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『ふしぎな総合商社』まとめ──なぜ急成長? 売上ゼロでも高ボーナス?
「ポストバブルの勝ち組」といわれる商社、彼らは不況下の日本でどのように生き抜いてきたのでしょうか。そして“勝ち組”とまでいわれるようになったのはなぜでしょうか。その勝利の秘密(秘訣?)を優しい言葉で解き明かしたのがこの本です。
商社は口銭ビジネスといわれています。口銭とは売買の仲介をした手数料のことですが、口銭にも2つの種類があります。
1.外口銭:メーカーから仕入れて小売店に売る際のメーカーの価格に上乗せする価格のこと。
2.内口銭:メーカーと商社の間で予め取り決めている価格です。
どちらにしてもとてもシンプルな流通ビジネスです。典型的な商人の世界です。
──商業は、一言でいうと、「安く買って、高く売る」仕事だ。安く買ったものを、加工などの価値を付け加えることなく、そのまま同じものを高く売って儲ける。──
取り扱う商品はまさしく総合商社の名にふさわしく、小麦や野菜、果物のような食料品から航空機までを取り扱っています。
ところが「1971年のドルショック以来、低成長(安定成長)の時代」に入ると商社の収益は低下し始めます。さらに1973年の石油ショックが商社を苦しめます。商社冬の時代の到来です。それにとどめを刺したのがプラザ合意でした。
──’85年のプラザ合意以降の円高が最後のひと押しのように襲い、商社のビジネスの崩壊につながった。(略)世界と日本との経済構造が変わったことで、商社は従来の機能を喪失してしまった。そこで、商社は、自分たちの収益の取り方、すなわち業態自体を変化させて、なんとか生き残ろうとする。──
商社はいままでのビジネススタイルでいいのかという、危機の自覚とともに商社は新たな収益構造を求めなければならなかったのです。成功と失敗、さまざまな試行錯誤があったことでしょう。それは新たなビジネスへ向けて産みの苦しみでした。
──資源の輸入や工業製品の輸出という従来の機能を包摂しながらも、「資源の輸入」から「資源の安定的調達」に、「工業製品の輸出」から「工業の海外進出支援」にと意味づけを変えていく。──
「売買仲介型(=口銭型)」から「事業投資型」へと総合商社はそのビジネススタイルを変えたのです。もちろん従来のビジネススタイルも生かしながらですが。
この資源ビジネスと工業製品事業モデルの変貌は、どのようになされたのか、この本で詳述されています。新たなビジネスの業態を作り上げる苦しみです。この本の読みどころの1つとなっています。
商社の変身が1つの読みどころですが、もう1つぜひ読んで欲しい個所があります。それは商社(商人)の商業的発想と「ものつくり的発想」とを対比した個所です。
著者のいうように、日本は「ものつくりに対する敬意」が強い国です。時間をかけて作ったものほど価値が高く、「ものつくり的価値」をあまり付け加えていないと軽く思われがちです。ですからたとえばサービス業などは「おもてなしのサービス」のように「時間をかけて習得した技」が重要視されています。これは「本来はものつくりとは違うのに、ものつくり的価値をアピール」しているということです。
この、ものつくり的発想と商業的発想の違いはコストの考え方にもあらわれています。ものつくり的発想ではコストを積み上げて計算するのが基本になっています。
──自分たちの社内の品質基準を満たすだけの仕様を考え、それに必要な材料費、人件費、設備投資の償却費、管理部門の間接費などを加える。──
ここにあるのは「高品質のもの」を作れば「その値段に見合った値段の製品であれば売れるはずだ」という考え方です。
一方、商業的発想では、まず市場ありきです。なによりもまず、市場ではどのようなものが、どのような値段で取引されているかに注意が向きます。
──その値段で出すことのできる品質の製品を販売することを考える。(略)そもそも商業では、創り上げた価値を足し算してその利益を説明することは不可能で、二つの価値体系の差異、すなわち引き算でしか利益の説明ができない。──
これはどちらかが正しいとかいうものではありません。ですが異なった価値観があるということを知るのは重要なことです。こんな1節があります。
──価値や文化の差異を利益の源泉として資源の最適配分を実現していく職業と、価値の構築を利益の源泉とする職業のどちらが上ということはない。社会人としては、自分の世界観によりフィットした仕事をしていたほうが、気持ちが楽だというこえるだけだ。──
商社は自らの「強い危機意識」をテコにして不況に挑んできました。ですから「危機意識」が薄れることは商社の生命力を弱めることになりかねません。著者によれば実は「事業投資型ビジネス」は「危機意識が失われやすい」といえるそうです。「売買仲介型」よりも「商社の機能や存在意義を問われる機会が少ない」からだそうです。
──投資家への説明の便宜を優先して、多様性を失い、純化した「美しい」戦略を打ち出すのは、却って寿命を縮めるだろう。──
この本は投資型ビジネスに変貌することで商機(勝機)をつかんだ総合商社の歩みを、現場で「売買仲介型」から「事業投資型」を経験してきた著者が綴ったものです。不況に陥った日本経済のなかで、生き残りかけて挑戦した商社、「課題先進企業としての商社」というものからはたくさんの学ぶものがあるように思います。またものつくりと異なった価値観・ビジネス観の商業というものを考えさせてくれる実に充実した1冊です。
- 電子あり
総合商社。それはじつはバブル期以降の急成長業界であり、「ポストバブルの勝ち組」である。伊藤忠商事、住友商事、丸紅、三井物産、三菱商事。バブル崩壊以降、5大商社のすべてが、吸収合併もされず、会社名も変わらず、とりわけ2001年以降、利益もバブル発生前の約10倍に拡大させてきた。
日本人だったら、ビジネスに詳しくない人でも、上記の五大総合商社の名前くらいは知っているだろう。多少、ビジネスに詳しい人だったら、「総合商社」が、他国にはない日本独自の業態だということも知っているだろう。
では、いまの総合商社は、実際にどんな仕事をして、どうやって稼いでいるか、知っている人はどれくらいいるだろうか?
実は、「知っている」と思っている人でも、その認識が一昔前までの認識であることが多かったりする。たとえば近年、総合商社が儲かったのは、資源のおかげだと解説する専門家がいるが、これは事実の一部を捉えたものにすぎない。さらには財閥などの企業グループをもとに権益を維持して稼いでいると解説する人もいるが、これなどはまったく事実とは違う。
かつては「売上命」だったのに、いまでは「売上ゼロ」でもボーナスが上がる営業部も存在する。いったいなぜ?
その「なぜ」に答えることは、ポストバブルの勝ち組になった理由を説明することでもある。そこには、それぞれの会社で進んだ稼ぎ方の大変化があった。
では、働く人は変わらず、稼ぎ方を変えられたのはなぜか?
誰もが知っているけれど、実態はよく知らない総合商社。その本当の姿を知ると、ビジネスの本質も見えてくる。そこにはこれからの日本のヒントが隠されているかもしれない!
就活生のみならず、ビジネスパーソン必読の書。
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。
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