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日本沈没を急ぐ「チーム・アホノミクス」の企みとは? 最強論客が暴く!
(著:佐高 信/浜 矩子)
「安倍首相は幼児的凶暴性の強い人」と警鐘を鳴らした(日刊ゲンダイDIGITAL2017年3月19日)浜矩子さんと辛口な論調で知られる佐高信さんが、アベノミクスに代表される安倍晋三政権の欠陥をあぶりだした対談がこの本です。
アベノミクスの3本の矢には新・旧ふたつあります。初めの3本の矢は、
1.大胆な金融政策
2.機動的な財政政策
3.投資を喚起する成長戦略
というものでした。
新しい3本の矢は
1.希望を生み出す強い経済
2.夢を紡ぐ子育て支援
3.安心につながる社会保障
というものです。
すぐに分かるように、旧3本の矢に比べ新3本の矢は“政策”とは呼びにくいものです。旧3本の矢が妥当な政策であったかどうかは別としても、少なくとも政策の顔を持ってはいました。それに対して新3本の矢は政策というより“雰囲気・目標”を示しているだけです。それは新3本の矢が目指しているという「一億総活躍社会」という掛け声が空虚感を感じさせることと見合っているようです。バラバラな思いつき以上ではありません。
「経済の好循環」「財政再建と経済成長の両立」という掛け声はどうなったのでしょうか……。
──日銀総裁の黒田春彦が二〇一六年九月二一日、アベノミクスの「総括的な検証」の記者会見で、「柔軟性や持続性を確保するために、(金融緩和を)さらに強化して長短金利操作付き量的・質的金融緩和にした」と発言した。これまで進めてきた金融政策を抜本的に転換する発言で、端的にアベノミクスの失敗を意味しているわけですが、安倍はむろんのこと、黒田自身もそのことを理解しているとは思えません。問題をどんどん先送りして責任から逃れているだけではないか。──(佐高さん)
ついで2人は、金融政策の要である日銀が本来の中央銀行の役割を逸脱していると指摘しています。中央銀行は政府から独立し「政権と拮抗して牽制役を果たすことが、通貨価値の番人たる中央銀行の役割であり、ひいてはそれが民主主義を守ること」につながるものです。けれど、今の日銀は「国債をせっせと買い込む」「政府の専任金貸し業者と化して」いるのです。安倍総理の「政府と日銀は親会社と子会社みたいなもの。連結決算で考えてもいいんじゃないか」という発言はそれを証しています。
ともあれ大胆な金融政策ではデフレ脱却にはつながりませんでした。さらに「デフレ脱却を考えると国債を返し過ぎだ。国債は実質的には日銀が全部引き受けている。いまはマイナス金利だし、実質的に借金は増えない」という首相の発言にまでなると、もはやなんだかわかりません。国債の償還をやめれば国債の信用度は失墜し国家経済の破綻につながることはギリシア危機を見れば明白です。このような発言の中からも「安倍首相は幼児的凶暴性の強い人」という浜さんの主張が聞こえてくるようです。
この本で「どアホノミクス」と酷評されたアベノミクスはなにをもたらしたのでしょうか。まずはっきりとあげられるのが“格差拡大”です。小泉純一郎・竹中平蔵がもたらした新自由主義(市場至上主義)を引き継いでいることの影響です。当初トリクルダウンというものが新自由主義(市場至上主義)を正当化(!?)していました。牽引車となるべき産業、事業者を成功させて、その余剰によって底上げをはかるというものです。富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちるというわけです。もちろんこんなことは起きません。それどころか、当初主張していた竹中氏は、自ら「トリクルダウンはありえない」と主張を変えました。記憶に新しいと思います。旧3本の矢以来、アベノミクスの旗振り役だった竹中氏のこの変節はメディアでも話題になりました。
ではこの変節を受けてアベノミクスは方向転換したのでしょうか。相変わらずそのままです。それどころか首相は「アベノミクスは第2ステージに移る」と宣言し、突き進んでいます。このアベノミクスを“正当化”するのは株価の上昇です。(トランプ相場もやや曇りがちになってきましたが……)
この株価についても浜さんは苦言を呈しています。
──株価は高ければ高いほどいいということになっているらしい。とてもじゃないけど、これを経済政策とは言えない。そこにあるのは、強いものをより強くし、大きい者をより大きくし、勝ち組が徹底的に勝ち続けることによって世界の中心で輝くのだという発想でしょう。──
格差の拡大は経済的貧困を増大させるだけでなく、倫理の退廃ももたらしています。その退廃をもたらしているものの1つに「自己責任」というものがあります。これは勝ち組・負け組の二分法と結びつき、負け組批判の根拠にされました。勝者の驕りでしかありません。そしてこれは敗者の排除の根拠になったのです。
この「自己責任」というものが声高に言われるきっかけになったのは、奇しくも小泉純一郎政権の時でした。
──二〇〇四年のイラク日本人人質事件のとき、バッシングが起き、まさに自己責任だと攻撃された。成田空港まで出向いて、帰国したばかりの被害者に罵声を浴びせた人たちがいたのには本当に驚きました。むしろ当時のパウエル米国務長官のほうが、「イラクの人々のために、危険を冒して現地入りする市民がいることを、日本は誇りに思うべきだ」と発言したほどです。──(佐高さん)
被害者(=弱者)への容赦のない攻撃の口実になったのが「自己責任」というものでした。この時から「自己責任」は弱者攻撃の理由とされてきたのです。「自己責任」「自己努力不足」……これらを他者に押しつけるのは“強者の論理(排除の論理)”でしかありません。
けれど厄介なのはこの“論理”が弱者対弱者の攻撃に入り込んでしまったということです。
──日本ではネトウヨや在特会(在日特権を許さない市民の会)が生活保護受給者を攻撃しています。自分が社会的弱者であることを自覚することなく、弱者の側に立つ反体制運動を確立できない現状のなかで、弱者が弱者を叩く構造だけが迫り上がってきてしまう。──(佐高さん)
弱者が弱者を排除する、自己を弱者に追いやった者として、他の弱者を攻撃する……。これは退廃以外のなにものでもありません。
アベノミクスは経済社会の良識(不均衡の是正)を破壊しただけでなく、社会良識も破壊しています。その政権が導入する道徳教育がなにをもたらすのか、パン屋を和菓子屋に変えればいいというような姑息な方針が出てくること自体が退廃を象徴しています。2人の批判は単に経済問題向けられたものだけではありません。私たちの知性やメディアを含めた「日本の劣化」にむけられたものです。舌鋒の鋭さだけでなく、そこからの脱出法もちりばめられています。熱い1冊です。
- 電子あり
安倍首相、黒田日銀、御用学者たちによる「チーム・アホノミクス」は、この国をどうしようと目論んでいるのか。大メディアの記者たちは、その目論みに気づいていて報じないのか、それとも気づいていないのか。そして、トランプ大統領誕生は、日本と世界にとって何を意味しているのか。初顔合わせとなる稀代の辛口論客ふたりが、徹底討論!
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。
note
https://note.mu/nonakayukihiro
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