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【禅の教え】心に庭をつくる──自分を解放し、成長や生活を見通すために
(著:枡野 俊明)
僧侶で作庭家の枡野俊明さんはセルリアンタワー東急ホテル日本庭園、カナダ大使館庭園の制作や『日本庭園の心得』『禅僧とめぐる京の名庭』『夢窓疎石―日本庭園を極めた禅僧』など造園ついて、さらに禅僧として庭と禅との関係について数多くの著作があることで知られています。
その庭と禅との関係に思いを凝らした枡野さんは“心につくった庭”というものを考えるようになったのです。
──私は日頃「庭」を「心の表現」の場だと言っている。それは二つに分けることができる。その一つは、禅僧として今日まで修行を重ねてきた私自身の心の表現、即ち「自己の表現」。二つ目は、客をもてなす亭主の立場に立った「心の表現」である。(略)私はこの二つの精神的表現を総称して「心の表現」と言っている。──
では“心につくった庭”とはどのようなものでしょうか。
──そのときの自分の心のままに庭をつくってみる(略)その「心の庭」には、そのときどきの心が風景として映し出されるはずです。──
「心の庭」は、移り変わりやすく、とらえどころのない“自分の心”を映し出し、「ありのままの心と出会える場所」なのです。僧侶であると共に造園家でもある枡野さんならではの考え方だと思います。
心の庭にたたずむ自分、それは「本来の自分に戻れる場所、自分がもっとも落ち着いていられる場所」です。
──たとえそれが寂しさを抱えたものであっても、ごまかしがないから安らかなのです。ごまかせば心は騒ぎます。乱れます。──
「ほんとうは寂しいのに『寂しくなんかないんだ』とごまかしてみたり、つらいのに『こんなものなんでもない』と強がってみたり」……と。そのような自分を解放する場が「心の庭」なのです。
わたしたちは思っているよりも自分の心をつかんでいるわけではありません。思惑、願望、希望、欲望が心の姿を見えにくくしています。ありのままの心が見えにくいのは誰もがさまざまな思いからくる“力み”というものを持ちがちだからです。
それだけではありません。現代社会の情報過多やスピードの速さが自己を見失うことを加速させています。止まることを許さないような風潮、結論づけることを急いでいるようにしかみえない風潮、それらが「心」と向き合うことの難しさに拍車をかけています。
“力み”を忘れ、そっと立ち止まること、それが心に平穏をもたらすのではないでしょうか。もっとも、自分の心を置いておくという「心の庭」でも、それが最初から完成されているわけではありません。自分の現在の力以上のものはできないからです。ですから肝心なのは一度作った「心の庭」をより美しくするべく心がける必要があります。
これは「心の庭」での過ごし方にかかわります。「心の庭」にはそのときの等身大の自分が投影されています。だからといって必ずしも居心地がいいということにはなりません。自分を知ることの助けになる「心の庭」を見ることによってかえって自分の“未完成さ”にも気が付くこともあるからです。それもまた「心の庭」が私たちに必要な理由だと思います。そして今の私たちの心のように「心の庭」も常に変化していくものなのです。
「心の庭」は自己省察のためだけではありません。「心の庭」がもたらす豊かさを知ることも“庭作り”の助けになると思います。
それにはどのようなものがあるのでしょうか……。「心に余裕が生まれる」「ひらめきがやってくる」「心のゴミが捨てられる」など27の効用(!)がこの本ではあげられています。庭作りというクリエイティブなものがもたらす効用、作った庭を見て、その中で時間を過ごすことから生まれてくる心への効用、それらを説く枡野さんの筆致は時に芸術家として、時に禅僧としての滋味あふれるものがあります。
「心の庭」を作ることは自分の成長や生活に自覚的になることです。また、つまずきのようなことを感じている人には光明をもたらしてくれるでしょう。「気づきや発見」をもたらす「心の庭」を作ること、それは自分への癒(い)やし以上のものなのだと思います。そしてそれは「人生のどんなに厳しい場面も正面から引き受け、乗り切っていく」ための大きな助けになるのではないでしょうか。まずは庭をイメージしてみましょう。どのような造園をされるでしょうか。それが今の自分の心の姿であり、すべての始まりなのですから……。
──自分の心の内をしっかり見つめ、そこで気づいたり、発見したものでなければ、乗り越えるためのてがかりとはなり得ないのです。「心の庭」と向き合うことは、まさしく、心の内を見つめることです。──
レビュアー
編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。
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https://note.mu/nonakayukihiro
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