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「尖閣諸島問題」日米中の裏交渉──秘密の外交会話が生々しすぎる件

2017.10.13
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尖閣諸島問題。シンプルにいえば「日本の領土である尖閣諸島」に対して、中国と台湾が領有権を主張している問題である。言葉にすればシンプルだが、その解決方法はいまだに模索中。「そもそも中国が騒いでいるだけだから問題ですらない」「アメリカも日本のものだって認めているし」など、さまざまな意見があるようだが、立場と国によって、その考えは大きく異なる。

映画顔負けのスリリングな駆け引き

「お宅の意見も取り入れましょう」という解決ができない以上、白黒ハッキリさせなければ終わらない問題。それゆえ、他国の一般人が領有権を主張する物理的な行動に出ることもあった。たとえば、2005年6月9日には台湾の漁船が尖閣諸島の海域に入り、物議を醸した騒動が記憶に新しい。騒動当時は1~2隻ではなく大規模な船団だったため、なかには「戦争でもやる気か」との声も出たほど。

複雑化、過激化しているようだが「この程度」で済んでいるのは、裏側で暗躍した人物がいたからなのかもしれない。2017年に出版された書籍『尖閣諸島と日中外交 証言・日中米「秘密交渉」の真相』(著: 塩田純)には、フィクション映画顔負けのスリリングな駆け引きと展開が記されている。

外交の公式な会談でありながら、なせか記録されなかった会話。そして非公式に個人的な行動で尖閣諸島問題を解決しようとした者たち。彼らが交わした表に報じられることがない「生々しい言葉」は、読んでいてエンタメ要素すら感じてしまうほど、緊迫したもの。あらゆる裏側で行われた「尖閣諸島問題」解決への行動が、この1冊に書かれているのだ。



非常に興味深い台湾人留学生

誰がどのような行動で、尖閣諸島問題を解決へと導こうとしていたのか? 彼らの暗中飛躍に関しては書籍を読んでもらうとして、今回は、非常に興味深かった別のポイントに注目して話を進めたい。

1970年ごろ、台湾人留学生が主導となり、尖閣諸島に対して領有権を主張するデモ運動が行われていたのをご存じだろうか。当時、日本でニュースとして報じられたかは不明だが、アメリカ在住の台湾人留学生が主導し、保釣運動をしていたと本書に記されている。ちなみに保釣は保衛釣魚台の略で、尖閣諸島の台湾名「釣魚台列嶼」が由来。本書によると、このデモはニューヨークを含むアメリカで行われたとされている。


いまの台湾人はどう思っている?

しかしながら、国際問題は国と国民の温度差が激しい場合がある。現在の台湾でも、1970年の保釣運動と同じように、尖閣諸島問題に対して熱く注目しているのだろうか。そこで今回、ひとりの台湾人に話を聞いた。先祖が中国福建省から台湾に移り住み、台北に在住。現在は国際的なビジネスを展開して中国や日本をはじめ、世界各国で活躍している台湾人に、尖閣諸島について話を聞いてみたのだ。

あえて質問もシンプルにし、返答もシンプルにしてもらっている。いまの台湾人は、尖閣諸島問題に対してどれほどの興味を持っているのか?

台湾人の声(20代)
「私の個人的の考えですが、正直、台湾人がこの問題に対して高い関心があるとは思っていません。なぜなら、釣魚の話は、いつも選挙の時しか話題にならないからです。選挙のために出てくるキーワードというイメージですね。普段は釣魚の話題になりません。しかし、だからといって領有権が日本にあるとは考えていないでしょう。日本と喧嘩したくない気持ちはありますが、台湾人は台湾に領有権があると信じているはずです」

あくまでひとりの意見だが、台湾で尖閣諸島問題は選挙の「おいしい種」にされることがあるようだ。


一般人が入れる日はくるのか

私はかつて、石垣島から台北まで飛ぶ復興航空の旅客機に搭乗したことがある。2013年、台湾が、日本との間に特別な空路を設けたのだ。飛行時間はたたの40~50分。驚くほど短い時間、美しい海と島々を眺めながら空の旅を楽しんだ。

尖閣諸島は、台湾と石垣島の間の海域に位置する。いつか尖閣諸島にも一般人が足を踏み入れられる時がくるのだろうか。尖閣諸島の100年後の未来を見てみたいものである。


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  • 電子あり
『尖閣諸島と日中外交 証言・日中米「秘密交渉」の真相』書影
著:塩田 純

尖閣問題は、いまだに燃えつづけている! 2012年の日本の国有化宣言以来、日中最大の懸案となった東シナ海の島々。日本・中国・アメリカ・台湾の関係者ヘの取材と新たに公開された外交史料から、その問題の所在を、2つの話題作をつくったNHKスペシャルの名プロデューサーが書下ろしで描く。
栗山尚一、橋本恕、岡田晃など亡くなった外交官の最後の肉声、周恩来や中国首脳の通訳、沖縄返還交渉以来の国務省首脳、石油埋蔵を調査した科学者など貴重な証言や、ニクソン・キッシンジャー秘密会談の録音など、日中米60年の外交の軌跡がいま解き明かされる。

今年2月、トランプ新大統領と首脳会談に臨んだ安倍首相が、まずアメリカに確認を求めたのが、尖閣諸島についてだった。両国は共同声明で尖閣は日米安保条約の適用対象であることを確認し、名指しこそしなかったものの中国を牽制した。しかし、アメリカは1972年の沖縄返還協定以来、尖閣の領有権に関してはどの国にあるか、態度を明らかにしない。日中台湾で解決すべき問題で、アメリカは関わらないと一貫して突き放している。
日本の外務省は、「尖閣諸島は日本固有の領土であり、なんら外交問題は存在しない。(日中国交回復の交渉でも)棚上げ合意はない」と主張する。しかし、大平正芳とキッシンジャーの会談に同席した米高官へのNHKスペシャルによる取材によれば、大平が「国交正常化で(日中は)尖閣問題に触れないことに同意した」と米側に報告していた。その際、「触れないこと」を tanaage (棚上げ)と表現した、と高官は証言する。
微妙な国際問題を、外交センスと知恵で乗り切っていた時代から学ぶ。

レビュアー

トップ・アンダーソン

とりあえずその場に行って確かめないと我慢できないフリージャーナリスト。南アフリカから北朝鮮まで、幅広く活動中。行った先に何もなくても、そこに思いを馳せらせる。