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コロッケ独自の「ものまね創造力」を、誰もが必要な「マネる技術」に

マネる技術
(著:コロッケ)
2017.06.13
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「真似る」と「学ぶ」は同じ語源であることはよく知られていますが、「マネ」ながらさまざまなことを「学んだ」モノマネ名人・コロッケさんの心構え・モットーなどエッセンスが詰まった見事な1冊です。

習うより慣れろということわざがあります。人や本から教わるよりも、自分が練習や経験を重ねたほうが、よく覚えられるということを意味してます。コロッケさんの“学習法”はこれを篤実に実践されてきたんだと思わせるものがここにはあります。。

彼の篤実さはなによりもマネる芸能人への心からのリスペクトです。それは相手へきちっと挨拶をすることを心がけているから……だけではありません。相手への研究心(探究心)からきているように思えるのです。
──わかった気になって決め付けたり、固定観念で相手を見てしまったりすると、相手をまねているつもりでも、実際には自分のなかにあるいくつかのパターンに当てはめるだけになってしまいます。そうして少しも相手の本質には迫れず、面白くないものまねになってしまう。──

相手の仕草などをつかもうというプロ根性だけでなく、その人を作り上げているものへの信頼と愛情が感じられます。五木“ロボット”ひろしや北島“鼻孔”三郎にしてもどれだけパロディ風で演出していようと、相手をトコトン知ろう、トコトン付き合おうという気持ちに溢れています。コロッケさんの芸には、似てる・似てないというものを超えて、「自分はこの人を全身をかけてこう感じている」という思いが感じられます。長く人々に愛される所以です。

──変な先入観を持たない私の場合、見たまま、感じたままの相手の“大まかな雰囲気”を再現することができます。というより、先入観や固定観念がないために、感じ取ったものしか出せません。そこに、その人らしい具体的な癖やポイントをいくつか追加していくと、見た人に「似てる!」と言われるものまね芸になっていきます。──

「その人らしい具体的な癖やポイント」とはディテールへの注視です。それを発見(!)するには、相手に先入観を持ってはいけません。「相手を決め付けない」ことがなにより必要なことです。これは私たちにも身近なことだと思います。
──一般の世界でも、第一印象で人を決め付けてしまうと、相手の実像とは似ても似つかぬ偏見や先入観になってしまいがち。しかも、実際には違うのに、自分で勝手に「否定的な類型」に分類してしまうとやっかいです。相手との間に余計な壁を作ってしまうことになって、コミュニケーションに支障をきたしたり、関係が悪化したりと、「楽しいこと」がなにひとつ起こらなくなってしまいます。せっかくの新しい出会いなのに、発見もなければ、驚きもない、ブレイクスルーが起こることもない。ただただ、空虚な時間が過ぎていくだけ。──

相手を「色眼鏡を外してみる」ということ、これは結構、言うは易く行うは難し……。コロッケさんもこう続けています。
──簡単なようでとても難しいことです。でも、できない原因は、相手ではなく、むしろ自分の心のあり方にあります。──

別のところでコロッケさんはマネをすることには「勇気」が必要といっています。人のマネをすることは「大人の世界ではパクリ」といってネガティブに捉えられています。自分がマネをしていることを他人に知られると、つい「恥ずかしくなったり、否定したくなったり」してしまいます。こうなれば他人を冷静に観察することなどできません。
──むしろ、「まねしてる」って思われていいんです。だってそれは、自分をより成長させるために「有用なもの」を取り込んでいく第一歩になるから。だから、私は思います。大人になればなるほど、観察したり、まねたりする前にひとつ前提になる大切なものがあるって。それは、“勇気”。──

とても大事なことがいわれています。誰しも他者をまねることから出発しているにもかかわらず、いつからか「恥ずかしい気持ちやプライドが邪魔をして、何かを受け入れること」を拒むようになっているのです。まだまだ自分が新たなもの(=他者)を受け入れることで変わり続けることができるのに、自らその歩みを止めてしまっているのです。成長を放棄したといってもいいと思います。これをコロッケさん流でいえば「ものまねには完成がない」ということなのです。

勇気を持って歩み出し、決め付けることなく相手を観察する、それが相手(の存在や芸)への限りない愛情で裏打ちされている。それが分かるからコロッケさんは真似た相手からも好かれ、お客さんも楽しく受け入れているのでしょう。「真似る」と「学ぶ」は同じ語源、そこに敬意があるのはコロッケさんにしてみれば当然なのです。

相手の信頼を勝ちとればあとはこっちのもの(!?)、縦横無尽な解釈が入ります。観察力が重要なのはいうまでもありませんが、もうひとつ重要なのが洞察力。観察力で理解し、洞察力で見抜くのです。この洞察力の鍛え方はコロッケさんの個性が溢れているところです。少しあげてみます。
・相手の行動を項目化する。
・相手の生活リズムをイメージする。
・聞かれ上手になる。
・謙虚にうぬぼれる。

「聞かれ上手になる」というのはどういうことでしょう。「聞き上手」のさらに上をいくコミュニケーション術です。「聞き上手」が情報を引き出すのに役立つのはわかります。さらに「聞かれ上手になる」と「相手から知らない情報をもらったうえに、質問を受けるようになる」そうです。これは相手との距離を縮め、さらに相手に気を遣わせないことにもつながります。

「謙虚にうぬぼれる」も実にコロッケさんらしい考えだと思います。
──残念なことに、謙虚さの欠片(かけら)もなく、根拠もなく、ただ単に自分に酔っているだけの若者を見かけることもあります。そんな場面に出くわすと、私は本当に切なくなってしまう。なんかこう、すごく身勝手なんですね。(略)“上から目線”でいるのをカッコいいことだとでも思っているのかな? それはやっぱり悲しいな……。──
ここにコロッケさんの心情と真情が溢れていると思います。

コロッケさんの芸の本質にあるのは間違いなく“愛”です。相手への愛であり、芸への愛、お客さんへの愛、さらにちょっとばかりの自分への愛。それが全編にわたって感じられる好著です。芸人本とひと味違った、深い本です、コロッケさんのモノマネのように。読むとコロッケさんの芸がもっと楽しめるようになること、間違いありません。

  • 電子あり
『マネる技術』書影
著:コロッケ

「ものまね四天王」として一世を風靡したコロッケさん。その卓越したものまねは、もはや真似ではなく、オリジナルパフォーマンス芸の域に達し、いまでは海外からも認められる世界的なエンターテイナーとしての地位を確立しています。中でも、人体工学、機械工学の研究者もうならせるロボットパフォーマンス、顔の表情と声を異なる人物で演じるパフォーマンスは圧巻の至芸。止まることなく進化を続ける「レジェンド」です。
本書では、そんなコロッケさんが、自身の真似て、表現して、独自の創造を行うまでの秘密、また、常に第一線にあり続けるための秘訣を初めて開陳します。
働く人から学生まで、先人の知恵、情報、技術を真似て、学んで、自分なりのスタイルを確立していきます。その「守破離」のプロセスは、コロッケさんが日々突き詰めてきたこととまったく同じ。一流の表現者の創造の秘密を知る面白さと、自分自身に生かす知恵が融合する、楽しく読めてためになる1冊です。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。

note
https://note.mu/nonakayukihiro

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