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「物凄いヤクザがいた!」竹中武の尋常でない魅力、全国民に知らせたい。

2017.08.04
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売春宿パンパン屋「25時」の跡を求めて姫路へ/竹中武と竹中組を巡る旅

本書『「ごじゃ」の一分 竹中武 最後の任侠ヤクザ』は、2代目竹中組組長であると同時に、異端なヤクザとして名を遺した竹中武氏(享年64歳)の人生と心境を徹底的に書き綴った書籍である。

この書籍、ヤクザにまったく興味がない人、絶対に書店で手に取らない人にこそ読んで欲しい。どういう気持ちで読むかは人しだいだが、「竹中武」という男がヤクザの中でも異端と言われた理由、それがこの書籍が語ろうとしている本質だ。


武氏の持つ魅力は尋常ではない

まったくヤクザに興味がない私だが、こんな人生もあるのかと、別世界を覗き見る気持ちで本書に没頭した。もともと自分を腐れ脳ミソだと思っているので、ちょっとした事では興奮しない私が興奮したのだから、武氏の持つ魅力は尋常ではない。

1943年、姫路市深志野町に生まれた武氏の家庭が凄まじい。武氏のほか、三男、四男、五男、六男がヤクザの道を歩んでいる点。それだけでフィクションの映画になりそうなシチュエーション。素質、資質、天性、いろいろな言い方があるが、まさにヤクザに成るべくして成ったかのような男。


反社会勢力のヤクザという存在

だが、ヤクザ業界では彼の言動は異質であり異端だったようだ。まず、堅気(我々一般人)を絶対に泣かさない。まさに映画やゲームに登場する「ヤクザだけど泣かしはしないぜ」的な気質だったらしく、さらに金儲けも上手くはなかったというのだから、ヤクザなのに親近感を覚える。そう、反社会勢力のヤクザという存在に対して「この人ヤクザなのに……」と我々に思わせてしまう魅力がそこにある。


イメージから逸脱

ただし、ヤるときはヤる男として、超武闘派とも呼ばれており、実兄が殺された際は「親の敵も討てんのやったらヤクザやめとけボケーッ!」とブチギレ激怒。凄みの断片を垣間見せたという。

一般人からすれば「ヤクザはこういうもの」というステレオタイプなイメージが頭の中にあると思うが、そのイメージから逸脱している部分が多々あり、それが「この人ヤクザなのに……」と我々に思わせてしまう魅力があるのかもしれない。


パンパン屋「25時」の存在

書評を書くにあたり、何より気になったのが、文中に登場するパンパン屋「25時」だ。パンパン屋とは売春宿のことで、性交渉をする際のパン! パン! パン!パン! アハン♪ウフン♪ イッ、イグゥゥゥ──ッ! などの音から生まれた言葉。武氏はたった18歳で売春宿の経営をはじめ、店名を「25時」と命名。姫路市の山陽姫路駅の裏側にてガッツリと稼いでいたという。武氏は、1961年、18歳で起業したわけだ。

金儲けが下手と言われていた武氏が開業したパンパン屋「25時」、なんとホステスとして松竹の女優もいたというのだから驚きだ。


武氏のヤクザ人生のはじまりを求めて

この地域で人生の伴侶となる奥さんをもゲットした武氏だが、その後トラブルが発生し、鑑別所へ。そのまま「25時」の営業を続けられなくなり、竹中組の最初の事務所として「25時」の物件を使い続けたという。もう、そのフロアからパン! パン! パン! パン! と音が聞こえることがなくなったのだ。癒やしの場として存在したパンパン屋がなくなっている……。もうパンパンできない……。「25時」の常連客は、そう寂しく思ったに違いない。

この場所、気になって仕方がない。いったいどんな場所なのか。そもそも武氏のヤクザ人生のはじまりであり、ターニングポイントと言っても過言ではない。さっそく、当時「25時」があった兵庫県姫路市南町の付近へ行ってみた。

