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トム・クルーズ『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』は日本の剣豪小説だ!

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講談社文庫の人気翻訳シリーズ、ジャック・リーチャー。米陸軍警察捜査官としての華やかな経歴を捨てて、全米を放浪するアウトロー。旅の途中で不可解な事件に巻き込まれ、鮮やかな活躍で難敵を倒す全米ベストセラーシリーズです。リーチャーの無頼でクールな姿は、日本の剣豪小説を思わせます。

新作『ネバー・ゴー・バック』では、美人少佐のスーザン・ターナーとリーチャーが冤罪で陸軍に捉えられ、営倉に閉じ込められます。軍の黒幕がふたりを罠に陥れた理由とは。牢を破ったふたりを追う軍、FBI、警察。リーチャーとスーザンは広大なアメリカを逃亡しながら陸軍が隠匿するある秘密組織に迫ります。

日本では11月10日に公開されるトム・クルーズ主演映画『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』は、この原作を息の詰まるアクションサスペンスに仕立てています。話題の映画を観るまえに、ぜひご一読を!(編集担当)

2016.11.15
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『ネバー・ゴー・バック(上)』書影
著:リー・チャイルド  訳:小林 宏明

トム・クルーズ主演映画原作!

ジャック・リーチャーが米陸軍第110特別部隊に戻され拘束された。傷害致死と不貞行為の嫌疑は身に覚えがない。同じく勾留されている女性少佐スーザン・ターナーとリーチャーに、軍は何かを隠している。所持金30ドルで営倉を脱出したふたりの行方は……。スピート感溢れる全米ベストセラーシリーズ待望の新刊。

『ネバー・ゴー・バック(下)』書影
著:リー・チャイルド 訳:小林 宏明

冤罪をでっち上げられ、軍に追われるリーチャーとターナー。 FBI、首都警察もふたりの姿を懸命に探る。 ヴァージニアの営倉から、大陸を横断して疑惑の地ロスアンジェルスに辿り着き、 身の潔白を証明できるのか。 軍の幹部が秘匿する大スキャンダルの真相とは――映画化で話題沸騰の最強アクション・サスペンス。

【解説】 翻訳者、小林宏明氏が語る、全米大ヒットシリーズの魅力とは……

本書は、リー・チャイルドが二〇一三年にものしたNEVER GO BACKを翻訳したものだ。一九九七年から二〇一六年までの十九年間で全二十一作が書かれたジャック・リーチャー・シリーズの十八作目にあたる。

少し異例になるが、このシリーズの著作リストを先に書いておく。括弧内は邦題、年号は原作が上梓された年だ。

Killing Floor(キリング・フロアー)(一九九七年)

Die Trying(反撃)(一九九八年)

Tripwire(警鐘)(一九九九年)

Running Blind(英国での書名は The Visitor)(二〇〇〇年)

Echo Burning(二〇〇一年)

Without Fail(二〇〇二年)

Persuader(二〇〇三年)

The Enemy(前夜)(二〇〇四年)

One Shot(アウトロー)(二〇〇五年)

The Hard Way(二〇〇六年)

Bad Luck and Trouble(二〇〇七年)

Nothing To Lose(二〇〇八年)

Gone Tomorrow(二〇〇九年)

61 Hours(61時間)(二〇一〇年)

Worth Dying For(二〇一〇年)

The Affair(二〇一一年)

A Wanted Man(最重要容疑者)(二〇一二年)

Never Go Back(ネバー・ゴー・バック)(二〇一三年)

Personal(二〇一四年)

Make Me(二〇一五年)

Night School(二〇一六年)

以上のうち、訳者によって二〇〇〇年から邦訳されたのは本書を含めるとわずか八作で、そのリストは以下のとおりだ。

キリング・フロアー(上・下、講談社文庫、二〇〇〇年)

反撃(上・下、講談社文庫、二〇〇三年)

警鐘(上・下、講談社文庫、二〇〇六年)

前夜(上・下、講談社文庫、二〇〇九年)

アウトロー(上・下、講談社文庫、二〇一三年)

最重要容疑者(上・下、講談社文庫、二〇一四年)

61時間(上・下、講談社文庫、二〇一六年)

ネバー・ゴー・バック(上・下、講談社文庫、二〇一六年)


こうしてみるとわかるが、邦訳はかならずしも作品発表順ではない。原作ではあとに書かれた『最重要容疑者』のほうが、先に書かれた『61時間』より先に翻訳されている。また、原作の三作目まではともかく、そのあとは順次訳されているわけではなく、ピックアップされて訳されている。スタンドアローン的な作品はそれで問題ないが、じつをいうと、本書は原作で四つまえ、邦訳ではひとつまえの作品『61時間』の続編とも考えられ、それを読んでいないとストーリー展開に戸惑いをおぼえてもおかしくない。


本書に登場するスーザン・ターナーは、『61時間』ではリーチャーと一度も会っていなくて、電話ですてきな声だけを聞かせた女性だ。〝あたたかで、少しハスキーで、少し気息が混じり、少しあだっぽい〟声の持ち主である彼女を、リーチャーは〝ブロンドで、三十五歳以上ではなく、三十以下でもない……たぶん背が高く、たぶん美人〟と想い描いた。

のちには、彼女がブロンドでない長い髪で、身長は百七十センチ、よく陽に焼けた肌をしていることを、電話で直接本人から聞く。『61時間』では、彼女はアフガニスタンに派遣された、と短く書かれて作品の最後を締めくくられている。そして原書ではそれから四作後の本書で、彼女はある境遇に陥った状態で再登場を果たすのだ。

