そこから誤った未来予想図が描かれ、トンチンカンな戦略が練られていく。

ジャーナリズムの仕事はいくつかあるが、大きな役割のひとつとして、為政者・権力者がねじ曲げる情報を、本当は違うんだと訴えることがあげられる。もちろんそれが誤っている可能性だってある。だが、情報選択の余地がない形にしてはならない。ひとつしか情報がないって、大本営発表と同じなんだよ。

本書は、ジャーナリズムの見本のような本である。できるかぎり多くの人に接してもらいたいし、その役割を考えて欲しい。ペンは剣より強しなんて甘っちょろいことを言うつもりはないが、この本は書かれねばならなかったし、多くの人が知るべきだろう。

この本には学会員の方にもぜひ読んでもらいたい。初期の機関誌紙をひもとくと、こういう歴史が記述されていることを知ってほしい。それは、信仰を強くするものだ。

有名なインド哲学者、中村元氏は法華経を「宥和の思想」と呼んだ。おおいに同感である。

宮沢賢治や石原莞爾はもちろん、聖徳太子も最澄も、そして日蓮もこの意見に同意するはずだ。ちなみに、日蓮は手紙で聖徳太子に言及しており、最澄に至ってはあの「御本尊」に名前を記している。どちらも創価学会の信仰の対象である。

  • 電子あり
『創価学会秘史』書影
著:高橋 篤史

全国800万世帯の信者を抱える巨大宗教団体、創価学会はどのように創立され、発展したのか。
学会が完全に封印し、幻の文書となった会報、機関誌を独自に入手。浮かび上がってきた牧口常三郎、戸田城聖、そして池田大作の肉声と、言動。
「オーイみんな、僕等は飽くまでも『事』の信仰でゆかう。一歩も履み外さずに『事』でゆくから。理の信仰といふのは、頭だけの信仰だ。思想の上だけの信仰だ。口先ばかりの信仰だ。──お弁当組、忙しい折柄ぢゃが、繰合せて参った上にゃ、呑んでつかはすぞよ! アハ、アハ……」
初期の創価学会は、左翼運動で検挙された元教員たちを取り込み、特高警察や思想検事と手を結んで「転向」を促すことで組織を強化した。
戸田城聖は戦後、出版業や教育産業、金融業に乗り出すが、失敗。学会は、巨大な「集金マシーン」へと姿を変えていく──。

レビュアー

草野真一 イメージ
草野真一

早稲田大学卒。書籍編集者として100冊以上の本を企画・編集(うち半分を執筆)。日本に本格的なIT教育を普及させるため、国内ではじめての小中学生向けプログラミング学習機関「TENTO」を設立。TENTO名義で『12歳からはじめるHTML5とCSS3』(ラトルズ)を、個人名義で講談社ブルーバックス『メールはなぜ届くのか』SNSって面白いの?』を出版。「IT知識は万人が持つべき基礎素養」が持論。2013年より身体障害者になった。

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