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原発事故は「エリート人災」。日本を滅ぼすマインドセットとは?

2016.04.02
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本書は、後世の日本人が21世紀の前半を振り返った際に、警世の書として高い評価を受けるだろうと信じてやまない。

東日本大震災の9ヵ月後に国会に設置された「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会」、通称「国会事故調」の委員長をつとめた黒川清氏による、渾身の日本論である。著者であり事故調の委員長でもある黒川氏は、医師であり、日本学術会議の会長、東大教授や政策研究大学大学院の教授などを歴任した、第一級の知識人である。

国会事故調は、日本の憲政史上初めて行政府から独立して国会(立法府)に設置された、法的調査権を付与された民間人からなる調査委員会であった。委員長を含めて総勢10名の構成で、元国連大使、都市防災に詳しい地震学者、放射線医学を専門とする医学博士、弁護士等がメンバーだった。

国会事故調は、東日本大震災を「規制の虜に陥った人災であった」と結論づけた。事故調の活動により黒川氏は2013年に「科学の自由と責任賞」を受賞した。

詳しくは本書を読んで頂きたいが、東日本大震災は、適切な規制をすべき行政が規制対象の東京電力に取り込まれたうえに、もともと行政府の権力が強く三権分立のチェックアンドバランスが効かない関係にある我が国にあって、本来高貴なる義務を負うはずのエリートの不作為、怠慢、無責任さが被害を加速させた前代未聞の人災だった、というのが、黒川氏の主張である。そしてその根本原因には、日本に特有の事情があると指摘している。その一つに、日本人のマインドセットを挙げている。

――福島第一原発事故の根源にあったのは、全体を俯瞰せず部分最適しがちな日本社会特有の力学や、問題を先送りしがちな『エリートたち』の責任回避の姿勢、新卒一括採用・年功序列・終身雇用を当然のこととするマインドセットだ。――

筆者が何より残念だったと思うのは、事故の後、海外から差しのべられた様々な支援をほとんど活かせなかったことだ。本書でも指摘があるが、フランスの原子力関連企業大手アレバの支援の申し出にも明確な反応を示さず、アレバのCEOのロベルジョン氏が海江田経産大臣に、福島第一原発の各号機がどのような状態か尋ねても、炉心溶融が起きていることを公の場で言及することがタブーであったため情報を提供しなかったと言われている。

そして、この点について筆者の執筆時点(2016年2月25日)で驚くべきニュースが飛び込んできたので、以下引用する。

――東京電力は、福島第一原発事故当時の社内マニュアルに、核燃料が溶け落ちる炉心溶融(メルトダウン)を判定する基準が明記されていたが、その存在に5年間気付かなかったと発表し、謝罪した。事故では1~3号機で炉心が溶融して大量の放射性物質が漏れた。当時の社内テレビ会議のやりとりなどから、東電幹部らが当初から炉心溶融の可能性を認識していたことが分かっているが、東電は5月に炉心溶融を正式に認めるまで、会見などでは「炉心溶融」を使わず、核燃料が傷つく状態を意味する「炉心損傷」と説明していた。2016年2月25日 朝日新聞デジタルより――

無責任ここに極まれり、モラルも社会への責任も放棄したかのような認識であると思うのは筆者だけだろうか?

黒川氏の真骨頂は、官僚の情報の隠ぺい体質のほか、ジャーナリズムの役割、失敗から学ばない体質など、目下の日本の病巣に鋭く切り込んでいるところである。さらに、批判だけでなく根本的な対策案として、新たな教育のありかたについて言及している点が、氏が優れた知性の証明となっているように思える。

本書はすべての日本人に読んで頂きたい一冊である。

レビュアー

望月 晋作 イメージ
望月 晋作

30代。某インターネット企業に勤務。年間、150冊ほどを読破。

特に、歴史、経済、哲学、宗教、ノンフィクションジャンルが好物。その中でも特に、裏社会、投資、インテリジェンス関連は大好物。

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