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英語なんていらない!?──インドの天才コンサル、日本人の魅力を絶賛

インドと日本は最強コンビ
(著:サンジーヴ・スィンハ)
2016.07.02
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日本とインドの国民性の違いを詳細にわたって語っているこの本を読むと、お互いの長所を生かした交流をすればお互いの欠点を補い、素晴らしい関係が築けるだろうことがよく分かります。

あたりまえとも思えることですが、実はこの「長所」「欠点」が自分に分かっているかというと……意外と落とし穴があるようです。短所、長所も先入観からまぬがれないところがあると思います。スィンハさんの独特の「長所」「欠点」を発見する力は素晴らしいもので“天才コンサルタント”と呼ばれる力がよく分かります。

映画『踊るマハラジャ』がタミール語で作られていたためヒンディー語圏のスィンハさんには理解できなかったというエピソードがありますが、「インド人は国内で留学状態」といってもいい国柄だそうです。「ヒンディー語は第一公用語」とはいえ「使われるのはインド北部が中心。話せない人間も多い」そうです。そのためもあるのでしょうが、インドでは高等教育は英語で行われています。これが欧米でインド人が活躍しやすい土壌を作っています。

では、日本でも英語化が必須かというと、さにあらず、スィンハさんはとても公平な意見を持っているようです。
──日本では、なんでも日本語で楽しめますから、英語の上達には却って障害になるかもしれません。グローバルは人材の育成という意味でも、不利ではあるでしょう。ただ、それは見方を変えれば素晴らしいことでもあるのです。映画でいえば、アメリカのエンターテインメント大作も、ヨーロッパの芸術映画も。それにインドの映画だって、日本語で気軽に楽しむことができる、ということです。──

明治の先人は欧米思想と苦闘し、さまざまな概念を日本語に翻訳しました。それは英語化の促進には負の遺産かもしれませんが、欧米の観念・概念を日本語にすることが日本の教育・学術水準を引き揚げたことも確かです。日本が「文化的にも、豊かな国」である証しだと思います。

ですからスィンハさんは安易なグローバリゼーションを肯定してはいません。
──現代はグローバル化の時代です。あらゆる面で欧米と同じ規準が求められる。しかし私は思うのです。すべてにおいてグローバル化する必要などないのではないかと、日本と日本人ならではのよさを失ってしまってはいけないのではないか、と。──

この本の面白さはスィンハさんが私たちに気づかせてくれた日本人ならではの良さにあります。とはいっても禅や京都に象徴されるような、いわゆる外国人(欧米人)の“和”の発見ではありません。

それどころか私たちが自分たちの“欠点”と思っているものが、実は“長所(強み)”だということに気づかせてくれます。

たとえばこんな指摘があります。日本人には強いリーダシップを持つカリスマがいないといわれて、かえってカリスマ性やリーダーシップをもてはやしていますが……、
──日本では強力なカリスマ性で人々を引っ張るのではなく、目立たなくても尊敬されることで人々に影響を与える存在こそが「リーダー」のではないでしょうか。うえから、あるいは前から引っ張るのが欧米型のリーダーシップ。しかし、日本の場合は、下から、もしくは裏から支えるかたちでリーダーシップが発揮されるのだと思います。──

──日本はジョブズのようなカリスマに引っ張られなくても、みんなの力でうまくやっていくことができる社会を作り上げたのです。いってみればカリスマがいらない国、ジョブズのようにはなれない大多数の人々にとって生きやすい国……それが日本なのです。──

こういう視点で、はっきりといってくれる人は少ないと思います。気になったところをいくつか列挙してみます。
──日本の意思決定が遅いということは、しっかりと情報を集め、綿密に計画を練ることの結果でもあるからです。だからこそ、いったんスタートしてしまえば、間違いが少なく、スムーズに仕事を進めることができる。──

──「人の目を気にする」というのは「右へ倣(なら)え」的に見えて独創性がない……そんなネガティブなイメージがつきまといます。(略)しかし、ことマナーに関していえば、「人の目を気にする」のは、良いことではないでしょうか。「人の目を気にする」ということは、周りの人たちと「やってはいけないこと」の感覚を共有することでもあります。──

さらに変わった視点を感じたのは、
──日本で孤独に悩む人がいるのは、一人でも生きていけるだけの環境が整っているからではないでしょうか。──

どうでしょうか、スィンハさんの独創的な視点を感じないでしょうか。いたるところに日本へのリスペクトを感じさせる創見があふれています。もっとも少し日本にひいき目過ぎるような気もしないではないですが……。

対してインドへの指摘は厳しいところがあります。欧米志向になっていることがもたらす危うさなどへの警鐘、そこにこそスィンハさんの“愛国心”があるのでしょう。

このスィンハさんの“見識”がこの本の最大の魅力だと思います。彼が日本の良さをスィンハさん流に見出したように、私たちはインド(だけでなく諸外国)の良さを発見しているでしょうか。どのような信頼も相手の国へのリスペクトがない限り築き上げることはできません。また、自分の国に対しても、発展や成長という目の前のものに溺れることなく、正当に評価・批判できるでしょうか。

先入観を疑い、発見と新しい価値の付与にはスィンハさんの天才コンサルタントの資質というものが感じられます。自省をする必要がありそうです。それともうひとつ、この本は政治屋さんや経済屋さんが言うような中国包囲網としての印日友好論では決してありません。

──アメリカ的な文化はシンプルでストレートですから、よその文化にも浸透しやすいですし、作り上げるのは簡単です。しかし、日本は正反対。その素晴らしさと、脆(もろ)さを外国人の視点から指摘したい、そんな気持ちで本書を執筆しました。──
こんな優しい視点をもった日本論はそうないと思います。どこか安堵と新たな活力を生んでくれる1冊です。

レビュアー

野中幸宏

編集者とデザイナーによる書籍レビュー・ユニット。日々喫茶店で珈琲啜りながら、読んだ本の話をしています。政治経済・社会科学から芸能・サブカルチャー、そして勿論小説・マンガまで『何でも見てやろう』(小田実)ならぬ「何でも読んでやろう」の二人です。 note https://note.mu/nonakayukihiro

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