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なぜ「朝ドラ」は面白くなったのか? 長期低迷から国民的ブームへの真相

みんなの朝ドラ
(著:木俣 冬)
2017.05.27
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私が幼い頃、母と祖母は毎日朝ドラを見ていた。そして朝っぱらから泣いていた。母はその後ダッシュで仕事に向かう。
「何が面白いんだろう? 何がそんなに泣けるんだろう? 仕事に遅刻しそうになってまでこの番組を見るのはなんでだろう?」
幼心に疑問だらけ。朝ドラの魅力などまったく理解できなかった。

思春期になっても『ふたりっこ』の双子の子役が可愛いなあ、と感想はそれだけ。朝ドラとは無縁のまま30うん歳になってしまった。しかし妊娠を機に暇ができ、ふと朝ドラにチャンネルを合わせてみたら、なんだこれは面白いではないか!! それからずっと虜(とりこ)である。

あえて「女の」ではなく「みんなの」というタイトルにしたのは、社会現象と朝ドラが非常にリンクしているからだと言う。私も最近の朝ドラは夫も楽しめるから見ればいいのに……と思う1人である。

全作品見ていなくても大丈夫。私もかの有名な『あまちゃん』『ゲゲゲの女房』を見ていなくても、楽しんで一気読みしてしまった。この本は歴代ヒロインたちに自分の人生を重ね、晴れやかなすがすがしい気分にさせてくれました。大丈夫、人生はこれから!という気分になった。

この『みんなの朝ドラ』は、2010年代、朝ドラの改革が起こって誕生した“朝ドラブーム”に作品を絞り(でも『おしん』と『私の青空』というそれ以前の最大の功績も含んでいる)、物語の時代背景はもちろんのこと、放送時の世の中のブームや他のヒットしたメディアとの関連を、女性らしい繊細な視点で分析している。民放のドラマや映画が好きな人には馴染み深い作品名がたくさん出てきて楽しいはず。

著者の木俣冬氏の分析によると、「放送開始初期は家族のドラマだった」という朝ドラは、次第に「歴史を動かした大きな出来事を舞台背景に、困難に打ちかっていきいきと前進していくヒロインの姿が、視聴者の心に突き刺さる」“女の一代記”に変化。そして「明るく・元気に・さわやかに」という朝ドラ3原則を現在まで踏襲している。

確かに朝は明るく元気な気分にさせてほしいと思う。私事ではあるが、仕事と育児に追われる30代以上の女は、鬱(うつ)ギリギリのところを生きている。些細なことで泣きたくなる。たぶん私だけではない。朝ドラの明るさに何度救われたことか!

ついでに言うと、朝ドラはヒロインがみな可愛くて癒(い)やされる。それを支える男性がまたそろってイケメンで、顔を拝むだけで朝から幸せになる。朝から美しいものをありがとう。それだけでも価値があるよこれは。

変遷の話に戻ると、1994年の『ぴあの』以降、2010年に入るまで、実は、長い低迷期を迎える。 

──朝ドラは視聴者の世代交代がうまくいかないまま、続いていく。いま振り返れば、朝ドラは現代の働く女性や主婦に寄り添おうとしながら、彼女たちのもとめるところ──娯楽への欲望──に近づけていなかったのではないか。──

そして、この本がメインで取り上げた2010年以降の作品に革命が起きた。いや、作品の質が変わったと同時に放送時の時代背景や、SNSの使われ方と朝ドラがようやくリンクした瞬間だったのだろう。
──2010年以降の朝ドラの人気を高めたのは、内容そのものや時間帯の変更のみならず、「一人ではなく、みんなで楽しむ」といいスタイルが確立されたことも大きく影響していると考えられる。
そこでは、先にあげた「あま絵」、「ツイッター」、『あさイチ』の「朝ドラ受け」が多大な役割をはたした。──

わかる、わかりますとも、「発信と連動させること」の面白さ!! 朝ドラでやったことはないけれど、平野レミさんの放送事故料理番組を見ながらツイートしまくる快感、そして仲間との連帯感といったら!!(笑) 
なるほど朝ドラでも同じ楽しみ方ができるのか。

「あま絵」とは登場人物やドラマの感想をイラストにしたもの。ハッシュタグに「あま絵」をつけてTwitterに投稿し、プロの漫画家まで参戦したりして、老若男女が楽しんでいた。盛り上がりすぎて「あま絵祭り」にまで発展した現象。

「朝ドラ受け」とは『あさイチ』で司会のイノッチや有働アナが「いやー、○○の気持ちわかるなあ!」といった具合に、直前の朝ドラの感想を言う番組の始め方のこと。批判や苦情もあるそうですが、私は大好き。視聴者の気持ちを代弁してくれて共感が生まれるというか。悲しい回の時には有働アナの泣き顔で番組が始まったりして。

すべてに共通して言えるのは「一体感」。みんなが見て、みんなが同じように笑ったり泣いたりしてこの時間・体験を共有しているという感覚。人と繋がっていたいという本能を叶えてくれる。
朝ドラがそのツールとして使われるようになったのです。

──100作近くなって、それだけの伝統(女の一代記、ホームドラマ、明るくさわやかな雰囲気)を守り続けたうえで、時代に合った新しい工夫を加味してきたからこその楽しみがある。もはや朝ドラは、古典芸能のひとつと言っていい。──

なるほど、『ゲゲゲの女房』『あまちゃん』から大きな変化を遂げた朝ドラが、今後も日本人・日本文化の鏡としてどのように変化していくのか、大いに楽しみになりました!

朝ドラファンはもちろん、興味がなくて見ていなかった方にもお薦めの『みんなの朝ドラ』。この本で朝ドラと時代との関わりを感じ、現在の怒濤の面白い流れ「朝ドラブーム」に乗ってみませんか。これから朝ドラはもっと熱くなる予感がします!

  • 電子あり
『みんなの朝ドラ』書影
著:木俣 冬

一時期、低迷していた朝ドラは、なぜ“復活”したのか。
おしん、ちゅらさん、ちりとてちん、ゲゲゲの女房、カーネーション、あまちゃん、ごちそうさん、花子とアン、マッサン、あさが来た、とと姉ちゃん、べっぴんさん、ひよっこ……。

名作の魅力を解き明かすとともに、朝ドラが時代の鏡として日本人の姿をどれくらい映し出してきたかを、考察。

「SNSでの反応って気になるものですか?」
「朝ドラだからできること、できないことの制約ってあるのですか?」
朝ドラの“気になるところ”を脚本家に聞いてみた、制作者インタビューも特別収録!
ファン待望、著者渾身の朝ドラ論!

あなたにとって、「思い出の朝ドラ」は何ですか?

レビュアー

野本紗紀恵 イメージ
野本紗紀恵

一級建築士でありながらイラストレーター・占い師・芸能・各種バイトなど、職歴がおかしい1978年千葉県2103生まれ。趣味は音楽・絵画・書道・舞台などの芸術全般。某高IQ団体会員。今一番面白いことは子育て。

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