本書では、ヴァージニアまでスーザン・ターナーに直接会いにいったリーチャーも、軍とのトラブルをふたつもかかえ込む境遇に陥る。ひとつは傷害致死にかかわる訴訟で、もうひとつはいわゆる民事の訴訟だ。どちらも陸軍にいたころの古い出来事にまつわるもので、傷害致死容疑の訴訟は通称ビッグ・ドッグという民間人の武器商人を死に至らしめた、というリーチャーにはおぼえのないものだっだ。彼は当時マシンガンを軍から横流ししていたビッグ・ドッグを軍警察官として問いつめたが、そのときはいっさい暴力をふるっていなかった。にもかかわらず、ビッグ・ドッグは脳挫傷などがもとで後日死に、その責任がリーチャーにあるというのだった。


いっぽう民事の訴訟は、リーチャーが一時韓国に駐屯していたころアメリカ人の女性と付き合い、彼女とのあいだに子供をもうけたという相手の言い分に由来するものだった。こちらの件も、リーチャーにはまったくおぼえがなかった。そのアメリカ人女性は、帰国してから女の子をティーンエージャーになるまでリーチャーにだまって育ててきたが、近年の不況のあおりを食らってホームレス状態になったため、せめて子供の父親の援助を受けてしかるべきと訴えてきたのだった。

昔部隊長を務めていた古巣に立ち寄って、いきなりふたつもトラブルをかかえ込むとはどういうことなのか? 彼は窮地に陥ったスーザン・ターナーを救おうとしていたが、そのこととなにか関係があるのか? 裏に軍の謀略でもあるのか? 

しかも、彼は強引に軍に再入隊させられたあげく、軍の施設に勾留されてしまう。だが、同じく勾留されていたスーザン・ターナーを伴って営倉を脱走するのだ。そして、ふたりは当然追われることになる。当初の所持金はたったの三十ドルだったが、なんとかふたりはピッツバーグまでやってくる。リーチャーはそこの空港から、まだ見ぬ子供とその母親に会いにロサンジェルスへ飛ぶ。ところが、FBIも含む追っ手は、ふたりが手に入れた偽のクレジットカードの使用状況からふたりの足取りを追い、しぶとく迫ってくる。

ふたりは追っ手をかわせるか? リーチャーは傷害致死の嫌疑を晴らせるか? そして、子供と母親に無事会い、過去を清算できるのか? さらには、スーザン・ターナーの窮地まで救うことができるのか? いままでに一度もないくらい多くの難題をいっぺんにかかえ込んだジャック・リーチャー。

本書は、二〇一六年に『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』(邦題)として映画化された。第九作『アウトロー』の場合と同じで、ジャック・リーチャーを演じたのはトム・クルーズだ。本人は巨漢ではないが、クールで頭の切れるリーチャーには似合っている。クルーズは、製作にもくわわっている。

監督はクルーズとともに『ラストサムライ』を撮ったエドワード・ズウィック。ヒロインであるスーザン・ターナーを演じるのは、『アベンジャーズ』シリーズで活躍するコビー・スマルダーズ。TVドラマ・シリーズ『プリズン・ブレイク』で著名なロバート・ネッパーも出演しているが、彼の役〝ハークネス将軍〟は本書に出てこない。同じくTVドラマ・シリーズ『ヒーローズ』に出演していたダニカ・ヤロシュも出演している。シンガポール出身の女優スー・リン・アンサリも出演している、とネットに書いてあったが、少なくとも本書にアジア系の名前のヒロインは登場しない。クルーズ=リーチャー・ファンはもちろん映画を楽しみにしていいが、映画は原作をかなり脚色していることを念頭においたほうがいいだろう。

トム・クルーズは、一九六二年七月三日生まれだから、二〇一六年現在五十四歳だ。自分で訳してきながら小説の主人公ジャック・リーチャーの生年月日を忘れてしまったので、ネットで調べてみたら、一九六〇年十月二十九日ベルリン生まれであることがわかった。だとすれば、ふたりは同年代だが、リーチャーのほうがクルーズより二歳年上ということになる。今後どの作品が映画化されるかわからないけれども、今後もリー・チャイルドが作品を書きつづけ、映画がつくられるとしたら、もしかして六十歳を越えたリーチャーを、クルーズがどうタフにクールに演じるのか見ものになるだろう。

二〇一六年十月 小林宏明

小林宏明

1946年東京都生まれ。明治大学英米文学科卒。リー・チャイルド『キリング・フロアー』『前夜』、パターソン『血と薔薇』(以上講談社文庫)、エルロイ『LAコンフィデンシャル』(文春文庫)、カハナー『AK-47』(学習研究社)、ウォンボー『ハリウッド警察特務隊』(早川書房)ほか翻訳書多数。著書には『小林宏明のGUN講座』(エクスナレッジ)、『図説 銃器用語事典』(早川書房)、『銃』(学研パブリッシング)などがある。

リー・チャイルド

1954年イングランド生まれ。地元テレビ局勤務を経て、'97年に『キリング・フロアー』で作家デビュー。アンソニー賞最優秀処女長編賞を受賞し、全米マスコミの絶賛を浴びる。以後、ジャック・リーチャーを主人公としたシリーズは現在までに19作が刊行され、いずれもベストセラーを記録。本書は18作目にあたる。2012年にシリーズ9作目の『アウトロー』(原題『ONE SHOT』)が映画化され、さらなる注目を集めた(日本公開は2013年)。

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