昼間は寂しさが漂う

JR姫路駅と山陽姫路駅は隣接しており、周囲には山陽百貨店や姫路キャスパホールなどの商業施設が立ち並んでいる。もはや地方都市のメインシティと化している。

JR姫路駅から徒歩2分ほどの場所にある南町。アーケード付きの飲み屋街がズラリと並んでおり、夜はかなり賑やかになるようだが、昼間は歩行者も少なく、寂しさが漂う。

むしろイイ感じの飲み屋街

風俗店はなく、健全な昔ながらの居酒屋やスナック、オシャレなスーパーマーケット、美味しそうなラーメン屋が並んでいた。

昼間から飲める良さげな居酒屋があり、店内から賑やかな談笑する声が外に漏れていた。いやはや、ダークな雰囲気は皆無。むしろイイ感じの飲み屋街として、日常的に使いたい場所である。

残念という言葉が適切ではないかもしれないが、パンパン屋「25時」の面影はゼロだった。しかし、この周辺で武氏は人生のターニングポイントとなる「25時」を営業し、そして次なる道へと進んでいったのだ。1人の男のヤクザ人生と、竹中組が開幕する場となったのである。

たくさんの監視カメラ

現在、かつての竹中組の場はどうなっているのか。武氏に思いを馳せる上で、その場にも赴いてみたい。そう考えた私は、兵庫県姫路市安田にある、竹中組事務所付近へと出向いた。

この地域は住宅街であり、事務所自体も「豪華な民家」という作りであることから、直接的に正面からの撮影は控えたが、建物の周囲にはたくさんの監視カメラが設置されており、ときおり、パトカーが待機や巡回などをして見回っている。この日は事務所内に人の気配があり、複数の車が駐車されていたので、現在も関係者がいると思われる。

すぐそこには大通りがあり、美味しそうなハンバーグレストランや、自動車ブランドの店舗が並んでいる。監視カメラやパトカー以外に緊迫感はなく、いたって日常の風景が広がっている。武氏は、このヤクザと日常的な環境のなか、自身の特異なる気質でヤクザ街道を走りきったのだろう。


思いを馳せるには十分すぎる場

ここを聖地というのは控えたい。しかし、少なくともこの書籍に登場する主人公、武氏にとって「25時」と竹中組は人生の特異点であり、思いを馳せるには十分すぎるぐらいの場なのは確かだ。

今回、武氏の生まれ育った姫路市深志野町に追加取材をしようと考えていたが、時間切れとなり間に合わなかった。また機会があれば、立ち寄ってみたいと考えている。

……現在、竹中組の系譜としては、初代が竹中正久氏、2代目が安東美樹氏となっている。そこに武氏がどうからんでくるのか、それは本書を手に取って確かめてほしいが、少なくとも武氏の人生に平穏な日々は訪れない。その壮絶な状況で彼が下す判断、それがまさに異端。『「ごじゃ」の一分 竹中武 最後の任侠ヤクザ』、ヤクザの絆と自身のポリシーを貫く男の姿がそこにある。

  • 電子あり
『「ごじゃ」の一分 竹中武 最後の任侠ヤクザ』書影
著:牧村 康正

「兄貴が殺られたから言うとんの違う。山口四代目が殺られとるんじゃ。よう親の敵も討てんのやったら、ヤクザやめとけ、ボケーッ!」
山口組最高幹部だった竹中武は、兄・竹中正久(山口組四代目組長)が殺された「山一抗争」の政治決着を嫌って山口組を離脱。山口組を誰より愛しながらも敵に回し、孤立無援で闘い、そしてついに敗れなかった。
長いものに巻かれず、堅気を泣かさず、金儲けが下手だった武は、「こんな生き方しかでけへんのや」と時代遅れの頑固さを自嘲し、ヤクザ仲間にさえ疎まれることを承知で「筋(すじ)」にこだわり続けた。
本書は「最後の任侠ヤクザ」とも言われる竹中武の生涯を、初公開となる本人の肉声ビデオと最新証言でたどった本格評伝である。「山一抗争」「宅見暗殺」「五代目交代劇」「中野会問題」「二代目竹中組」などの隠された真相にも迫る。

レビュアー

トップ・アンダーソン

とりあえずその場に行って確かめないと我慢できないフリージャーナリスト。南アフリカから北朝鮮まで、幅広く活動中。行った先に何もなくても、そこに思いを馳せらせる。